イベント/長寿/終了

【開催報告】第7回 慶應-スタンフォード Webinar(2022.1.22開催)

2022.02.20
第7回 慶應-スタンフォード Webinarを開催

2022年1月22日(土)に、第7回 慶應-スタンフォード Webinarを開催されました。本ウェビナーは、Stanford School of Medicine, Department of Anesthesiology, Perioperative and Pain Medicine(SLDDDRS)、慶應義塾大学医学部生理学教室、Keio University Yagami Data Security Labが主催する形で実施され、KGRI、一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン (LINK-J)、科学技術振興機構 (JST)による後援を受けております。
本ウェビナーには、国内外からアカデミア・企業問わず約150名もの参加があり、非常に関心度の高いものとなりました。

今回は、最近のホットトピックスである"Glial Cell Biology"をテーマとし、4名の演者による講演が行われました。開講にあたり、岡野栄之教授(慶應義塾大学医学部生理学教室、Head of International Advisory Board of SLDDDRS)がOpening Remarksを行い、今回で7回目を数える慶應-スタンフォードウェビナーの意義と、同ウェビナーのテーマである"Glial Cell Biology"についての概説がなされました。


引き続いて、国内外でグリア細胞と疾患モデルに関する最前線の研究を行っている4名の研究者による講演が行われました:

  1. 基調講演1では、ハーバード大学医学部のMarius Wernig教授(Co-director, Insitute for Stem Cell Biology and Regenerative Medicine)が、中枢神経疾患における次世代の細胞治療法について講演を行いました。まずWernig教授らは、脳血液関門が存在するにもかかわらず、骨髄移植後、microglia-depletion brainにミクログリアが置換されることを見出しました。さらに、マウス脳内に生着した造血系幹細胞(hematopoietic stem cells, HSCs)が、ミクログリアに近い形態や遺伝子発現パターンを獲得し、突起がダイナミックに変化していることも発見しました。これらの研究成果は、アルツハイマー病など様々な神経変性疾患に対する細胞治療につながる可能性を秘めています。

  2. 基調講演2では、山梨大学医学部薬理学講座の小泉修一教授が、ヒトミクログリアを非侵襲的にマウス脳に移植する、"経鼻移植法"の開発に関する講演を行いました。小泉教授らはこの技術を用いて、マウスの大脳皮質、海馬などにヒトiPS細胞由来ミクログリアを移植し、それらが生着することを見出しました。その結果、ミクログリアがヒト細胞に置き換わったヒト化マウスの作成に成功しました。これまでの多くの移植研究では、マウスなどげっ歯類のミクログリアが使用されてきたため、ヒトミクログリアの脳内での働きや、疾患および老化の仕組みは明らかになっていません。今後、小泉教授の研究により、ヒトミクログリアを使ったin vivo研究や、新しい細胞治療法の開発が期待されます。

  3. Short Talk 1では、慶應義塾大学医学部生理学教室の森本悟特任講師により、ヒトiPS細胞からアストロサイトへの新規分化誘導法(iPast)開発、および患者iPastを用いた筋萎縮性側索硬化症(ALS)関連疾患におけるアストロサイト特異的な病態の解明および治療法開発について紹介されました。本邦の紀伊半島には、特徴的なタウ病理を示すALS(Kii ALS/PDC)が多発します。森本講師らはiPastの技術を利用し、Kii ALS/PDC患者からアストロサイトを作製し、ミトコンドリア機能やグルタミン酸取り込み能などのアストロサイトの重要な機能が障害されていること、そして薬剤でそれらの機能回復が得られることを見出しました。今後当該モデルを用いることで、Kii ALS/PDCの病態解明や創薬が加速していくと思われます。

  4. Short Talk 2では、慶應義塾大学医学部生理学教室の孫怡姫(D3)が、ヒトiPS細胞からミクログリアへの新規分化誘導法の開発について紹介しました。ミクログリアは脳実質内唯一の常在免疫細胞であり、多くの神経変性疾患のリスク遺伝子がミクログリアに発現していることから、近年注目を集めています。孫らは転写因子の過剰発現により、ヒトiPS細胞から高効率にミクログリアを分化誘導する方法を開発し、マウスの一次培養神経との共培養や、マウス脳内への移植といった疾患解析モデルの構築を試みました。今後、様々な神経変性疾患研究へ当該モデルが適用でき、疾患の病態解明につながることが望まれます。


その後、演者と両国の著名な研究者(Irving Weissman教授、岩本愛吉教授)をパネリストに迎え、視聴者も交えて活発な質疑応答が行われ、それぞれの演者の研究内容がさらに深まるとともに、新たなアイデアや視点も数多く生まれていました。

最後に岡野栄之教授とPeter Kao教授(Stanford University School of Medicine, SLDDDRS)がClosing Remarksを行い、第7回目となる慶應-スタンフォードウェビナーは、盛会裏に終了となりました。


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【開催案内】
第7回 慶應-スタンフォード Webinar(2022.1.22開催)

【開催報告】
第1回 慶應-スタンフォード Webinar「Neurodegenerative Diseases」(2021.1.30開催)
第2回 慶應-スタンフォード Webinar「Organoids」(2021.3.20開催)
第3回 慶應-スタンフォード Webinar「Regenerative Medicine」(2021.5.29開催)
第4回 慶應-スタンフォード Webinar「Sleep」(2021.7.17開催)
第5回 慶應-スタンフォード Webinar「Transdifferentiation by Manipulating Transcriptional Factors」(2021.10.16開催)
第6回 慶應-スタンフォード Webinar「Frontiers of molecular cell biology and its implementation in society」(2021.11.6開催)