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【開催報告】第6回 慶應-スタンフォード Webinar(2021.11.6開催)

2021.11.22
第6回 慶應-スタンフォード Webinarを開催

2021年11月6日(土)に、第6回 慶應-スタンフォード Webinarを開催しました。今回のテーマは、Frontiers of molecular cell biology and its implementation in societyでありました。Stanford School of Medicine, Department of Anesthesiology, Perioperative and Pain Medicine(SLDDDRS)、慶應義塾大学医学部生理学教室、Keio University Yagami Data Security Labが主催し、KGRI、一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン (LINK-J)、科学技術振興機構 (JST)が共催しました。ウェビナー形式で約100名の参加がありました。1時間半にわたり内容の濃いWebinarとなりました。

先ず、岡野栄之教授(慶應義塾大学医学部生理学教室、Head of International Advisory Board of SLDDDRS)がOpening Remarksを行い、この慶應-スタンフォード Webinarの意義と今回のWebinarのテーマである、分子細胞生物学の最前線とその社会への実装 (Frontiers of molecular cell biology and its implementation in society) についての説明がなされました。


引き続き、3名の教授による講演が行われました。

  1. 基調講演1では、スタンフォード大学医学部 Virginia and D.K. Ludwig Professor of Cancer ResearchのHoward Y. Chang教授が、「Personal Regulome Navigation」との演題で発表されました。冒頭、遺伝子発現の制御における長鎖非コードRNA(lncRNA)とエピゲノムアプローチとATAC (Assay of Transposase Accessible Chromatin)-seqについてお話がありました。

    次に、PD-1阻害剤 (T細胞活性化後にT細胞表面に発現する抑制性受容体) に対するT細胞の応答が、既存の腫瘍浸潤T細胞(TIL)の再活性化に依存していのか、それとも新規T細胞のリクルートに依存しているのかは、不明であった点に言及され、基底細胞がんに対する抗PD-1療法前後のサンプルで、シングルセルRNA(scRNA)とT細胞受容体(TCR)でのペアシークエンスを行った結果、PD-1阻害に対するT細胞の反応は、腫瘍に侵入したばかりのT細胞クローンの異なるレパートリーに由来することを報告されました。

    また、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞についてもご発表されました。 CAR-T細胞は抗腫瘍効果を媒介しますが、その疲弊による機能不全が問題となっており、c-Junの機能欠損が疲弊したヒトT細胞の機能障害を引き起こすこと、そしてCAR T細胞でc-Junを過剰発現させることで疲弊しにくくなることを明らかにされました。

    免疫療法における神経毒性にも言及されヒトの血液脳関門の壁細胞に発現しているCD19が重要な役割を果たしていること、CRISPR-Cas9技術を用いたがん免疫療法の治験の話もされ、盛りだくさんの内容となりました。

  2. 基調講演2では、慶應義塾常任理事/医学部皮膚科学教室の天谷雅行教授が、角質層が生成される過程で生じる、ケラチノサイトの機能的細胞死であるCorneoptosis(コルネオトーシス)について「Corneoptosis, functional cell death of keratinocytes」という演題で講演をされました。

    角質層を形成するには、細胞核やミトコンドリアなどが消失することが必要ですが、どのように消失していくのかの詳細はわかっていませんでした。コルネオトーシスは角質を形成するのに必要なネクローシス、アポトーシスについで3番目の皮膚表皮細胞死として発表されました。角層の内側にある顆粒層細胞の細胞死の過程では、細胞内のCa2+濃度が高いまま細胞内が酸性化し、これにより核の消失が生じており、また、温度感受性カルシウムチャネルであるTRPV3がこの過程を制御していることも発表されました。

  3. 基調講演3では、慶應義塾大学医学部システム医学講座の洪実教授に、「The structure and dynamics of a human gene regulatory network」との演題名でヒトゲノムにおける転写因子の大規模解析についてご講演いただきました。

    転写因子は、細胞運命に決定的な役割を果たすことが知られています。洪教授は以前、テトラサイクリンで制御されるマウスES細胞株を作成し、Cdx2が最も広範なトランスクリプトームの変化を引き起こしていることを明らかにしました。その後ヒトES細胞を用いた、さらに大規模な研究へと発展してきました。

    ヒトゲノムに存在する20~30%相当のTFを収集し、これらを主とする714遺伝子を対象に、ヒトES細胞の細胞運命の決定における機能を推定する大規模な解析を行いました。714遺伝子を導入したヒトES細胞を、合計2,135のヒトES細胞株を樹立するというとても大規模な研究のご発表でした。また、511遺伝子については、導入48時間後のトランスクリープトームデータを取得したところ、ゲノム中に存在する、ほぼ、全ての遺伝子が、誘導した511遺伝子によって制御されており、ヘテロクロマチンに存在する遺伝子も、特定のTFを誘導することで、発現が誘導されるという大変興味深いものでした。また未発表データも合わせて提示され、TFが初めて網羅的に解析されたことで、細胞運命を決定づける分子機構がさらに解明されると予想されました。


質疑応答も活発に行われ、パネリストおよびaudienceから活発な質疑応答が行われました。

岡野栄之教授とPeter Kao教授(Stanford University School of Medicine, SLDDDRS)がClosing Remarksを行い、今回のWebinarについての総括が述べられました。また、今後は対面でのカンファレンスが行われることを願い閉会となりました。


SLDDDRS_6

【開催案内】
第6回 慶應-スタンフォード Webinar(2021.11.6開催)

【開催報告】
第1回 慶應-スタンフォード Webinar「Neurodegenerative Diseases」(2021.1.30開催)
第2回 慶應-スタンフォード Webinar「Organoids」(2021.3.20開催)
第3回 慶應-スタンフォード Webinar「Regenerative Medicine」(2021.5.29開催)
第4回 慶應-スタンフォード Webinar「Sleep」(2021.7.17開催)
第5回 慶應-スタンフォード Webinar「Transdifferentiation by Manipulating Transcriptional Factors」(2021.10.16開催)