2024年度 KGRI Working Papers
KGRI Working Paperは、KGRI所員およびKGRI研究プロジェクトのメンバー等が、研究の成果を学術論文や書籍等により正式に発表することに先立ち、Webサイトで公開することにより、研究所内外の研究者による利用、ディスカッションに供することを目的としています。そのため、査読前のもの査読中ものなど、様々なバージョンのものがあります。
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Calibrating Social Theories of Digital Technology based on Japan's COVID-19 Response: Surveillance Capitalism and Cyber Civilization
No.3 Harald Kümmerle
August, 2024
COVID-19パンデミック時のデジタル技術は、大きな期待に応えなかった。これにより、今後のデジタル技術活用方法の理解が深まる。日本の対策は特に興味深く、指標のパフォーマンスの面でも技術の面でも韓国や中国と異なっていた。
初年度の不振により、2021年2月に日本はアジア太平洋諸国を見習い、ゼロコロナ戦略を追求する提案がなされた。当時、排除戦略の優位性は、疫学的有効性と合理性で正当化されていた。
これらの主張は説得力があったものの、最終的には通用しなかったことも、ショーシャナ・ズボフの監視資本主義の観点から、正当でない社会物理学の影響力で説明できる。対照的に、日本のスパコン「富岳」を活用した飛沫・エアロゾルシミュレーションは、排除を目的としない対策に役立った。國領二郎のサイバー文明論は、これらの対策と信頼の関連性を理解するのに有用であり、自粛の重要性を考慮することは理論のさらなる発展に資する。
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Conditions for Peace: Conflict Resolution by Diplomacy and Coercive Measures
No.2 相良 祥之
May, 2024
本稿では外交と強制的手段による紛争解決に不可欠な条件として、NCPMI(拒否権が行使されない、平和的解決へのコミットメント、政治的な痛み、相互に痛みが耐えがたい膠着状態、イニシアティブ)という条件を提示した。とりわけ1994年のハイチにおける強制外交とカーター合意をケーススタディとして、これらの条件が満たされていたことを説明した。安保理において拒否権が行使されなかったこと(すなわちコンセンサス)および米国による強制力の効果的な行使の役割に着目し、アリスティド大統領の復権につながった経緯を検討した。本稿の分析は政策当局者が紛争解決のための戦略を策定するにあたり参照できるフレームワークを提供することも意図している。
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Japan Beyond Asia: How the Middle East could be integrated into the Indo-Pacific Geostrategy
No.1 小林 周
May, 2024
日本は石油需要のほとんどを輸入に頼り、その約9割を中東に依存している。一方、中東では米国の関与低減とともに域内の政治・安全保障情勢が大きく変化している。エネルギー安全保障や国際秩序維持の観点から、日本の対中東外交も変革を迫られている。
安倍晋三元総理が中東に積極的に関与したのは、中東地域の安定が日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要であるだけでなく、同地域が不安定化する中でテロや武力紛争が増加していたためである。また、安倍政権は「積極的平和主義」を掲げ、国際秩序の安定に貢献する観点から中東の安定化への関与を強調してきた。
この点で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想/戦略は地政戦略(geo-strategy)および多国間協力メカニズムとして、日本の中東外交における軸となり得る。しかし、インド太平洋地域に中東、そしてアフリカ地域が含まれるのか否かについては、FOIP構想/戦略を主導するクアッド諸国(日・米・豪・印)の間でもコンセンサスはない。
中東地域が大きく変動し、米国の関与低減とともにロシアや中国の政治的・軍事的プレゼンスが拡大している現状は、日本の経済活動や安全保障にも大きな影響を与える。日本はエネルギー安全保障のみならず、シーレーンの安全確保やリベラルな国際秩序の維持、そしてインド太平洋における地政戦略の観点から、中東との関係を深化・拡大・多様化させる必要がある。
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