論理と感性のグローバル研究センター

   

センター概要

21世紀COEプログラムとグローバルCOEプログラムを継承し、人の判断や行動における論理と感性の関わりについて多層的に解明することを目的とする。特に、哲学、倫理学、論理学、美学・美術史学、文学、考古学などの人文科学系手法と心理学、行動科学、教育学、発達科学、医療人類学などの社会科学系手法を中心に、神経科学、認知科学、情報科学系手法を加えて、論理と感性の学際的な研究を行う。これを通じて人間のより深い理解を目指すとともに、成果の社会還元も目指す。学際性、国際性、若手研究者育成を重視している。

2022年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

これまでの分野横断的で多層的な方法論による研究テーマを継続的に発展させる。具体的には、以下の取り組みを推進させる計画である。

  1. 双生児のMRIによるresting stateのネットワーク解析、才能の発現を示唆するライフイベントの聞き取り調査、教育動機の行動遺伝学的調査を行う。
  2. 発達支援の効果の解析のため、変化をグラフで表しフィードバックするアプリを完成させる。また、リハビリテーションにおける動作支援の実現を目標とし、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)プログラムを構築する。
  3. 学術変革の科研のプロジェクトを発展させ、米豪中国との共同研究であるアジアの精神医療に関する国際シンポジウムを慶應で企画し、アメリカ医療人類学会のテキストブックを編集する。
  4. 感情の神経基盤に関する研究、感情の基礎的側面に関する行動研究、および自律神経活動に関する研究を継続する。
  5. 定型発達児とリスク児の認知機能についての縦断研究を継続して行う。
  6. オセアニア環礁の気象災害誌、ニューギニア民族資料の歴史人類学の研究を継続する。
  7. 「心」と「判断・行動」に関わる哲学、認知、および情報科学的アプローチの分野横断的融合を行う。
  8. 美的享受と感情的覚醒の関係、顔コミュニケーションと対人魅力認知、文化的人工物の外的知覚と使用行為の表象、宗教的体験の脳内基盤、アートの効用に関する検討を行う。
  9. 人体をモチーフとした20世紀彫刻における色彩の問題についての研究、ハイパー・リアリズムの模倣性の高いポリクロームの人体像について、問題整理を行う。
■2022年度の新規活動目標と内容、実施の背景

人間の判断や思考における「論理」と「感性」はそれぞれ独立でははなく、互いに補完的に働いていることがこれまでの研究から明らかになってきた。論理的処理系と直観的・感性的処理系はこれまでしばしば独立で対立的デュアルシステムと理解されることが多かった。2022年度の研究において、我々はこの「論理」系と「感性」系の関係をさらに踏み込んで互いにどのように補完的役割を果しているかを明らかにしていく。人文科学的「心」研究、神経科学的「脳」研究、行動科学的「身体」行動研究は十分に成熟した段階にある。これらの成果を基にして、「心―脳―身体」系という学際的観点から「論理」と「感性」の相互依存的―相互補完的関係を多層的に捉える必要があり、学際的研究活動を継続する。より具体的には、

  1. これまでの研究成果の理論面を多層的にさらに整理する。また「論理」的側面と「感性」的側面について、理論的研究、被験者実験、フィールドワークを通じて兼空する。「論理」と「感性」の補完性の研究も研究対象とする。
  2. 我々の新たな研究成果を用いた応用研究をさらに行う。子供の論理と感性の発達の支援、発達障がい児支援、支援者トレーニング、地域へのアウトリーチ、よい意思決定や論理判断ができるグラフィック情報支援、人の健康や安全のための環境デザインへの応用などを考察する。
  3. これまで進めてきた(A)分野融合研究体制、(B)国際連携関係、(C)若手研究者育成の成果の整理をさらに進めて、研究計画に活かしていく。特に、4年後に迎えるセンター10年満期の総合成果まとめに向けて研究を進める。

具体的研究例:ヴァイマル・バウハウスの色彩ゼミナールの全容を解明、芸術鑑賞行動の生態学的妥当性に関する検証、「意思決定と論理的・認識的不一致」についてに関し哲学・論理・認知の観点からの総合的検討、地域精神医療における精神科医たちの実践をデザインの観点から検討、多摩地域における精神科病院の脱施設化に関するフィールド調査および研究

2021年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

新型コロナウイルスの影響により、実験・調査の実施に制限を受けたが、実施可能な範囲での研究を継続し成果を上げた。例えば次の点で予想以上の成果が上がった。

  1. 人間の「心・脳・行動」の統合的な解明に向けて、特に「心」と「判断・行動」に関わる哲学、認知、情報科学の分野融合的アプローチのもと、前年度にひきつづき、哲学グループ、論理・意思決定グループのセンター構成員と共同研究員が、論理と感性の研究を予定通り進展させることができた。
  2. 美的享受と感情的覚醒の関係について、ウェブ実験、視線計測、fMRI実験による研究を実施し、両者の関係性について検討を行った。
  3. うつ病の参加国比較について、Lancetに筆頭著者で論文が掲載された。日本精神神経学会機関誌にも論文が掲載され、また主著であるDepression in Japan がペルシア語に翻訳された。
  4. 教育格差に及ぼす親の社会経済的地位・親のしつけや教育環境、本人の学習行動、そして遺伝の相対的寄与を小学生から高校生まで明らかにした。教育動機の因子構造に関するweb調査を実施した。
  5. 主に人体をモチーフとした20世紀彫刻における色彩の問題についての研究に取り組んだ。特に、ハイパー・リアリズムの模倣性の高いポリクロームの人体像について、サイズの問題に注目し、ロン・ミュエクという作家について考察を進めた。
  6. 教育格差に及ぼす親の社会経済的地位・親のしつけや教育環境、本人の学習行動、そして遺伝の相対的寄与を小学生から高校生まで明らかにした。教育動機の因子構造に関するweb調査を実施した。
  7. ピアサポーター・ピアスタッフと呼ばれる精神障害当事者の福祉事業所職員へのインタビュー、関連団体でのフィールドワークを通して実際の業務における成果と課題を明らかにした。

達成度:成果は予想以上であり、充分な達成度であったと考える。



■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

主な出版論文数: 91本, 主な雑誌 Current Biology, IEEE Journal of Biomedical and Health Informatics, Research in Autism Spectrum Disorder, Current Psychology, Electronic Proceedings in Theoretical Computer Science, East Asian Science, Technology and Society, Aesthetics, The Lancet、科学哲学、認知科学、国立民族学博物館研究報告

学会発表件数(国内・国際) : 101件(うち国内75件、国際26件)

主なイベント: 2021年11月27日:センター共催 特別講演会「アート的感性・思考・表現と科学的営為」(三田)
2021年12月20日:センター共催 特別講演会「コミュニティのデザイン 無目的な出会いから」(三田)
2022年01月15日:センター主催 Disagreement in Logic and Reasoning 会議(オンライン)
2022年03月03日:センター主催 センター年度末成果報告会 (三田、オンライン)

TBS「やってみようよSDGs地球を笑顔にするTV」、東洋経済プラス「保育の質の向上に評価の「見える化」が有効」記事掲載、Webサイト『チャイルド・リサーチ』記事掲載、など多数。

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄
  1. 11ヵ国15研究室による国際共同研究に参画し、鳥類15種間の大規模比較実験を行い、新規物への忌避(嗜好)性あるいはその情動メカニズムが、集団サイズと都市定住性という生態要因と共に進化したことを明らかにし、Current Biology誌に発表した。
  2. 名古屋大学医学部との共同研究において、感情の神経基盤としての島皮質の役割を明らかにし、脳腫瘍における摘出範囲の慎重に考慮することが提案でき、術後の認知機能低下を最小限に抑えることにつながる貴重な研究成果をCortex誌に発表することができた。
  3. 土偶の外的印象や感じられる表情に基づいて、土偶の制作時代(縄文前中期/縄文後晩期/古墳時代)の分類化を示し、それらの年代が顔の形態の外的特徴によって異なることを示すことができた。
  4. 心理学の再現性問題と、それを受けた信頼性革命(credibility revolution)とオープンサイエンスの導入について議論する ReproducibiliTea Tokyoを主催し、そこでの議論を踏まえ、現状と将来について論じる論文を、科学哲学会の発行する「科学哲学」に執筆した。
  5. 「イサム・ノグチ 発見の道」展カタログに寄稿した参考文献が掲載された。同展覧会はコロナ禍のために会期中1ヶ月間の臨時休館を余儀なくされながらも11万人もの人々が訪れたことからも、この彫刻家の重要性もさることながら、一般の人々の関心も非常に高いことが伺われ、今後の研究活動及び教育普及に貢献できたと考えられる。
  6. 「Fairness, Integrity and Transparency of Formal Systems: Challenges for a Society Increasingly Dominated by Technology」と題する国際シンポジウムのコーディネートおよび、ユネスコ世界論理デーを記念する国際ワークショップ Aspects of Logic Study: Disagreement in Logic and Reasoning (WLD2022) を論理と感性のグローバル研究センターの主催により開催した。
  7. 地域の診療所での精神医療の実践のフィールドワークを行い、当初精神科医らによる意思決定を主題としていた研究について、デザインという新たな切り口の重要性を発見した。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに4. 質の高い教育をみんなに
17. パートナーシップで目標を達成しよう17. パートナーシップで目標を達成しよう

設置期間

2014/04/01~2024/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名所属研究機関職位研究分野・関心領域
◎ 梅田 聡 文学部 教授 認知心理学、神経心理学、認知神経科学
安藤 寿康 文学部 教授 教育心理学、行動遺伝学
ヴォルフガング エアトル 文学部 教授 倫理学史、形而上学、現代倫理学
斎藤 慶典 文学部 教授 哲学、倫理学
遠山 公一 文学部 教授 美学、美術史
奈良 雅俊 文学部 教授 現代フランス哲学、医療倫理学
松田 隆美 文学部 教授 英米・英語圏文学
伊澤 栄一 文学部 教授 実験心理学、神経行動学
川畑 秀明 文学部 教授 認知科学、感性情報学、教育工学、教育心理学、実験心理学
北中 淳子 文学部 教授 医療人類学、多文化間精神医学
平石 界 文学部 教授 社会心理学
後藤 文子 文学部 教授 美術史
皆川 泰代 文学部 教授 認知神経科学、心理言語学、発達心理学
寺澤 悠理 文学部 准教授 基盤・社会脳科学、実験心理学
木島 伸彦 商学部 准教授 社会心理学、教育心理学
峯島 宏次 文学部 准教授 哲学・倫理学
三村 將 医学部 教授 神経心理学、老年精神医学
今井 倫太 理工学部 教授 知能ロボティクス、知能情報学、認知科学
今井 むつみ 環境情報学部 教授 認知科学
前野 隆司 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 知能機械学、機械システム
杉本 智俊 文学部 教授 西アジア考古学、聖書考古学、旧約聖書学
山口 徹 文学部 教授 地域研究、考古学、文化人類学・民俗学
柏端 達也 文学部 教授 行為論、現代形而上学
山内 志朗 文学部 教授 西洋中世・近世思想、倫理学と形而上学
松浦 良充 慶應義塾/文学部 常任理事/教授 比較大学史・大学論、高等教育思想史、アメリカ教育史、教育学教育論
藤澤 啓子 文学部 教授 教育心理学
小倉 孝誠 慶應義塾大学 教授 仏文学