水分子の生命科学・医学研究センター

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センター概要

我々は「Water Biology(水分子の生物学)」という斬新な概念を提唱し、生命現象を水分子動態から包括的に理解しようとしている。本センターは、「水」という共通テーマに対して、物理化学、生物学、医学の最先端の知識、技術を融合することで、生体における水分子動態の物理化学的理解を深め、生物学・医学的への応用を目指している。

キーワード・主な研究テーマ

水分子、アクアポリン、MRI、多光子顕微鏡、近赤外分光、分子動力学計算

2020年度 事業計画

■2019年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
  1. 水を観るプロジェクト:
    モルモット膵管二重還流をCARS顕微鏡で観測し、前年度に引き続き、経細胞水移動と細胞間水移動を定量的に解析することを試みる。経上皮水の移動の定量化、モデル構築を目標とする。急性マウス脳スライスを用いて、脳実質内における水動態の観測を進める。浸透圧負荷がかかった時の変化も検討する。
  2. 水を知るプロジェクト:
    シミュレーションモデルを用いて生体内における水動態の統合的理解を目指す。昨年度に完成されていたモデルの精度向上と実用化を試みる。すなわち、水負荷や塩負荷時の変動を変動を予測する。開放系における検討も進める。特に浸透圧との関係をしっかりと検討していきたい。
  3. 水を操るプロジェクト:
    (1)AQP4の制御機構と脳のリンパ流の生理と病理の解明を目指す。具体的には、
    1)マウスの発達・加齢によるAQP4の発現・局在の変化を捉える、
    2)AQP4欠損マウスを用いて、脳実質の拡散や対流の変化を観測する、
    3)AQP4欠損マウスをアルツハイマーモデルと掛け合わすことで、アルツハイマー病病理におけるAQP4の役割を解明する。アルツハイマーモデルマウスに関しては、一種類ではなく複数のモデルを解析する。
■2020年度の新規活動目標と内容、実施の背景
  1. 水を知るプロジェクト:
    皮下の間質液の「糖ー水のダイナミクス」から相対的血糖値を予測する数理モデルの開発を行う。
  1. 水を操るプロジェクト:
    老化に伴うAQP2の制御機構の変化とそのメカニズムの解明を目指す。具体的には、
    1)マウスの発達・加齢によるAQP2の発現・局在、バソプレッシンによる反応性の変化を水制限モデル等を用いて検討する。 2)慢性的な水負荷時における、AQP2の発現・局在への影響を検討する。AQP2は哺乳類における生体水バランスの最も重要なアクアポリンである。
    今回はライフサイクルおよびサーカディアンリズムという時間軸でその変化を解析していく。

2019年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
  1. 水を観るプロジェクト:
    モルモット膵管二重還流をCARS顕微鏡で観測し、経細胞水移動と細胞間水移動を定量的に解析することを試みた。試行錯誤を重ねる中で、膵管二重還流はほぼ問題なく行うことができるようになった。更に、管腔内の水のCARSシグナルを得ることにも成功した。本年度は、それらのデータ解析を進め、上皮水透過のモデル構築を行う基盤を固めた。
  2. 水を知るプロジェクト:
    (1)排卵日予測に向けた、月経周期における女性ホルモン変動と皮膚の近赤外光スペクトルの相関関係解析:さらに被験者を増やし、検証を進めていった結果、ほぼ100%に近い形で、排卵日前後3日を他の日から分類することができた。
    (2)シミュレーションモデルをもちいた生体内での水動態の統合的理解:昨年度末に完成されていたWhole Body Water dynamics simulation program ver.5 (WBW5)に、i)心拍出系への拍動流の導入 (WBW6)、ii)大動脈および大静脈のマルチセグメント化(WBW7)を行った。その結果、大動脈内圧については、拍動およびセグメントに沿った最大血圧ピークの遅れと拍動圧の低下を再現するのに成功した。また、大静脈内圧については、微小な拍動圧を伴った軽度の陰圧の再現に成功した。水の出入りを加味した開放系における動態解析も試みる。今後は、浸透圧を加味したモデルへと発展させていく予定である。
  3. 水を操るプロジェクト:
    AQP4は哺乳類の脳に発現しているアクアポリンで、最近特に脳のリンパ排泄のメカニズムとの関連が注目されている。さらにはアルツハイマー病の病態生理における役割も明らかになりつつある。そこで、本プロジェクトでは、AQP4の調節分子機構に関する検討を行う。また、トランスジェニックマウスモデルを用いてAQP4とアルツハイマー病との関連を明らかにする。AQP欠損マウスにおいては加齢とともに行動異常が著明になることが確認された。今後はそのメカニズムをしっかり解明していきたい。

公刊論文、学会発表、イベントなど社会貢献の実績

主な出版論文数:5件
主たる公刊誌名:Proc. Natl. Acad. Sci. USA, J. Phys. Chem. A., Mol Neurobiol, J Neurochem, B: Biointerfaces

  1. Monai H, Wang X, Yahagi K, Lou N, Mestre H, Xu Q, Abe Y, Yasui M, Iwai Y, Nedergaard M and Hirase H. Adrenergic Receptor Antagonism Induces Neuroprotection and Facilitates Recovery from Acute Ischemic Stroke. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 116 (22): 11010-11019 (2019).
  2. Nuriya M, Yoneyama H, Takahashi K, Leproux P, Coudrc V, Yasui M, Kano H. Characterization of Intra/Extracellular Water States Probed by Ultrabroadband Multiplex Coherent Anti-Stokes Raman Scattering (CARS) Spectroscopic Imaging. J. Phys. Chem. A. 123 (17): 3928-3934 (2019).
  3. Ozawa Y, Toda E, Kawashima H, Homma K, Osada H, Nagai N, Abe Y, Yasui M, Tsubota K. Aquaporin 4 Suppresses Neural Hyperactivity and Synaptic Fatigue and Fine-Tunes Neurotransmission to Regulate Visual Function in the Mouse Retina. Molecular Neurobiology 56, 8124-8135 (2019).
  4. Hayashi MK, Nishioka T, Shimizu H, Takahashi K, Kakegawa W, Mikami T, Hirayama Y, Koizumi S, Yoshida S, Yuzaki M, Tammi M, Sekino Y, Kaibuchi K, Shigemoto-Mogami Y, Yasui M, Sato K. Hyaluronan synthesis supports glutamate transporter activity. J Neurochem. 150(3): 249-263 (2019).
  5. Momotake A, Mizuguchi T, Hishida M, Yamamoto Y, Yasui M & Nuriya M. Monitoring the Morphological Evolution of Giant Vesicles by Azo Dye-based Sum-Frequency Generation (SFG) Microscopy. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces Volume 186, February 2020, 110716.

学会発表件数(国内・国際) : 13件

  1. Conference organized by Department of Clinical Neurology, Kyoto Univ.(1/29 in Kyoto)
  2. Japanese Society for Microcirculation Symposium (2/9 in Omiya)
  3. The Biophysical Society 2019 annual meeting (3/3 in Baltimore)
  4. Society for Primary Noctural Enuresis (3/9 in Tokyo)
  5. Keio University Faculty of Science and Technology 80th Anniversary Event "Medicine-engineering Tie-up Symposium" (6/8 in Yokohama)
  6. Joint annual meeting of JSCB(Japan Society for Cell Biology) & 19th PSSJ(Protein Science Society of Japan) (6/23 in Kobe)
  7. The 7th Alliance Forum Foundation Conference (8/31 in Mishima)
  8. The 2nd International Pneumohemia Conference (9/14 in Beijing)
  9. The 100th Keio Medical Society Symposium (10/26 in Tokyo)
  10. KaohSiung Medical University (11/3 Taiwan)
  11. The 2rd EAJ(Engineering Academy of Japan) International Committee Forum (11/23 in Tokyo)
  12. CIEA In vivo Experimental Medicine Symposium (11/27 in Tokyo)
  13. Open Group GIS forum(12/4 in Tokyo)

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

脳実質における水動態の可視化が可能となった。AQP4とアルツハイマー病との関連を検討するためのモデルマウスの開発し、それらが著明な表現系を示すことを発見した。

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位