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【開催報告】シンポジウム「デジタル社会における『新聞』とは何か」② アフターセッション(学生討論)開催レポート

2021.12.16

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開催風景より。(撮影:菅原康太)

KGRI「2040独立自尊プロジェクト」の一翼をなす「プラットフォームと『2040年問題』」プロジェクト。その取り組みの一環として、2021年9月17日にシンポジウム「デジタル社会における『新聞』とは何か」が開催された。(※1)

プラットフォーム企業による情報の管理・監視があまねく行き渡り、フェイクニュースや「コタツ記事」が無制限に飛び交うデジタル社会。ジャーナリズムの役割やあり方自体が問われる状況下で、新聞は生き残ることができるのか。

新聞、ウェブなどのメディア関係者や研究者による発表と、吉本興業所属タレントの田村淳らを迎えたパネルディスカッションに続いて、学生主催によるアフターセッションを開催。デジタルネイティブと呼ばれるZ世代による新聞〜メディア受容の実態に光を当て、その向かうべき行方について考える試み。学生たち自身の"生の声"、有識者を迎えて行われた意欲あふれる討論の様子を、ダイジェストでレポートする。(※2)

(※1)慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)および慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所(MediaCom)の共催にて実施。
(※2)同シンポジウムより、①パネルディスカッション開催レポート ②アフターセッション(学生討論)開催レポート の2本構成にて掲載。

シンポジウム「デジタル社会における『新聞』とは何か」①
メディア関係者×研究者パネルディスカッション 開催レポート


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(撮影:菅原康太)

アフターセッション「Z世代の新会議 〜新聞の果たす役割を維持するために、ニュース受容のあるべき姿を考える〜」

ネットワーク空間の拡大とともに、巨大化を続けるプラットフォーム企業。その進展が社会の秩序に及ぼす未曾有の変化を捉え、法的・倫理的な課題の解決を目指すべく、「プラットフォームと『2040年問題』」プロジェクトが発足した。
本プロジェクトが取り組む課題領域のなかでも、プラットフォームとともに発展してきた新しいメディアについては、フェイクニュースや「コタツ記事」に象徴されるさまざまな軋轢が指摘されている。激変を迎えたメディア環境において、これまで民主主義を「知る権利」の側面から支えてきた新聞ジャーナリズムは、果たして生き残ることができるのか。言論のあり方を揺るがすこの問題に横断領域的な視点から光を当てる試みとして、「デジタル社会における『新聞』とは何か」と題したシンポジウムが開催された。

シンポジウムは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンラインを交えたハイブリッド形式で実施。新聞、ウェブメディア、プラットフォーマー関係者、研究者らによる発表と、ゲストに吉本興業所属タレントの田村淳らを迎えたパネルディスカッションが行われた。その後、シンポジウムの運営にも携わった学生有志が中心となり、「Z世代の新会議 〜新聞の果たす役割を維持するために、ニュース受容のあるべき姿を考える〜」と題したアフターセッションを実施。
物心ついた頃からデジタルツールに触れて育ったZ世代は、新聞をはじめとするニュースメディアとどのように接し、それら報道のあり方に何を求めているのだろうか。オンライン上でのアンケートやチャットでの質問募集など、新たな試みを交えて行われた討論の様子をレポートする。


ゲスト:
天野彬(あまの・あきら)
 株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ主任研究員(リモート参加)
松本一弥(まつもと・かずや) ジャーナリスト、元・朝日新聞社『論座』編集長

パネリスト:
慶應義塾大学学生有志

モデレーター:
水谷瑛嗣郎(みずたに・えいじろう)
 関西大学社会学部准教授

司会:
宮台真伍(みやだい・しんご)、高橋栞菜(たかはし・かんな)
 法学部3年、山本龍彦研究会


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(撮影:菅原康太)

トークテーマ【1】Z世代から読み解くニュースに関する意識

宮台真伍・高橋栞菜:法学部3年・山本龍彦研究会の宮台と高橋です。本アフターセッションでは、Z世代が新聞やニュースとどのように接しているのか、オンラインアンケートで参加者の生の声を集計しながら、これからのデジタル社会におけるニュースのあり方について迫っていきます。

水谷瑛嗣郎:関西大学でメディア法と情報法を研究している水谷です。本日のシンポジウムのテーマである新聞のあり方について、若い世代のみなさんの視点から新たな道筋を見つけたいと思います。

松本一弥:私はかつて朝日新聞社に務めながら、2017〜18年にかけて慶應義塾大学法学部で非常勤講師を務めていました。私自身、若い人たちと議論することが大好きですが、理由は一つ、未来は君たちにしか作れないからです。今日は活発な議論ができればと思います。

天野彬:私は電通のメディアイノベーションラボで、若い人たちによるSNSやメディア利用のリサーチやそれを元にした企業へのコンサルティングに携わっています。研究成果をまとめた著書に『SNS変遷史ー「いいね!」でつながる社会のゆくえー』などがあり、「TikTok」のようなショートムービーの流行やその社会的インパクトについてまとめた新刊も出る予定です。最近はニュースアプリを運営する事業会社との研究プロジェクトも進めており、若年層がどんなニュース体験をしているのか、みなさんの意見もふまえながらお話しできるのを楽しみにしています。

宮台:まずは「Zoom」のアンケート機能を使って、みなさんの声をうかがいたいと思います。26歳以上と25歳以下で回答欄が異なります。選択肢以外の回答はチャット欄へお寄せください。


アンケート①「普段、ニュースを取り入れている媒体は何ですか?」


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(撮影:菅原康太)

実施結果より抜粋

  • 25歳以下につき「紙の新聞」の回答は0%
  • 26歳以上でも「紙の新聞」の回答は3%程度


水谷:やはり、全体的にネットニュースが多いですね。僕自身もニュースアプリを利用しますが、「Twitter」という回答は特徴的だと思います。なお、法政大学大学院メディア環境設計研究所の『AFTER SOCIAL MEDIA』の指摘(40頁)を見ても、10〜20代は自らニュースを能動的に探しにいく積極的な接触よりも、スマートフォンに表示されるプッシュ通知などを介した受動的接触が多い点が、それ以上の世代との大きな差になっていました。

天野:ニュースアプリ側も、スマホへの通知段階からアテンションを取れるように工夫しています。「Twitter」や「LINE」もニュース機能を強化していますが、ニュースバリューとして「みんなが何を話題にしているのか」(ソーシャルな話題性)が大きな位置を占めています。

水谷:チャットで回答された方の意見はどうでしょう。

古嶋凜子:法学部3年、山本龍彦研究会の古嶋です。私の場合、上京してからは新聞を取っておらず、通学をはじめ移動時間の中で毎日、「LINEニュース」や「Yahoo! ニュース」を見ています。


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(撮影:菅原康太)

上田陸人:法学部3年、山本龍彦研究会の上田です。「Twitter」と回答しましたが、自ら投稿はせず、車やスポーツなど趣味に関連するネットニュースを登録して、流れてくる記事を見ています。アルバイトの関係で普段から新聞を読んでいることもあり、トレンド機能で今話題のニュースをチェックするなど、"受動的なニュース体験"が多いです。

天野:確かに、タイムラインを自分の好きな話題で固めたい人は多いでしょう。趣味のアカウントや友達とのやりとり専用のアカウントなど、複数のアカウントを持つことが日本人ユーザーの特徴ともいわれています。その上で、情報の選別を機械に任せて情報を自分用に最適化し、いかに気持ちのよいニュース体験を実現できるかにも需要がありそうです。

水谷:先ほどのパネルディスカッションで、慶應義塾大学法学部の山腰修三先生が「かつては新聞の一面を見れば、今社会で何が重要なのかを把握でき、所属する社会について再確認できた」と話されていました。それがスマートフォンによって細分化され、良くも悪くも自分の興味関心に近いものだけを得る方向性が出てきたということですね。


アンケート②「あなたがニュースに求めるものは何ですか?」


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(撮影:菅原康太)

実施結果より抜粋

  • 25歳以下、26歳以上ともに「正確性」がトップ
  • 25歳以下、26歳以上で回答に差は見られない


宮台:26歳以上で「正確性」が39パーセントと高く、「関心性」が13パーセント。25歳以下も同じく「正確性」が26パーセント、次に「利便性」が12パーセントと高くなっています。

水谷:世代差があまりないと予想していたとおりになりました。ニュースの中でも、新聞など質の高いものに対する評価として「正確性」が重視されている。あわせて考えたいのは、Z世代と上の世代で"ニュース"の概念にズレがあるかもしれないこと。Z世代にとっては政治や経済はもちろん、音楽や芸能などの話題もニュースだと認識する人が増えているように見受けられます。

天野:その傾向はあるでしょう。「LINEニュース」など多くのサービスは、閲覧数を高めるために社会などの堅い話題と芸能などの柔らかい話題を取り混ぜていますし、「Twitter」のタイムライン上ではいろいろな話題が混ざって表示される。情報の届け方が大きく変わったことで、"何をニュースとして捉えるか"という感受性に影響が生じています。

高橋:私は、ニュースに求めるものとして「誠実性」と記入しました。たとえ真実だとしても、ある一方を陥れる目的で書かれた記事や、品がないと感じる記事などを載せるメディアは応援したくないと思ってしまいます。

古嶋:ニュースサイトから能動的に記事をチェックしているつもりでしたが、実はよく見ている話題に近いものを表示するアルゴリズムによって、世間的に注目度の高いニュースばかりを見ていたのかもしれないと気付きました。

水谷:慶應義塾大学SFC研究所の岩田崇さんはチャット欄に、「世の中や社会、政策の改善につながりそうかどうか」と記入されています。批判だけでなく、改善につながる記事かどうかということですね。

岩田崇:そうです。例えば先日「国民一人あたりの借金が約1千万円に達した」というニュースがありましたが、それをどう捉えればいいかという情報がない。ニュースがバラバラに切り分けられていて、総合的に理解できる人はどれくらい存在するのか。その結果、「けしからんから何とかしましょう!」と感情的な状況に陥り、建設的な議論につながらない状態を招いていると感じます。


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(撮影:菅原康太)

吉田凪:法学部3年、山本龍彦研究会の吉田です。コロナ禍で実感したことですが、片側の側面だけを写し取ったニュースに怖さを感じます。発信する側の意見や思惑があることは理解しつつ、受け取る側が異なる視点のニュースに触れて、情報の偏りを見極める能力を身に付けるしかないのかなと思います。

水谷:僕も学生には、意識的に多様な情報に触れるように言っています。ただ自分も含め、みんながこの日々の膨大な情報量に晒されながらそうした能力を持つことが本当にできるのか、悩ましく思っています。天野さんは著書の中で、若者の情報の取得方法がネット検索を意味する"ググる"から、ハッシュタグ検索による"タグる"へ変化していると書かれていましたね。

天野:"タグる"を通じて回遊しつつ自分の求める情報に出合うことは、能動的な情報行動として自分の関心を深める姿勢につながります。また、最適化されたタイムラインの視野に対して、異なる意見に触れる可能性も秘めています。

水谷:一方で"タグる"の限界として、"Twitterデモ"のように賛同者とそれ以外の人との分断や、botなどによる操作的な側面があることも気になります。「Twitter」上の世論と世論調査とのズレはよく指摘されるところですし、パネルディスカッションで新聞の意義として提示された「社会の共通項を醸成する」という民主主義に果たしてきた役割の面でも、ネットメディアには限界があると思いました。


トークテーマ【2】Z世代から読み解く「新聞」の価値


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(撮影:菅原康太)

アンケート③「あなたがひと月あたりにニュースに払えるお金はどれくらいですか?」

実施結果より抜粋

  • 25歳以下は「0円」と「1000円」の回答が同数程度で最多数
  • 26歳以上は「3000円」が最多数


水谷:当然、若いほどニュースにかけられる金額は少なくなりますが、同時にインターネットの普及によって情報にお金を払う感覚が薄れてきているのではないでしょうか。違法コピーを無料公開して摘発された「漫画村」はその最たる例のように思います。

天野:サブスクリプションの音楽サービスが登場して、かつてCD1枚に払っていた金額よりも安く世界中の音楽を聴き放題にしたことをはじめ、情報に対する対価が大きく変化しています。消費者余剰が高い社会になっているということができますが、これはニュースの領域でも同様です。とはいえ、フェイクニュースなどに対する社会的な課題意識が高まっていくと、無料で読めるものだけでなく、有益なニュースを得るにはちゃんと対価が必要だという姿勢も根付いていくはずです。

水谷:ニュースポータルサイトの発展も、デジタル化で情報の流通コストが下がったことと関係があると思います。それに対して、プロのジャーナリストが生成する情報には相当のコストがかかる。というのも、彼らが人生の時間を捧げて積み上げたものは、誰にでも簡単に代替できるものではない。その点が、報道という機能の固有性を生み出しているはずです。

宮台:新聞がコストや時間をかけて伝える一次情報が、取材に基づかない「コタツ記事」によって"届いたもの勝ち"になってしまうのは問題だと思います。というのも、一次情報に切り込んで事実を伝え、権力をチェックする点にこそ新聞の守るべき価値がある。でもそれを電子版にするだけでは、プラットフォームによる"届いたもの勝ち"の仕組みに取り込まれてしまう。そのなかで新聞社は、どうやって対価を得る仕組みを守ることができるのでしょうか。

吉田:ジャーナリストの顔を見えるようにして、「この人が言っていることに対価を払う」というビジネスのあり方ができてもいいのでは。その過程を「Twitter」などで発信すれば、インフルエンサーとは違う形で若い人の関心にもつながると思います。


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(撮影:菅原康太)

天野:顔が見える、透明性があるということはZ世代にとって非常に重要なキーワードです。企業やブランドのマーケティングにおいても、"中の人"の個性や価値観が見えるとフォロワーも増える。情報と違って人格や人柄はコピーできないだけに、ジャーナリストにおいても同じ可能性があると感じました。

水谷:メディアにとっては記者の顔が出ることで、書いた内容の責任から逃れられなくなる。これはパネルディスカッションで提起された「報道価値の判断基準を説明する」という話にもリンクします。ただ、ジャーナリストにとっては恐いことかもしれません。松本さん、いかがでしょう。

松本:顔が情報を信頼するための一つの手がかりになるということですが、要は取材や編集の過程を見せること。記事ごとに記者の経歴や著書へリンクが張ってあって、取材や編集の意図を記載するのも一つの方法ですね。いずれにせよ、ポストトゥルースの状況下でメディアが信頼を得るには、気の遠くなるような時間と努力が必要です。取材に基づく情報を根拠なく毀損する言説がばらまかれている一方、プラットフォーマーは国家権力と渡り合う力を得て、新聞社の情報を非常に安く買い叩いているわけですから。
その上で紹介したいのは、アメリカの「The Trust Project」。サンタクララ大学のサリー・レーマンが80以上の国際報道機関と議論を重ね、正確性や執筆者情報、情報源など、ニュースの信頼性を図る8つの基準「8 Trust Indicators」をまとめました。この基準に合致すると判断されたニュースサイトは「Tマーク」を付けてもいいという決まりで、採用するメディアがたくさん出てきています。また、速報性にとらわれずにじっくり時間をかけて練られた長文の記事だけを発信するオランダの有料オンラインメディア「De Correspondent」のような例もあり、購読者に記事の制作に関わってもらう試みも進めています。

水谷:本日のゴールとして想定していた、Z世代と新聞やニュースとの未来の関係を考える上で、「8 Trust Indicators」は一つの形といえそうです。最後に天野さん、新聞の未来についてお考えをお願いします。

天野:日本では「スマートニュース」がファストに消費されないニュースを配信する「SlowNews」プロジェクトに取り組んでいます。「The Trust Project」も、ニュースの品質保証という点で興味深い。情報が過剰な状況の中で生まれ育ったZ世代のみなさんにとって、新聞やニュースがいかに信頼を取り戻していくのか、非常に重要なテーマだと思いました。

宮台:これらは情報の信頼性を判断する上で、指標になり得る取り組みだと思います。また、新聞記事とコタツ記事の違いについても、価値判断などの"見える化"による信頼回復が大事だということがわかりました。本日は、どうもありがとうございました。


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左から:山本龍彦、飯田匡一、門谷春輝、倉谷航平、齊藤夏菜、高橋栞奈、古嶋凛子、宮台真伍、金子晃奈、安宅美結、上田睦人、吉田凪、水谷瑛嗣郎、松本一弥、相馬諒太郎
(撮影:菅原康太)


2021年9月17日 三田キャンパス東館G-Labにて実施(対面+オンライン形式)
※所属・職位は実施当時のものです。