ニュース

【採択者決定】2021年度 KGRIスタートアップ研究補助金

2021.05.25

Japanese Only

KGRIは、慶應義塾大学のグローバル化と学際研究を力強く推進するため、2019年度以降、この目的に適ったスタートアップ研究に対して補助金を交付している。これまで補助金を交付した研究のなかには、既に重要な成果を上げられたものもあり、本補助金には大きな意義があると考えている。そこで今年度も同様に、KGRIスタートアップ研究補助金(200万円×2件)の募集を行った。

昨年度と同様、コロナ禍で募集要項の周知徹底に制約があり、応募件数はやや伸び悩んだが、申請された研究はいずれも大変興味深いもので、審査員一同、グローバル化や学際研究に関する慶應義塾の「可能性」を強く感じることができた。もっとも、これも昨年度と同様、理系にやや偏った研究が多く、真の学際研究の推進という観点からは若干の物足りなさもあった。次年度は、広報活動をさらに工夫するなどし、KGRIにおける学際研究がさらに深化・進化するよう、KGRIとしても一層の努力をしたい。

今年度のスタートアップ研究補助金は、オンラインでのヒアリング審査を経て、最終的に、清水映輔さん(医学部・特任講師)の「慶應発!Smart Eye Cameraを使用した眼科診断AIの開発による、予防可能な失明の根絶」と、滝沢翼さん(医学部・専任講師)の「頭痛のリスクの検証と対策」に交付されることとなった。

清水さんの研究は、世界中の予防可能な失明と視覚障害の根絶に寄与するという壮大な目的のもと、既に開発されている「眼科診断AI」の精度を高め、さらに発展させようというものである。途上国には、医療機器や医師数の不足といった深刻な課題がある。こうした課題を、AIを搭載した小型デバイスを開発・普及させることで解決しようという狙いは明確で、一定の先進性をもつ。また、アメリカ、ベトナム、インド、ネパール、ケニアなどの大学・研究所ともネットワークをもっており、KGRIが重視する国際性も備えているといえよう。他分野とのコラボレーションないし学際性については課題も指摘されたが、この点は、今後、倫理面や個人情報保護・プライバシーに関する人文社会系領域との協働が期待される。KGRIとしては、本補助金によって、「Smart Eye Camera」の精度がさらに向上し、「世界中の予防可能な失明と視覚障害の根絶」という"壮大な"研究プロジェクトが力強く前進することを強く望む。

滝沢さんの研究は、昨年度、「KGRIプレ・スタートアップ研究補助金」を交付した頭痛研究の続編とでもいうべきものであり、その研究を支援してきたKGRIとしてもその発展をうれしく思っている。今回は、文学部(心理学専攻)の梅田聡教授とコラボレーションし、片頭痛と気圧の関係を実証的に研究しようというものである。本研究は、心理学的検査や自律神経検査も併用する点で、学際性も認められる。また、「気候」と頭痛との関係性が探求されることで、国際的な地域・風土研究に発展することも期待される。この点では国際性や、さらなる学際性も認められよう。もっとも、頭痛患者において気圧を変化させるような介入的研究はこれまで国内外ともに報告はないとのことで、今後、倫理面も含め、さまざまな課題に直目する可能性もある。その際には、本補助金を有効に活用し、他学部研究者と連携するなど課題克服に努め、さらに研究を発展させてもらいたい。

以上、応募のあったすべての研究に優れたところが多く見られたものの、この2つの研究が「KGRI基準」をより高いレベルで満たしているとのことから、本補助金の対象として、両研究を採択する運びとなったものである。採択者は、KGRIの精神ないし本補助金の趣旨を忘れることなく、上述した評価ポイントをぜひ具体的に実現していっていただきたい。本補助金が、採択者において適切かつ有効に活用され、各研究の発展を支える一助になっていけば幸いである。


【採択者】
慶應発!Smart Eye Cameraを使用した眼科診断AIの開発による、予防可能な失明の根絶
 清水 映輔(医学部 特任講師)
頭痛のリスクの検証と対策
 滝沢 翼(医学部 専任講師)

【採択者からのコメント】
清水 映輔
shimizu この度はKGRI スタートアップ研究補助にご採択下さり、誠にありがとうございます。眼科医にとって「失明」とは他科の医師にとって患者さんがお亡くなりなることと同義です。慶應義塾発のアイデアで、予防可能な世界の失明を撲滅することは、医学的だけでなく経済的にも貢献できると考えております!!新型コロナウイルスのパンデミックの世界ですが、アフターコロナ、withコロナの時代にふさわしい、失明予防システムを作っていこうと思います!!

滝沢 翼
takizawaこの度はKGRIスタートアップ研究補助金に採択いただき、大変光栄に存じます。慢性頭痛は有病率、生活支障度ともに高く、苦しんでいる患者さまが多数いらっしゃいます。診療科、学部の枠を越えた他分野の研究者、また海外の頭痛領域をはじめとした専門家とも協力しながら、頭痛患者さまに貢献できる研究を展開していければと考えております。多くの頭痛患者さまが安心して過ごせる手助けとなる、エビデンス、情報を発信していけるよう、努力してまいります。温かいご支援に心より御礼申し上げます。

【関連記事】
 2021年度 KGRIスタートアップ研究補助金(募集要項)


2020年度からの継続研究
オンライン診療を用いた認知症診療の有効性、安全性評価
 西本 祥仁(医学部 助教)

皮膚に融け込む伸縮性電子デバイスを用いたヘルスケアシステム
 松久 直司(理工学部 専任講師)