ウェルビーイングリサーチセンター

　

センター概要

世界に先駆けて超高齢社会へと至った日本は、世界に誇る技術とサービス、そして優れた社会システムにより、世界トップレベルの健康寿命を実現してきた。このような観点から日本の課題解決は、社会の持続可能性という観点だけでなく、サイエンス、テクノロジー、システム変革による新しい価値や産業の創出という点においても、世界が注目している。本センターは、現在において重要な価値となっているウェルビーイングについて、複数のキャンパスや研究拠点を結び、学際的なアプローチによって研究を行うとともに、その成果を広く社会へと発信し、社会変革を促す。

■2025年度の新規活動目標と内容、実施の背景

麻布台に設置された予防医療センターならびに医学部健康・医療・社会イノベーションセンターとの連携を深め、ウェルビーイングと健康に関する研究と社会連携の活動を発展させる。

上記MOUを基盤として、ウェルビーイングと健康に関する研究と社会連携の推進に向け、GBDの知見を活用したグローバルヘルス教育を国内主要大学において継続的に展開する。本年度に実施した教育プログラムでは、データに基づく政策立案の重要性やグローバルな視点での健康課題の理解について、受講者から高い関心が示された。特にIHMEとの直接的な連携による実践的な教育内容への期待が高まったことから、次年度は教育プログラムをさらに発展させ、次世代の研究者育成の強化を図る。また、既に開始している政府統計データや国内主要研究機関によるコホート研究成果のIHMEとの共有について、データの質的向上と更新頻度の改善を目指した体系的な基盤整備を進める。これにより、日本の健康課題に関するより精緻な分析と、エビデンスに基づく政策提言の促進を目指す。

2025年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

2025年度からの新たな取り組みとして、国内の主要学術集会においてIHMEと共同でシンポジウムを企画・開催する。2025年度にはGBD2023の公開も予定されており、最新の知見に基づく研究成果の共有と議論の場を創出する。これは、データ駆動型の政策立案の重要性が増す中、日本の保健医療政策における科学的根拠の活用をさらに促進する必要性から計画されたものである。国内外の研究者による活発な議論を通じて、日本国内におけるGBD研究の認知度向上と研究者ネットワークの拡大を目指す。さらに、国内の主要な保健医療機関や研究機関との連携を強化し、データ共有の促進と研究協力体制の構築を進める。これらの活動を通じて、日本におけるGBD研究の拠点として、ウェルビーイングと健康に関する学術研究の深化と社会実装の促進に貢献する。

2024年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2 事業計画に沿って、医学部健康医療社会イノベーションセンター、病院予防医療センターとのウェルビーイングに関する研究活動を進めたほか、米国ワシントン大学保健指標評価研究所（Institute for Health Metrics and Evaluation: IHME）との間で学術交流協定（Memorandum of Understanding: MOU）を締結し、日本における高精度な疾病負荷データの構築拠点としての活動を開始した。また、１社より、新たに設置した同社のウェルビーイングラボの活用について紹介があり、今後へ向けた展開の話し合いを開始した。

以上、３．は着手しつつも未実施であるが、他は全て達成しており、基礎研究・実装研究で成果が出ている。実証研究に関しては、質的調査を主に実施しており、効果検証は次年度に実施することになった。

■公刊論文数（件数と主たる公刊誌名）、学会発表件数（国内・国際）、イベントなど社会貢献の実績（年月日、場所）
  1. GBD 2021 Japan Collaborators (Nomura S, et al.). Three decades of population health changes in Japan, 1990-2021: a systematic analysis of the Global Burden of Disease Study 2021. The Lancet Public Health; Accepted in 2025.
  2. Nomura S, et al. Perceptions and responses to COVID-19 through wastewater surveillance information and online search behavior: A randomized controlled trial. International Journal of Disaster Risk Reduction 2025; 118: 105224.
  3. Nomura S,et al. Climate-related bilateral official development assistance (ODA) and vulnerability: a comparative study of allocation and effectiveness. PLOS Climate 2025; 4(2):e0000382.
  4. Nomura S, et al. The unseen aftermath: associations between the COVID-19 pandemic and shifts in mortality trends in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health 2024; 22(1): 74.
  5. Nomura S,et al. Changes in Healthcare Utilization in Japan in the Aftermath of the COVID-19 Pandemic: A Time Series Analysis of Japanese National Data Through November 2023. Healthcare 2024; 12(22).
  6. GBD 2021 Global Stillbirths Collaborators (including Nomura S). Global, regional, and national stillbirths at 20 weeks' gestation or longer in 204 countries and territories, 1990-2021: findings from the Global Burden of Disease Study 2021. The Lancet 2024; 404(10466): 1955-88.
  7. Nomura S, et al. Changes in mortality during the COVID-19 pandemic in Japan: descriptive analysis of national health statistics up to 2022. Journal of Epidemiology 2024.
  8. Nomura S, et al. Robust estimation of the incubation period and the time of exposure using γ-divergence. Journal of Applied Statistics 2024: 1-19.
  9. Nomura S, et al. Indirect and direct effects of nighttime light on COVID-19 mortality using satellite image mapping approach. Scientific Reports 2024; 14(1): 25063.
  10. GBD 2021 Tobacco Forecasting Collaborators (including Nomura S). Forecasting the effects of smoking prevalence scenarios on years of life lost and life expectancy from 2022 to 2050: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Public Health 2024; 9(10): e729-e44.
  11. Nomura S, et al. Strengthening public health system resilience to disasters in Türkiye: Insights from a scorecard methodology. International Journal of Disaster Risk Reduction 2024; 113: 104869.
  12. Nomura S, et al. Lifestyle Differences in the Metabolic Comorbidity Score of Adult Population From South Asian Countries: A Cross-Sectional Study. AJPM Focus 2024; 3(6): 100273.
  13. GBD 2021 Stroke Risk Factor Collaborators (including Nomura S). Global, regional, and national burden of stroke and its risk factors, 1990-2021: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2021. Lancet Neurology 2024; 23(10): 973-1003.
  14. Nomura S, et al. Progress and scenario-based projections of health service availability and coverage towards UHC in the post-conflict and post-pandemic Iraq: a Bayesian hierarchical regression approach. BMJ Open 2024; 14(9): e080492.
  15. Nomura S, et al. Analysis of factors associated with public attitudes towards salt reduction: a multicountry cross-sectional survey. BMJ Open 2024; 14(10): e086467.
  16. Miyata H, Nomura S, et al. Factors influencing parental COVID-19 vaccination willingness for children in Japan. Vaccine: X 2024; 19: 100528.
  17. Nomura S, et al. Determinants of sodium intake knowledge and attitude: a cross-national analysis of socio-economic and health factors. Public Health Nutrition 2024; 27(1): e216.
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

慶應義塾大学医学部は米国ワシントン大学保健指標評価研究所（Institute for Health Metrics and Evaluation: IHME）との間で学術交流協定（Memorandum of Understanding: MOU）を締結し、慶應グローバルリサーチインスティテュート（KGRI）の野村周平は本学の統括代表を務めることとなった。本協定により、IHMEが主導する世界疾病負荷研究（Global Burden of Disease Study: GBD）における日本初の研究拠点が設立された。GBDは現在、世界163カ国から1万3千人以上の研究者が参画する国際的なグローバルヘルス研究プロジェクトであり、KGRIの野村周平は日本代表として科学評議会議員を務めている。

本MOUを基盤として、国内外の研究者との緊密な連携のもと、日本における高精度な疾病負荷データの構築、効果的なデータの可視化、最新の分析支援ツールを活用した科学的な意思決定支援の促進に向けて、より一層の努力を重ねていく。既にその成果として、最新のGBD2021プロジェクトにおいて、IHMEとの共同研究による日本の健康状況の包括的な分析・評価論文が、KGRIの野村周平を筆頭著者兼責任著者としてThe Lancet Public Health誌に受理された。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を 3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに 4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう 5. ジェンダー平等を実現しよう
8. 働きがいも経済成長も 8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう 10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを 11. 住み続けられるまちづくりを

設置期間

2024/04/01～2026/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 武林　亨 医学部　衛生学公衆衛生学教室 教授 公衆衛生
宮田　裕章 医学部　医療政策・管理学教室 教授 健康医療政策・管理学
白坂　成功 大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 システム工学/デザイン、宇宙工学
神武　直彦 大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授 システム工学、デザイン思考、宇宙工学
中村　雅也 医学部　整形外科学教室 教授 脊椎脊髄外科
新井　康通 看護医療学部 教授 老年医学、健康長寿、百寿者研究
堀田　聰子 健康マネジメント研究科 教授 ケア人材政策、人的資源管理、地域包括ケア
石田　浩之 スポーツ医学研究センター 教授 スポーツ医学
小熊　祐子 スポーツ医学研究センター 教授 スポーツ医学、運動疫学
高山　緑 理工学部　一般 教授 ジェロントロジー、社会心理学、生涯発達心理学
佐々木　貴史 医学部　百寿総合研究センター 特任准教授 長寿、ゲノム解読、ゲノム解析、アトピー性皮膚炎
色本　涼 医学部　百寿総合研究センター 共同研究員 老年医学、健康長寿、百寿者研究
岸本　泰士郎 医学部　医科学研究連携推進センター 教授 精神医学、行動科学
田澤　雄基 医学部　医科学研究連携推進センター 特任講師 精神医学、イノベーション
島津　明人 総合政策学部 教授 心理学、行動科学
山本　勲 商学部 教授 労働経済学
飯田　美穂 医学部　衛生学公衆衛生学 専任講師 公衆衛生、女性健康
高石　官均 医学部　予防医療センター 教授 予防医療
清水　良子 医学部　予防医療センター 専任講師 予防医療
瀬川　泰正 医学部　医療政策・管理学教室 研究員 健康医療政策・管理学
金森　由晃 医学部　医療政策・管理学教室 研究員 健康医療政策・管理学
川島　孝行 医学部　医療政策・管理学教室 研究員 健康医療政策・管理学
江口　哲史 医学部　医療政策・管理学教室 研究員 健康医療政策・管理学
野村　周平 KGRI 特任教授 疾病負荷、国際保健政策、外交と開発援助、食・栄養科学、パンデミック、災害・健康危機管理
長谷川　祐子 KGRI 訪問教授 人文・社会／美学、芸術論
高野　翔 KGRI 訪問研究員 ウェルビーイング、 都市計画・まちづくり、 公共政策