観想研究センター(SU)
センター概要
近年、教育・医療・福祉・経営・政治等の様々な分野において「観想的実践」 (Contemplative Practice)の重要性が注目されている。観想的実践は、心身の統合を基盤とし、身体感覚への気づきと、あらゆるものとのシステミックな相互依存性への気づきを育み、明晰かつ倫理的な意識決定のもと創造的社会環境に向かうための、様々な学びの技法や文化的習わしを指す。本センターは、ウェルビーイング、創造性、社会的変容を促し支えるための<観想的実践の研究・教育(Contemplative Studies/観想研究)>の拠点として、国内外で教育プログラムやワークショップおよびアートイベントを提供し、観想的アプローチの学際的研究を理論的かつ実証的に推進する。観想研究は、科学的アプローチと主観的経験および多様な文化からの古来の叡智を統合する学際分野であり、身体化された統合的知を重視する。本センターは日本での観想研究のグローバルハブとなると同時に、世界的に展開する観想研究の日本の拠点として、特に日本の思想文化や風土と観想のかかわりを研究対象とし、独自の創造・発信を目指す。
2024年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
前年度より、観想研究・観想教育の探究を継続する。特に、エモリー大学のCenter for Contemplative Science and Compassion Based Ethicsとの連携を深め、教育者向けワークショップの実施により、SEEラーニング プログラムの日本での導入プロセスの研究を推進する。日本では、まだContemplative Studiesは定着していない分野ではあるが、観想的実践は同時に日本の文化・風土に自然と根ざしているものでもある。そのため、日本あるいはKGRIならではの観想教育の在り方を、国内外の実践家と研究者と共に見出していき、前年度に続く国際的な対話の場を実施する。
■2024年度の新規活動目標と内容、実施の背景
- 2024年4月 以下の①②③それぞれの共同研究プロジェクトの開始. ホームページ開設. SEEラーニング日本版教材の開発と提供
- 2024年8月 SEE ラーニング教育者向け研修会実施
- Keio-Stanford LifeWorks Programとして葉山町・北杜市・中津市でフィールドワーク実施
- 2024年6月-2025年3月 観想的カーボンニュートラルアートイベントの実施
- 2025年3月 観想教育研究国際ワークショップ実施(海外からの研究者・実践者招聘. ①②③のプロジェクト論文発表と対話・次年度構想)
①基礎研究
観想研究という新たな科学的アプローチの理論的枠組みを提示し、近年の生成系AIへの注目の集まりの文脈にも位置付けていく。AI研究では、特にインターフェース設計において人間のより本質的理解 - 特に身体性 - を熟慮した慎重な姿勢が求められている。身体性への傾向は近年AIの越境的性質を強め、神経科学や脳科学、ロボティクス、哲学などとの越境的協働をとおして身体性AIや身体性認知科学などの研究分野が活発になっている。このような趨勢は、ある種デカルト的身心二元論を基礎とすることで発展を遂げた近代科学・社会というものが、様々な領域においてその「基礎」に起因する限界にまざまざと直面したことにより、日本を含む東洋にはもともと根付いていた身心一元論的アプローチへ歩み寄らざるを得ない状況を招いていることを示唆している。
②実践と社会実装
教育分野では、エモリー大学Center for Contemplative Science and Compassion-Based Ethicsで開発されている観想教育プログラムSEE Learningの日本版を開発・導入・調査し、日本の教育システムの変容を促すことを目指す。すでにエモリー大学との共同研究のもと、国内での実施が展開されており、教育現場からの関心が高まっているが、より本格的な社会実装に向けての研究と政策提言を目指す。さらにUC San Diegoとの共同研究として共感力とコンパッションを育むAIゲームを開発し、実証研究を日米で行う。
神奈川県葉山町、山梨県北杜市、大分県中津市等でのフィールドワークを慶應大学・スタンフォード大学の学生および国内外の高校生(ティーン)と共に実施し、地域の伝統・風土・コミュニティから立ち上がる観想的なアートや学びの空間の共創から、カーボンニュートラルかつウェルビーイングな未来都市システムの実現を目指す。
医療分野では、マインドフルネスやコンパッションという観想的実践を取り入れた研修プログラムを、医学教育に導入することを目指し、金沢大学医学部との連携のもと、共同研究を実施する。医療従事者のバーンアウトの予防、レジリエンスの育成のためであり、医学教育そのものを問い直す取り組みともなる。
③測定と実証
②の実践・実装の効果測定と検証を行いつつ、測定方法そのものを批判的に省察し、従来の科学的方法論を問い直す。例えば、京都大学内田由紀子氏のInterdependent Happiness Scaleなどを参照し、東洋的な存在論をベースとする尺度の可能性を検証する。また心の理論的モデルという意味では、人工知能のパイオニアであるミンスキーが主張するように、仏教に多くの精緻なモデルが存在している。仏教の知見に基づいた人間モデルと測定等を通した科学的知見を統合していくことで①②③の円環的取り組みを実践する。
2023年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
2023年3月7日に、三田キャンパスにて国際シンポジウム「AI時代における心の教育 - コンパッションに基づく倫理の日本的展開」を開催した。基調講演者として、ペンシルバニア州立大学のロバート・ローザー教授(発達心理学・教育学)、エモリー大学の小澤デシルバ慈子教授(文化人類学・日本研究)、エモリー大学のロブサン・テンジン・ネギ教授(観想科学)、上智大学の西平直教授(教育哲学)を招聘し、教育を根本的に捉え直すための哲学・社会科学・臨床・そして教育プログラムの実装についての議論を重ねた。「観想教育」というキーワードをもとに、これまでの観想教育研究の概観し、その具体例としてのエモリー大学のSEEラーニングプログラムに着目し、SEEラーニングや観想教育を日本で導入する際の視点について多角的に検討した。120名の国内外の研究者・アーティスト・実践家・教育者が参集し、身体的なワークの時間も取り入れた対話的な場づくりは、今後観想研究センターで展開する協働的活動の第一歩の場となった。シンポジウムの成果は、動画としてホームページで配信するほか、報告書あるいは書籍としての出版を予定している。3月8日には、シンポジウム登壇者との交流を深めるために、葉山にて禅僧藤田一照師の指導による坐禅とボディワーク、および観想研究者との対話を半日のリトリート形式で実施。3月9日と3月10日には、SEEラーニングを日本の学校教育へ取り入れる実践研究の取り組みとして同プログラム開発者であるロブサン・テンジン・ネギ、ブレンダン・オザワデシルバ、ツゥンドゥ・サンフェルの3名を講師として、教育者向けワークショップを開催した。教育者向けワークショップには85名の教育者が参加し、2024年度のSEEラーニングの日本での展開における課題と具体的なアクションプランを捉える機会となった。教育者向けのアンケート調査と現場観察による結果を、論文および報告書にまとめる予定でいる。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
- 翻訳出版:2024年3月 『SEE ラーニング コンパニオン』(エモリー大学SEEラーニングチーム著、井本由紀他翻訳)
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄
観想研究・観想教育という新たな分野・学問の立ち上げを、国際シンポジウムをきっかけを促した。
イベント
- [International Workshop] Evolution and Embodiment: Interdisciplinary Approaches to Mind, Brain and Culture(2024.8.1開催)
- 国際シンポジウム『AI時代における心の教育 - 観想的学びとコンパションの日本的展開/ Educating the Heart and Mind - Contemplative Education and Compassion-Based Ethics in Japan』(2024.03.07開催)
※プログラムはこちら - SEEラーニング教育者向けワークショップ開催(2024.3.9-10開催)
センター オリジナルWebサイト
https://ccs.keio.ac.jpSDGs







設置期間
2024/03/01~2026/02/28
メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
---|---|---|---|
◎ 井本 由紀 | 理工学部 | 准教授 | 教育人類学・観想教育 |
新妻 雅弘 | システムデザイン・マネジメント研究科 | 准教授 | 認知科学・音響工学・AI・体運動習性 |
粂川 麻里生 | 文学部 | 教授 | ゲーテ自然科学・身体論・色彩論 |
山形 与志樹 | システムデザイン・マネジメント研究科 | 教授 | 持続可能性・脱炭素化・地域創造 |
佐渡 充洋 | 保健管理センター | 教授 | 精神医学(認知行動療法、マインドフルネス)、産業精神保健、学校精神保健 |
稲葉 俊郎 (2024/6/14-) | システムデザイン・マネジメント研究科 | 特任教授 | <いのち>の医療 |
杉本 あおい (2024/6/14-) | システムデザイン・マネジメント研究科 | 特任准教授 | 海洋社会科学 |
波多野 都 (2024/6/14-) | システムデザイン・マネジメント研究科 | 特任准教授 | 耳科学、医学教育、マインドフルネスとコンパッション研究 |
松原 正樹 (2024/6/14-) | システムデザイン・マネジメント研究科 | 特任准教授 | 身体知と芸術 |
内田 範子 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | 観想教育、青少年育成、ソーシャルワーク、マインドフルネス |
小笠原 和葉 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | ボディーワーク、神経科学・医学、身体性、宇宙物理学、現象学、意識 |
齊藤 弓 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | インド哲学仏教学およびその身体性 |
鈴木 健斗 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | 周産期における親子のメンタルヘルス及び愛着形成 |
田中 慎太郎 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | マインドフルネス瞑想に関する研究、臨床心理学・心身医学・精神医学に関する研究 |
藤野 正寛 (2024/6/14-) | KGRI | 共同研究員 | 認知心理学・マインドフルネス瞑想 |
Acosta Angel (2024/7/5-) | KGRI | 共同研究員 | 観想教育、観想社会科学、マインドフルネス教育、AIと身体性 |
Chiara Robbiano (2024/7/5-) | KGRI | 共同研究員 | 比較哲学、教育哲学、古代ギリシャ哲学 |
Stephen Murphy-Shigematsu (2024/7/5-) | KGRI | 共同研究員 | 心理学、マインドフルネス |
Ozawa-de Silva Brendan Richard (2024/7/5-) | KGRI | 共同研究員 | 心理学、宗教学(仏教)、教育 |
蒲原 慎志 (2024/9/14-) | KGRI | 共同研究員 | 組織開発 & 業務改革、SEL |
濱田 織人 (2024/9/14-) | KGRI | 共同研究員 | 芸術教育・感性教育・神経美学・音楽及びアート制作 |
松島 宏佑 (2024/12/14-) | KGRI | 共同研究員 | 現代アート、インターメディア、芸術教育及びアート制作 |