サイバーフィジカル・サステナビリティ・センター
センター概要
人類の長い歴史の中で作られたフィジカル空間における社会システムと法は、技術の発達とともに、サイバー空間においてその普遍性を問われ、場合によっては変容を迫られている。技術の発達を歓迎する人々は、社会や法の変革を望む傾向が強い一方、従前のシステムや価値観を重視し、変化を望まない人々は、そのような変革に危機感や拒否反応を示すことも多い。CA(サイバネティックアバター)を巡る技術的社会的研究成果も、CAを用いた生活を望まず、かえって危機感を持つ人々が多ければ、研究開発の成果は社会で活かされず、研究開発計画の達成が困難となる。
そのような困難を克服するためには、価値観の二極化やサイバー空間とフィジカル空間での社会と法の分断を避け、個人がフィジカル空間で幸福に暮らしながら、サイバー空間における技術的社会的変革による豊かさ便利さを享受し、個々人の価値観や志向に応じた生活の仕方を選択できる社会を実現することが望まれる。メタバースやCAなど新たな技術的社会的変革を一時の流行に終わらせず、それを取り込み改善しながら持続可能な社会システムと法を構築していくためには、技術の開発とともに、サイバーフィジカル空間を通貫して持続可能な価値観、社会システム及びその法政策を研究することが重要となる。これをサイバーフィジカル・サステナビリティ(CPS)と称し、持続可能な開発目標をフィジカル空間だけでなくサイバー空間においても実現するための研究と、その成果の社会的受容のための活動が必要である。
サイバーフィジカル・サステナビリティ・センター(CPSセンター)を慶應義塾大学内に創設し、上記研究・活動を展開することで、サイバーフィジカル空間を通貫して持続可能な社会システムと法政策の研究拠点を形成し、係る研究成果を立案普及することがセンター設置の目的である。
2024年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
2024年度は、サイバーフィジカル空間を通貫して持続可能な社会と法政策を考えるためのイベントを実施する。
①CAのユースケースをさらに調査分析し、
②想定される法的問題の把握と研究を進める。
③CA体験イベントや、サイバーフィジカル空間を通貫して持続可能な社会と法政策を考えるためのイベントを実施する。
より詳細には、次のとおりである。
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知的財産法によるCA(サイバネティック・アバター)の保護の可能性と限界の把握、知的財産戦略の立案と展開
CAは、サイバー空間におけるビジュアル・キャラクターや、フィジカル空間におけるロボットなどの有体物として用いることが想定されるが、前者に関しては、漫画、アニメ、ゲームなどのビジュアル・キャラクターの保護、後者については三次元的キャラクターの保護に関する法実務、学説の蓄積がある。2022年度に収集した裁判例や記事を元に、2023年度は、キャラクターの保護が問題となった事例を整理紹介した。また、想定されるCAの使用形態について、現行の知的財産法による保護の可能性と限界を把握を開始した。2024年度は、引き続き現行の知的財産法による保護の可能性と限界を把握し、法解釈・立法により解決が必要かどうか、検討、提示する。 -
CAを使用して行動する人の権利主体性と人格権の保護
人が自らの肉体を使用して行動する場合、人は権利主体として尊重され、その肖像や氏名は、人格権の対象として保護され、さらに有名人の肖像や氏名は、いわゆるパブリシティー権の対象として、その無断使用は不法行為法などにより保護される。2022年度に収集したSNSのなりすまし・のっとり事例に関する裁判例や記事を元に、2023年度は、なりすまし・乗っ取り事例に関する裁判例を分類紹介し、アバターへの適用可能性の検討や、1つのCAを複数人が操作する場合の検討を開始した。2024年度は、人がCAを使用して行動する場合を想定し、想定されるCAの不正使用事例について、民法をはじめ各法分野から探究する。 -
サイバーフィジカル・サステナビリティ・センター(CPSC)の創設・展開
社会において受容される持続可能なCAの法的保護と、サイバーフィジカル空間を通貫する持続可能な社会システムと法政策の研究拠点を形成するとともに、係る研究成果の立案普及のために慶應義塾大学内にサイバーフィジカル・サステナビリティ・センター(Cyber-Physical Sustainability Center 略称CPSセンター)を2023年度に整備した。当該センターを研究拠点として、サイバーフィジカル空間を通貫して持続可能な社会と法政策を考えるためのイベントを実施する。
■2024年度の新規活動目標と内容、実施の背景
新規活動項目
輸出入管理・安全保障に関する法的問題の把握と法的対応の提言をめざし、2024年度は、CAの使用に伴う安全保障、輸出入管理上の法的問題を把握する。
内容
国際的なCAに関する技術や有体物の往来及びCAを使用した人の行動が可能となれば、輸出入管理・安全保障に係る法的対応が必要となる。技術や有体物の取引についての現行法制上の対応はもちろんのこと、CAを使用した人の行動により生ずる法的問題を把握し、最終的には、経済安全保障のために必要な法的対応を提言する。
目標
2024年度は、CAに関する技術及びCAを使用した人の行動において留意すべき輸出入管理・安全保障に係る法的問題を把握し、想定されるCAの使用事例について、輸出入管理・安全保障に関する法的問題を把握する。
2023年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
活動計画
2023年度:CPSセンターを創設し、研究拠点とするとともに、CAの利用実態を体験できる環境を整備
① 関連事案における民法、知的財産法など現行法制の研究、②CAのユースケースの把握と法的問題の研究開始、③体験設備設置のための機器調達の継続。令和5年度内にスペース内装工事、設備設置を完了し、CAの実体験ができる環境を整備。
成果
- ① 2022年度末に文献調査を実施し、2023年度には、キャラクターの知的財産的保護に関する裁判例の整理を進め、成果として論文を執筆投稿した。
- ② 上記①で行った文献調査をもとに、2023年度はSNSアカウントのなりすましに関する裁判例の整理を進め、成果としてSNSアカウントのなりすまし・乗っ取り事例における本人の救済について論文を執筆投稿した。それをもとに、アバターのなりすまし・乗っ取り事案における本人の救済の可能性についても、論文を執筆投稿した。また、パブリシティ権とアイデンティティ権に関する考察について延世大学ナム教授によるセミナーを開催し、議論を深めた。
- ③ 三田キャンパス南別館5階にサイバーフィジカル・サステナビリティ・センターを開設し、ホームページ開設、内装整備と設備を設置し、12月19日・20日にクラスター社の協力により、アバター体験ワークショップを開催した。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
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田中浩之・松井佑樹 論文発表2件
- 「メタバース・生成AIの知的財産法上の課題と企業対応(前編・著作権法)」
- 「メタバース・生成AIの知的財産法上の課題と企業対応(後編・商標法、不正競争防止法等)」 掲載誌:会社法務A2Z(第一法規)2023,2024
- 由比・三澤・佐々木 「キャラクターの知的財産権等による保護の現状」掲載誌:法律学研究(慶應義塾大学法学部学生論文集)72号投稿済み査読待ち2024
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CPS研究会(講演会) Hyung Doo Nam 延世大学ロースクール教授・慶應義塾大学特別招聘教授
「バーチャル空間で活動するバーチャルヒューマンを通して再考するパブリシティー権財産権/人格権の議論の新たな地平」2023年6月15日(木)17:00-18:40 慶應義塾大学三田キャンパスおよびウェビナー -
佐藤巴南論文発表2件
- 「SNSアカウントのなりすまし・乗っ取り事例における本人の救済」
- 「アバターのなりすまし・乗っ取り事案における本人の救済の可能性」 掲載誌いずれも:法律学研究(慶應義塾大学法学部学生論文集)72号投稿済み査読待ち2024
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君嶋祐子発表 2件
- 情報法制学会「人間中心の技術、社会と法~サイバーフィジカル・サステナビリティ・センターの取組み」 2023年11月3日(金)15:00-15:30 慶應義塾大学三田キャンパス
- OIST-Keio Showcase Talk "Avatars, AI, Identity, and IP-Cyber-Physical Sustainability in Law and Ethics" 2023年11月17日(金)9:30-9:55 沖縄科学技術大学院大学およびウェビナー
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄
- 個々の研究参加者らによる研究の進捗と研究成果公表に加え、大学生、大学院生、司法試験合格者ら若い研究参加者による意欲的な取り組みと、全研究参加者らによる定期的な討論・支援により、従来の学説の検討、総数で100件以上の裁判例の読み込みと整理、学生による3本の論文執筆および投稿を実現した。
- 人文・社会科学分野の研究者が多い三田キャンパス南別館5FにCPSセンターの研究室を設置し、教職員や学生がCA体験等のイベントに参加できるスペースや機材を提供して、文理融合研究の種苗を育て出会いを創出する場を提供した。
センター オリジナルWebサイト
SDGs








設置期間
2023/04/01~2025/03/31
メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
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◎ 君嶋 祐子 | 法学部 法律学科 | 教授 | 知的財産法 |
新保 史生 | 総合政策学部 専門 | 教授 | 公法学、新領域法学 |
和田 龍磨 | 総合政策学部 | 教授 | 理論経済学、経済統計、経済政策 |
大屋 雄裕 | 法学部 法律学科 | 教授 | 法哲学 |
南澤 孝太 | メディアデザイン研究科 | 教授 | ヒューマンインタフェース・インタラクション、知覚情報処理、感性情報学 |
齊藤 邦史 | 総合政策学部 | 准教授 | 民事法学、新領域法学 |
田中 浩之 | 法学研究科 | 特任教授 | 法律実務、知的財産法 |
松井 佑樹 | 法学研究科 | 研究員 | 法律実務、知的財産法 |
稲熊 律夫 | KGRI | 特任教授 | パノラマ高精細画像処理、リサーチコマ―シャリゼーションとイノベーション |
麻生 典 | KGRI | 共同研究員 | 知的財産法 |
岡崎 義弘 | KGRI | 共同研究員 | 先端技術の社会受容性、知的財産法 |
堀江 将(2024/10/1-) | KGRI | 特任講師 | マーケティング、環境経営、品質管理、データ分析 |