構造生命化学研究センター
センター概要
※2023/7/1~ スタートアップセンター(SU)から本センターに移行しました
近年の急速な技術開発に伴って、従来の手法では困難であった生体高分子の構造解析に道が拓かれ、生命現象の理解や生体反応の制御が進んでいます。特に、タンパク質の構造情報を活用した創薬を通じて、病気を確実に治す個別化医療などが現実味を帯びており、細胞・個体レベルでの生命現象を原子レベルで理解するという「構造生命化学」研究がより重要視される時代に突入しています。そこで私たちは、理工・医・薬の教員を糾合して学際的なチームを結成し、慶應義塾における構造生命化学研究を推進するとともに、より活性化させることを目指して、本センターを設立します。
設置目的:
構造生命化学は、生体高分子の立体構造を原子レベルで解析し、生命現象の理解と人の健康増進・疾患治療に貢献する理工学分野の一つである。近年には、生体高分子の構造情報が急速に増加し、情報科学技術と組み合わせることで生命科学に革新をもたらすと期待されている。にもかかわらず、構造生命化学を推進するための構造解析を支援する窓口が慶應義塾大学には整備されていなかった。そこで、構造解析経験のある研究者を含む理工・医・薬の専任教員が連携して「構造生命化学研究センター」を2021年度に設置し、スタートアップセンターとして研究活動を進めてきた。その結果、現在までに数多くのタンパク質構造解析に成功するとともに、オンラインセミナーなどの教育的な面においても、理工・医・薬の学部間連携を積極的に進めることができ、結晶構造解析・核磁気共鳴・クライオ電顕などの研究支援基盤が徐々に構築されつつある。そこで、本センター化することによって、塾内における生体高分子の構造解析を引き続き支援するとともに、学部間での連携関係をより確固たるものにすることを目的とする。
2023年度事業計画
■2023年度の新規活動目標と内容、実施の背景【1年目活動計画】
スタートアップの時と同様に、本センターにおいても構造解析の支援と学部間連携の強化を目的としていることから、2021年度より進めてきた活動を継続することを基本的な計画とする。具体的には、結晶構造解析とクライオ電顕による最新の単粒子解析について、構成員の村木を中心に、外部研究施設の共同利用やデータ解析を支援する。また、核磁気共鳴法による構造解析を専門とする構成員の大澤・横川に協力を仰ぐとともに、タンパク質の二次構造・四次構造に関する解析については分析機器を保有する古川が支援する。さらに、センター長である古川は、センター内での構造解析シーズを発掘し、構成員の共同研究・連携を積極的に促す。特に、生体内で酵素機能を発揮するタンパク質、重篤な疾患に見られる異常タンパク質、医薬品としての候補化合物がターゲットとする生体分子など、本センターの構成員が解明に取り組む生体分子について、構造解析の提案を随時行う。実験的な支援以外にも、構造生命化学分野の研究者を講師とした専門的・教育的なセミナーを開催したり、構成員の研究室間での人的交流を図ることで、当該分野の普及に努める。
【2年目以降 活動計画】
構造解析の支援や専門的・教育的セミナーの開催といった1年目の活動計画については、本センターの最も重要な目的であることから、2年目以降も確実に継続する。また、本申請時のセンターにはない技術を有した専任教員を構成員として新たに取り込み、構造生命化学分野の拡充を図る。例えば、質量分析を利用したコンフォメーション解析や、計算機を利用した動的構造変化のシミュレーションなどが考えられる。さらに、スタートアップ時から実施していたように、1年目に引き続いて、構成員の研究室間や、他研究機関との間で学生や若手教員が相互に行き来して構造解析を進める人的交流プログラムも維持したい。このような人的交流は学部間連携という視点からも非常に重要な取り組みであると考えている。本センターをできる限り長く安定的に運用するためにも、科研費の基盤研究(A)・学術変革領域やAMEDが公募する各種事業といった大型の競争的資金への応募に挑戦する。
2022年度事業報告(SU)
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度2年目の活動計画に基づく実施内容は以下のとおりである。
【教育】
(計画)構造解析に関するセミナー(応用編)の実施、最先端の構造解析技術を紹介するセミナーの開催
(達成度)1年目から所員の異動があり、構造解析を専門とする研究者を迎え入れたのが9月となったために、教育的内容のセミナーについては2023年度に企画することとし、新メンバーである村木により最先端の構造解析研究を紹介するセミナーを開催した。
【基盤整備】
(計画)実験プロトコルや共同利用施設活用の手引きを整備する。
(達成度)1年目は高エネルギー加速器研究所での結晶構造解析・クライオ電顕観察を行い、実験手順や施設活用の手引きを作成したが、2年目はSPring-8での結晶構造解析や大阪大学蛋白質研究所や分子科学研究所における結晶構造解析・クライオ電顕観察も行い、その利用手順を整備した。
【研究】
(計画)センター所員が研究対象とするタンパク質やその複合体に関する構造解析を実施する。
(達成度)所員からの構造解析に関する問い合わせ(7件)をうけ、文献調査などを行い、結晶化やクライオ電顕観察による実験・解析の見通しについて検討を行った。そのうち、実際に実験・解析を進めたものが4件あり、さらにそのうちの2件については結晶構造解析に成功した。また、所員間での共同研究として、2次元NMRを用いたタンパク質構造解析を新たに進めることもできた。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
(1) 公刊論文数:65報
Journal of the American Chemical Society (IF=15.419 @2023)、Free Radical Biology and Medicine (IF=7.376 @2023)、Chemistry-A European Journal (IF=5.236 @2023) など
(2) 学会発表件数:(国内)50件、(国際)16件
(3) イベントなど社会貢献の実績:3件
・アジア生物無機化学カンファレンス(AsBIC10)にてシンポジウム「Metal-based Mechanism in Diseases」を開催(2022年11月29-30日、神戸)
・第22回日本蛋白質科学会年会にてセッション「多彩な分野からなる「生命金属科学」の最前線」を開催(2022年6月9日、名古屋)
・第34回 海洋生物活性談話会を開催(2022年10月29日、慶應矢上キャンパス)
初年度(2021年度)に行ったタンパク質の結晶構造解析(6件)のうち4件について、2報の学術論文として取りまとめることができ、現在投稿中である。また、本年度は2件のタンパク質結晶構造解析に成功しており、クライオ電顕による単粒子解析(2件)についても、高度な解析手法の検討を進めている。また、高エネルギー加速器研究所に加えて、SPring-8や分子科学研究所、大阪大学蛋白質研究所などの施設も利用して構造解析を進めており、生体分子の構造解析に必要となる実験・手続・解析の流れを整備することができた。さらに、2次元NMRを利用した蛋白質構造解析についてもセンター内での共同研究として進め、本センターでカバーする手法を拡充することができた。
SDGs


設置期間
2023/07/01~2026/03/31メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
---|---|---|---|
◎ 古川 良明 | 理工学部 | 教授 | 生物無機化学、タンパク質科学 |
藤本 ゆかり | 理工学部 | 教授 | 生物分子化学、有機化学、生体関連化学 |
末永 聖武 | 理工学部 | 教授 | 生物分子化学 (天然物化学) |
栄長 泰明 | 理工学部 | 教授 | 光機能性材料、ナノ粒子・薄膜、ダイヤモンド電極 |
村木 則文 | 理工学部 | 准教授 | 蛋白質結晶学、生物無機化学、構造生物化学 |
高橋 大介 | 理工学部 | 准教授 | 糖質科学、有機合成化学、ケミカルバイオロジー |
安井 正人 | 医学部 | 教授 | 水分子の生命科学・医学、薬理学 |
三澤 日出巳 | 薬学部 | 教授 | 神経化学・神経薬理学 |
須貝 威 | 薬学部 | 教授 | 有機化学、合成化学、触媒・資源化学プロセス、生物機能・バイオプロセス、生物有機化学 |
花屋 賢悟 | 薬学部 | 専任講師 | 生物有機化学、生物無機化学 |
大澤 匡範 | 薬学部 | 教授 | 構造生物化学、生物物理学 |
横川 真梨子 | 薬学部 | 専任講師 | 物理系薬学、構造生物化学 |