量子コンピューティングセンター

   

センター概要

量子コンピュータとは、"量子力学的な効果を用いて行う複雑な計算"(量子コンピューティング)を実現するデバイスである。素因数分解や最適化といった問題では、計算時間(ステップ数)が問題の規模に対して指数関数的に伸びるものがあり、それらは従来コンピュータでは計算不可能な問題とされる。量子コンピューティングはこれらの計算困難な問題を解決することが期待されており、それを実現する手法の開発が望まれている。そこで、本センターでは、社会や産業界の発展に資する量子コンピュータで解くべき問題を特定し、その目的に向けたソフトとハードを開発することを目的とする。とくに、国に加えて、複数の民間企業が出資する研究拠点を整備し、産業界や一般社会に存在する問題を対象とした量子コンピューティングの道を切り拓くことを目指す。

2022年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
  1. 新規モンテカルロアルゴリズムの開発と実機評価:本センターで開発した量子アルゴリズムを、多次元データの統計量が計算できるように拡張する。
  2. 化学反応計算のための変分型量子アルゴリズムの開発と実機評価:引き続き、実機上で変分量子アルゴリズムを効率的に動作させるための方法を開発していく。
  3. 量子機械学習器の開発と実機評価:精度保証された量子カーネル機械学習器を開発する。また、量子古典ハイブリッド機械学習器の数理構造解析を引き続き行う。
  4. 量子コンピュータインターフェイスの開発:量子回路に生ずるバグを孤立させて検出するためのプロトコルを開発し、量子デバッガの性能改善を行う。
■2022年度の新規活動目標と内容、実施の背景

センターでターゲットとしている中規模量子計算機(いわゆるNISQ)ではノイズの影響が避けられないため、ノイズの影響を受けにくいソフトウェア開発と、ノイズを減らすミドルウェア開発が今後も重要である。上記の事業計画項目はこの思想に則るものである。

2021年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

センターは IBM が開発した量子コンピュータ実機 IBM Q を利用できる環境 IBM Q Hub を内包している。2021年度は、この IBM Q Hub と協働しながら、以下の研究を実施し、成果を挙げた。

  1. 新規モンテカルロアルゴリズムの開発と実機評価:前年度に開発した振幅推定アルゴリズムを実機検証し、ノイズ存在下の振幅推定精度を評価した。とくに、ノイズ部分の推定を必要としない、従って全推定プロセスの計算量が大幅に節約された新規推定アルゴリズムを開発した。また、データを効率的に量子状態に埋め込む新しいアルゴリズムを開発し、株価時系列データ解析へ応用した。
  2. 化学反応計算のための変分型量子アルゴリズムの開発と実機評価:有機LEDは分子配置をうまくデザインすると発光効率が改善する。この分子配置問題を解くための2分探索型変分量子アルゴリズムを新規開発し、実問題に適用・精度を実機評価した。また、変分量子アルゴリズムは一般に量子回路の構造を事前に決める必要があるが、このプロセスも最適化する新規アルゴリズムを開発した。
  3. 量子機械学習器の開発と実機評価:量子回路と古典ニューラルネットワークを結合した新しいタイプの量子機械学習器を提案し、その数理構造を解析した。とくに、このシステムではニューラルタンジェントカーネルなる機械学習器の性能を予測する量を陽に計算・評価することができ、これが実際にデータ分類性能と整合することを確認した。
  4. 量子コンピュータインターフェイスの開発:実デバイス上の量子ビット間接続の制約を組み込んだ上で、最適ゲート設計が可能な手法を開発した。これにより、ゲート設計の自動化や自由度の向上が見込める。また、パルス設計によりゲートの高性能化を実現する手法を拡張し、これまでは困難であった任意の2量子ゲートの実装が可能となった。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文数10件(以下に記載)、学会等での発表件数 24件

  1. K. Nakaji and N. Yamamoto, Expressibility of the alternating layered ansatz for quantum computation, Quantum 5, 434 (2021), 19 April 2021
  2. Yutaka Shikano, Hiroshi C Watanabe, Ken M Nakanishi, Yu-ya Ohnishi, Post-Hartree-Fock method in Quantum Chemistry for Quantum Computer, The European Physical Journal, 26 April 2021
  3. HC Watanabe, R Raymond, Y Ohnishi, E Kaminishi, M Sugawara, Optimizing Parameterized Quantum Circuits with Free-Axis Selection, arXiv:2104.14875, 30 April 2021
  4. Qi Gao, Gavin O. Jones, Mario Motta, Michihiko Sugawara, Hiroshi C. Watanabe, Takao Kobayashi, Eriko Watanabe, Yu-ya Ohnishi, Hajime Nakamura, Naoki Yamamoto, Applications of Quantum Computing for Investigations of Electronic Transitions in Phenylsulfonyl-carbazole TADF Emitters, npj Computational Matrial, 20 May 2021
  5. Takahiko Satoh, Shota Nagayama, Shigeya Suzuki, Takaaki Matsuo, Michal Hajdušek, Rodney Van Meter, Attacking the quantum Internet, IEEE Transactions on Quantum Engineering 2, 1-17, 7 July 2021
  6. S. Uno, Y. Suzuki, K. Hisanaga, R. Raymond, T. Tanaka, T. Onodera, and N. Yamamoto, Modified Grover operator for amplitude estimation, New Journal of Physics 23, 083031 (2021), 19 August 2021
  7. T. Tanaka, Y. Suzuki, S. Uno, R. Raymond, T. Onodera, and N. Yamamoto, Amplitude estimation via maximum likelihood on noisy quantum computer, Quantum Inf Process 20, 293 (2021), 4 September 2021
  8. H. Yano, Y. Suzuki, K. M. Itoh, R. Raymond, and N. Yamamoto, Efficient discrete feature encoding for variational quantum classifier, IEEE Trans. Quantum Engineering, 2, 1/14 (2021), 10 August 2021
  9. K. Nakaji and N. Yamamoto, Quantum semi-supervised generative adversarial network for enhanced data classification, Scientific Reports 11, 19649 (2021), 4 October 2021
  10. 山本 直樹, レイモンド ルディー, Data Loading, Circuit Optimization and Measurement in Quantum Machine Learning, 電子情報通信学会誌, 104, 11, 1189/1195 (2021), 1 November 2021
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

IBM主催のバーチャル量子プログラミングコンテスト"Quantum Challenge"にて本センター所属の学生が優勝をした。

センター オリジナルWebサイト:

Keio University Quantum Computing Center

SDGs

9. 産業と技術革新の基盤をつくろう9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

設置期間

2018/07/01~2026/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名所属研究機関職位研究分野・関心領域
◎ 山本 直樹 理工学部 教授 量子計算、量子情報、数理工学
神成 文彦 理工学部 教授 光工学、光量子科学
白濱 圭也 理工学部 教授 物性 II
早瀬 潤子 理工学部 教授 ナノ構造化学、ナノマイクロシステム、光工学・光量子科学、物性Ⅰ、原子・分子・量子エレクトロニクス
ロドニー
バンミーター
環境情報学部 教授 量子計算、ムーアの法則後のコンピューター・アーキテクチャ、ディストリビュテド・マス・ストレージ・システム
田中 宗 理工学部 准教授 数理物理・物性基礎
畑中 美穂 理工学部 准教授 理論化学, マテリアルズ・インフォマティクス
村松 眞由 理工学部 准教授 固体力学、マルチフィジックスシミュレーション
古池 達彦 理工学部 専任講師 情報学基礎理論、素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理、原子・分子・量子エレクトロニクス
鈴木 洋一 理工学研究科 特任准教授 量子コンピューティング、人工知能を含むデータサイエンス、半導体光物理学
渡邉 宙志 理工学研究科 特任講師 生物物理、理論化学、物理化学、分子シミュレーション
佐藤 貴彦 理工学研究科 特任講師 量子コンピュータアーキテクチャ、量子ネットワークアーキテクチャ
上西 慧理子 理工学研究科 特任講師 量子コンピューティング、非平衡統計力学
菅原 道彦 理工学研究科 特任准教授 コヒーレント制御、振動状態計算、量子制御
川口 英明 理工学研究科 特任講師 量子計算、機械学習