水分子の生命科学・医学研究センター
センター概要
我々は「Water Biology(水分子の生物学)」という斬新な概念を提唱し、生命現象を水分子動態から包括的に理解しようとしている。本センターは、「水」という共通テーマに対して、物理化学、生物学、医学の最先端の知識、技術を融合することで、生体における水分子動態の物理化学的理解を深め、生物学・医学的への応用を目指している。
2021年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標(I) 水を観るプロジェクト;C A R SあるいはS R Sによる脳組織の水動態の観測をA Q P4K Oとの比較で行う。 (III) 水を操るプロジェクト (1)AQP4の制御機構と脳のリンパ流の生理と病理の解明を目指す。 具体的には、 1)AQP4欠損マウスを用いて、脳実質の拡散や対流の変化を観測する。 2)AQP4欠損マウスを様々なアルツハイマーモデルと掛け合わすことで、アルツハイマー病病理におけるAQP4の役割を解明する。 3)A Q P3と糖代謝との関係を明らかにする。
■2021年度の新規活動目標と内容、実施の背景(II) 水を知るプロジェクト 経皮モニタリングによる酸化ストレス評価アルゴリズムの作成; (1)細胞に酸化ストレスを与え、水スペクトルを取得すると同時にメタボロミウス解析を行い、酸化ストレスによる水動態の変化を解析する。 (2)経皮的にスペクトルを測定し、酸化ストレスモニタリングのためのアルゴリズムを開発する。前年度の血糖値測定プロジェクトで得たノウハウを最大限活用していく。
2020年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度(I) 水を観るプロジェクト モルモット膵管二重還流をCARS顕微鏡で観測し、前年度に引き続き、経細胞水移動と細胞間水移動を定量的に解析することを試みる。経上皮水の移動の定量化、モデル構築を目標とし、急性マウス脳スライスを用いて脳実質内における水動態の観測を進め、浸透圧負荷がかかった時の変化も検討することを続けてきた。それにより、これらデータを取得することができたので現在解析を進めている。 (II) 水を知るプロジェクト 皮下の間質液の「糖ー水のダイナミクス」から相対的血糖値を予測する数理モデルの開発を行う。水溶液中の糖濃度を変えた時のスペクトルの変化を抽出することができた。また、経皮測定における最適な測定部位を同定することもできた。さらに、実際の臨床試験を始めるための倫理委員会での承認を得ることもできた。一方、コロナ渦の影響で、実際の被験者をリクルートするには至らなかった。 (III) 水を操るプロジェクト (1)老化に伴うAQP2の制御機構の変化とそのメカニズムの解明を目指す。具体的には、 1)マウスの発達・加齢によるAQP2の発現・局在、バソプレッシンによる反応性の変化を水制限モデル等を用いて検討する。若齢マウスにおいては、水制限によるAQP2の発現上昇を確認することができた。一方高齢マウスでは、そのような変化は認められなかった。 2)慢性的な水負荷時における、AQP2の発現・局在への影響を検討する。AQP2は哺乳類における生体水バランスの最も重要なアクアポリンである。今回はライフサイクルおよびサーカディアンリズムという時間軸でその変化を解析していく。水負荷の影響を確認することはできたが、水負荷のタイミングによって異なる反応が得られるか否かは検討することができなかった。 (2)AQP4の制御機構と脳のリンパ流の生理と病理の解明を目指す。具体的には、 1)マウスの発達・加齢によるAQP4の発現・局在の変化を捉える。加齢により、AQP4の脳における発現量が減少することを確認した。局在の変化に大きな違いは認められなかった。 2)AQP4欠損マウスを用いて、脳実質の拡散や対流の変化を観測する。脳スライスを用いたCARSによる水拡散の様子を観測することができたが、定量的な解析には至らなかった。3)AQP4欠損マウスをアルツハイマーモデルと掛け合わすことで、アルツハイマー病病理におけるAQP4の役割を解明する。アルツハイマーモデルマウスに関しては、一種類ではなく複数のモデルを解析する。5X FADモデル及びPS19モデルにおいて、AQP4欠損は、病態の進行を著しく促進することが確認された。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)●公刊論文数:7件(以下のとおり)
- Vandebroek AA, Yasui M. Regulation of AQP4 in the Central Nervous System. Int J Mol Sci. 26;21(5):1603 (2020)
- Nakamura Y, Watanabe H, Tanaka A, Yasui M, Nishihira J, Murayama N. Effect of increased daily water intake and hydration on health in Japanese adults. Nutrients. 23;12(4):1191 (2020)
- Abe Y, Ikegawa N, Yoshida K, Muramatsu K, Hattori S, Kawai K, Murakami M, Tanaka T, Goda W, Goto M, Yamamoto T, Hashimoto T, Yamada K, Shibata T, Misawa H, Mimura M, Tanaka KF, Miyakawa T, Iwatsubo T, Hata J, Niikura T, Yasui M. Behavioral and electrophysiological evidence for a neuroprotective role of aquaporin-4 in the 5xFAD transgenic mice model. Acta Neuropathol Commun. 12;8(1):67 (2020)
- Mitsukura Y, Fukunaga K, Yasui M, Mimura M. Sleep stage detection using only heart rate. Health Informatics J. 26(1):376-387 (2020)
- Mitsukura Y, Sumali B, Nagura M, Fukunaga K, Yasui M. Sleep Stage Estimation from Bed Leg Ballistocardiogram Sensors. Sensors (Basel). 5;20(19): E5688 (2020)
- Hara-Chikuma M, Tanaka M, Verkman A.S, Yasui M. Inhibition of aquaporin-3 in macrophages by a monoclonal antibody as potential therapy for liver injury. Nat Commun. 9;11(1):5666. (2020)
- Nakamura Y, Tsuchiya T, Hara-Chikuma M, Yasui M, Fukui Y. Identification of compounds in red wine that effectively upregulate aquaporin-3 as a potential mechanism of enhancement of skin moisturizing. Biochem Biophys Rep. 23;24: 100864. (2020)
- 名古屋分子標的イメージングセミナー(2020/1/10 名古屋
- 日本神経病理学会 (2020/6/26 金沢)
- Future Center Alliance Japan(FCAJ)FCAJシンポジウム (2020/8/27 web)
- 新日本科学web講演会 (2020/9/1 web)
- 日本神経病理学会 (2020/10/13 web)
- WEB講演会 視神経炎 Up To Date (2020/11/20 web)
- 第15回北海道大学医学研究院連携研究センター研究成果発表会 (2021/1/13 北海道)
脳実質における水動態の可視化が可能となった。AQP4とアルツハイマー病との関連を検討するためのモデルマウスの開発し、それらが著明な表現系を示すことを発見した。
SDGs



設置期間
2015/04/01~2024/3/31メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
---|---|---|---|
◎ 安井 正人 | 医学部 | 教授 | 水分子の生命科学・医学、薬理学 |
天谷 雅行 | 慶應義塾/医学部 | 常任理事/教授 | 皮膚科学 |
中村 雅也 | 医学部 | 教授 | 整形外科、脊椎脊髄外科、脊髄疾患の外科的治療、神経科学(脊髄再生、栄養因子neuroimaging) |
陣崎 雅弘 | 医学部 | 教授 | 放射線科学 |
岡村 智教 | 医学部 | 教授 | 疫学・予防医学、公衆衛生学・健康科学 |
相馬 義郎 | 医学部 | 医学部客員教授 | 薬理学、医療薬学、生理学 |
塗谷 睦生 | 医学部 | 准教授 | 中枢神経系の薬理学、イメージング |
竹馬 真理子 | 医学部 | 准教授 | 薬理学、病態生化学、水チャネルの分子薬理学 |
阿部 陽一郎 | 医学部 | 助教 | 分子生物学、薬理学一般 |
泰岡 顕治 | 理工学部 | 教授 | 分子動力学 |
佐藤 真梨子 | KGRI | 共同研究員 | 薬学、分子生物学、情報工学 |
中村 友美 | KGRI | 共同研究員 | 栄養学、体の水分状態 |
水間 桂子 | KGRI | 共同研究員 | 嗜好科学 |
加納 英明 | KGRI | 訪問教授 | 分子分光学、分子イメージング |