論理と感性のグローバル研究センター
センター概要
21COEとグローバルCOEを継承し、人の判断や行動における論理と感性の関わりについて多層的に解明することを目的とする。特に、哲学、倫理学、論理学、美学・美術史学、文学、考古学などの人文科学系手法と心理学、行動科学、教育学、発達科学、医療人類学などの社会科学系手法を中心に、これに神経科学、認知科学、情報科学系手法を加えて、論理と感性の学際的な研究を行う。これを通じて人間のより深い理解を目指すとともに、成果の社会還元も目指す。学際性、国際性、若手研究者育成を重視している。
2021年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標これまでの分野横断的で多層的な方法論による研究テーマを継続的に発展させる。 1. 島皮質における感情処理機能、前頭極の機能およびうつ症状、認知症における進行の指標に関する認知神経科学研究 2. オンライン実験を用いた絵画や顔印象,音楽の評定研究,脳波研究,絵画や写真画像を用いたfMRI研究 3. ・定型,非定型発達乳児の縦断研究(脳機能計測,母子相互作用観察,アイカメラ実験) ・乳幼児の人工文法の階層構造理解についての研究 ・二者間のコミュニケーション活動における脳や生理指標の同期研究 4. 「感性」に関する研究として、鳥類モデルを用い、向社会行動をうみだす「情動」について、神経内分泌的なメカニズムの分析をすすめる。 5. 成人双生児へのweb調査の実施、MRIと採血によるDNA採取(玉川大学のMRIが利用可能になったら)、縦断データの分析、ニュースレターの発行など
■2021年度の新規活動目標と内容、実施の背景人間の判断や思考における「論理」と「感性」はそれぞれ独立でははなく、互いに補完的に働いていることがこれまでの研究から明らかになってきた。論理的処理系と直観的・感性的処理系はこれまでしばしば独立で対立的デュアルシステムと理解されることが多かった。2021年度の研究において、我々はこの「論理」系と「感性」系の関係をさらに踏み込んで互いにどのように補完的役割を果しているかを明らかにしていく。人文科学的「心」研究、神経科学的「脳」研究、行動科学的「身体」行動研究は充分に成熟した段階にある。これらの成果を基にして、「心―脳―身体」系という学際的観点から「論理」と「感性」の相互依存的―相互補完的関係を多層的に捉える必要があり、学際的研究活動を継続する。より具体的には、
- これまでの研究成果の理論面を多層的にさらに整理する。また「論理」的側面と「感性」的側面について、理論的研究、被験者実験、フィールドワークを通じて兼空する。「論理」と「感性」の補完性の研究も研究対象とする。
- 我々の新たな研究成果を用いた応用研究をさらに行う。子供の論理と感性の発達の支援、発達障がい児支援、支援者トレーニング、地域へのアウトリーチ、よい意思決定や論理判断ができるグラフィック情報支援、人の健康や安全のための環境デザインへの応用などを考察する。
- これまで進めてきた(A)分野融合研究体制、(B)国際連携関係、(C)若手研究者育成の成果の整理をさらに進めて、研究計画に活かしていく。特に、3年後に迎えるセンター10年満期の総合成果まとめに向けて研究を進める。 具体的研究例:Dissagreementの論理と哲学に関する日仏研究、認知症における進行の指標に関する認知神経科学研究、音声言語発話の発達。熟達性と創造性の関係について視線計測や手の動きの分析を行い、客観的指標を開発、オセアニアで切り開く「めぐり合わせ」の歴史人類学。
2020年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
新型コロナウイルスの影響により、多くの実験・調査の中断を余儀なくされたが、前年度までの研究成果をもとに更なる成果を上げた。例えば次の点で予想以上の成果が上がった。
- 視覚的感性に関する研究を中心に実験的研究を行うとともに、考古学者との共同研究や音楽学の研究者との共同研究をもとに広く美を生みだす心の働きを実験的に検討してきた。
- 定型,非定型発達(リスク)乳児の縦断研究はコロナ禍の影響で3ヶ月半ほど中止していたが,7月以降は参加したい方のみ継続して脳機能実験,発達検査,運動実験などの研究を行った。縦断研究で撮影した母子相互作用のビデオデータについて社会的行動以外に音声,運動を含めた項目で追加コーディングをした結果,定型児においては6ヶ月齢での母子遊びにおける母親のリズム発話運動の働きかけがその後の言語獲得に影響を及ぼしているが,非定型児ではそうでないことが示された。
- 学童期双生児の来校調査、玉川大学での脳画像調査がいずれもコロナのために中断を余儀なくされていたが、11月より来校調査については大学のコロナ対策委員会の承認を得て再開した。その間、これまでに収集した縦断データをもちいて学会活動を行い、またチーム内で研究発表会を行った。
- 1年間に渡りオンライン研究会 "ReproducibiliTea Tokyo" を毎週開催し、国内各地から大学教員、大学院生が参加して、心理学研究が今後向かうべき方向性について、心理学における再現性問題、心理学理論の不在、科学における理論とは何か、心理学知見の一般化可能性、Open Scienceと研究倫理、といったテーマを据えて、集中的に議論を行った。
- うつ病と認知症の研究を進めるとともに、バークレー・エジンバラ大学での発表や、Global Social Medicine のネットワーク・ウェルカム財団との共同研究を通じて日本の精神医療に関する国際比較研究を行った。
- 人間の「心・脳・行動」の統合的な解明に向けて、特に「心」と「判断・行動」に関わる哲学、認知、情報科学の分野融合的アプローチのもと、センター構成員と共同研究員が論理と感性の研究をさらに進展させた。 達成度:成果は予想以上であり、充分な達成度であったと考える。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
主な出版論文数:71本, 主な雑誌 Neuroimage, Developmental cognitive neuroscience Cognitive Processing,, Brain, Brain Structure and Function, Brain Research, 美学
学会発表件数(国内・国際):84件(うち国内54件、国際30件)
主なイベント: 2021年2月25日 センター主催 センター年度末成果報告会 (三田) 2021年1月14日 センター共催 Disagreement in Logic and Reasoning 会議(オンライン)
メディア取材:雑誌AXIS、NHK-BSプレミアム、毎日新聞、New York Timesなど多数。
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄
- 記憶の神経基盤の障害により、どのような認知機能障害や神経変性に変化が現れるかを詳細に検討した。認知症における変性疾患の進行度合いの予測因子になる可能性のある、fMRIの安静時機能的結合の時間解析データについて詳細に検討した。そして、それが記憶と感情に関するどのような処理と関連するのかを解明するための分析手法を確立させた。
- 顔の印象に関する研究では顔形態と顔印象との数理的解析に基づいて顔の特徴量を明らかにすることができ、国際誌に掲載された。
- 成人の二者間、母と乳児の二者間の脳同期データを行動データとの関係からも適切に解析する方法を、シミュレーション研究等を通して開発し、実際のデータ解析に応用させた。この他にも乳児の表情筋活動計測を活かす相互作用実験や言語実験を実施した。
- 6か国による国際共同研究チームによって、カラスの多種間を用いた行動比較を行い、向社会行動が協同繁殖生態と結びついて進化したことを示唆する発見にいたった。
- 日本心理学会第84回大会 若手の会企画シンポジウム「若手が聞きたい再現可能性問題の現状とこれから」において話題提供を行った。
- 三田哲学会『哲学』特集号146集(岡田光弘教授退職記念号)2021年3月刊行予定において、哲学・論理・心理学の若手研究者・大学院生総勢10名が寄稿した。
センター オリジナルWebサイト:
慶應義塾大学 論理と感性のグローバル研究センターSDGs
設置期間
2014/04/01~2024/03/31
メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
---|---|---|---|
◎ 梅田 聡 | 文学部 | 教授 | 認知心理学、神経心理学、認知神経科学 |
安藤 寿康 | 文学部 | 教授 | 教育心理学、行動遺伝学 |
ヴォルフガング エアトル | 文学部 | 教授 | 倫理学史、形而上学、現代倫理学 |
斎藤 慶典 | 文学部 | 教授 | 哲学、倫理学 |
遠山 公一 | 文学部 | 教授 | 美学、美術史 |
奈良 雅俊 | 文学部 | 教授 | 現代フランス哲学、医療倫理学 |
松田 隆美 | 文学部 | 教授 | 英米・英語圏文学 |
山本 淳一 | 文学部 | 教授 | 実験心理学 |
伊澤 栄一 | 文学部 | 教授 | 実験心理学、神経行動学 |
川畑 秀明 | 文学部 | 教授 | 認知科学、感性情報学、教育工学、教育心理学、実験心理学 |
北中 淳子 | 文学部 | 教授 | 医療人類学、多文化間精神医学 |
平石 界 | 文学部 | 教授 | 社会心理学 |
後藤 文子 | 文学部 | 教授 | 美術史 |
皆川 泰代 | 文学部 | 教授 | 認知神経科学、心理言語学、発達心理学 |
寺澤 悠理 | 文学部 | 准教授 | 基盤・社会脳科学、実験心理学 |
木島 伸彦 | 商学部 | 准教授 | 社会心理学、教育心理学 |
峯島 宏次 | 文学部 | 准教授 | 哲学・倫理学 |
三村 將 | 医学部 | 教授 | 神経心理学、老年精神医学 |
入來 篤史 | 医学部 | 医学部客員教授 | 神経科学、霊長類、進化、知性 |
今井 倫太 | 理工学部 | 教授 | 知能ロボティクス、知能情報学、認知科学 |
山口 高平 | 理工学部 | 教授 | 知能情報学 |
今井 むつみ | 環境情報学部 | 教授 | 認知科学 |
前野 隆司 | システムデザイン・マネジメント研究科 | 教授 | 知能機械学、機械システム |
杉本 智俊 | 文学部 | 教授 | 西アジア考古学、聖書考古学、旧約聖書学 |
山口 徹 | 文学部 | 教授 | 地域研究、考古学、文化人類学・民俗学 |
柏端 達也 | 文学部 | 教授 | 行為論、現代形而上学 |
山内 志朗 | 文学部 | 教授 | 西洋中世・近世思想、倫理学と形而上学 |
松浦 良充 | 慶應義塾/文学部 | 常任理事/教授 | 比較大学史・大学論、高等教育思想史、アメリカ教育史、教育学教育論 |
藤澤 啓子 | 文学部 | 准教授 | 教育心理学 |
小倉 孝誠 | 慶應義塾大学 | 教授 | 仏文学 |
柴 玲子 | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、音楽認知 |
津田 裕之 | KGRI | 特任助教 | 実験心理学、視覚科学、神経美学 |
秦 政寛 | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、心理言語学 |
星野 英一 | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、視覚記憶 |
森本 智志 | KGRI | 特任助教 | 計算論的神経科学、音楽知覚心理学 |
岩谷 千穂 | KGRI | 特任助教 | 進化生態学、理論生物学、科学コミュニケーション、教育学 |
梯 絵利奈(-2021/4/30) | KGRI | 特任助教 | 色彩心理学、計算美学 |
徐 鳴鏑 | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、発達心理学 |
白野 陽子 | KGRI | 特任助教 | 発達心理学、発達認知神経科学 |
狩野 祐人(2021/12/1-) | KGRI | 研究員 | 医療人類学、地域精神医療 |
蔡 林(2021/11/1-) | KGRI | 研究員 | 言語獲得、認知発達、脳ネットワーク発達 |
周 一禎(2021/6/1-) | KGRI | 研究員 | 実験心理学、感性工学、多感覚情報処理 |
関根 悟 | KGRI | 研究員 | 発達心理学、応用行動分析学、機械学習 |
高橋 奈々 | KGRI | 研究員 | 生物心理学、動物行動学 |
辻 愛里 | KGRI | 研究員 | 情報通信技術、ヒューマンインターフェイス |
山本 淳(2021/5/1-) | KGRI | 研究員 | ビジネスとしての美術教育(企画、マーケティング戦略、著作権など) |
横山 紗亜耶(2021/12/1-) | KGRI | 研究員 | 精神保健福祉、ピアサポート |
朝比奈 正人 | KGRI | 共同研究員 | 神経科学、自律神経系 |
池田 功毅 | KGRI | 共同研究員 | 心理学の再現性、ディープニューラルネットワーク |
石川 菜津美 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
石塚 祐香 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
井出野 尚 | KGRI | 共同研究員 | 社会心理学、消費者行動、行動意思決定論 |
伊東 裕司 | KGRI | 共同研究員 | 認知心理学、司法心理学 |
牛山 美穂 | KGRI | 共同研究員 | 文化人類学、医療人類学 |
大前 美由希 | KGRI | 共同研究員 | 20世紀アメリカ美術、現代彫刻 |
大森 圭貢 | KGRI | 共同研究員 | 理学療法、リハビリテーション学 |
岡田 光弘 | KGRI | 共同研究員 | 論理学・哲学・論理思考研究・論理推論の認知科学と心理学・情報科学及び計算機科学の論理、アルゴリズム環境の倫理 |
小野 智恵 | KGRI | 共同研究員 | 美学、映画学 |
金成 祐人 | KGRI | 共同研究員 | 現象学、ハイデガー |
櫛原 克哉 | KGRI | 共同研究員 | 医療社会学, 精神医療 |
熊 仁美 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
源河 亨 | KGRI | 共同研究員 | 心の哲学、美学 |
小泉 篤士 | KGRI | 共同研究員 | 古代ギリシャ・ローマ美術史 |
坂上 貴之 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学(学習心理学)、行動分析学、行動的意思決定論 |
佐々木 祥太郎 | KGRI | 共同研究員 | 作業療法学、リハビリテーション学 |
佐藤 真人 | KGRI | 共同研究員 | デカルト、西洋近世哲学、形而上学、倫理学、科学哲学、自然、因果律 |
佐藤 有理 | KGRI | 共同研究員 | 認知科学、論理学、意味論、視覚表現 |
佐野 貴紀(2022/1/1-) | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学 |
柴田 みどり | KGRI | 共同研究員 | 認知神経科学、語用論 |
島根 大輔 | KGRI | 共同研究員 | 認知心理学、実験心理学、記憶、虚記憶 |
杉本 雄太郎 | KGRI | 共同研究員 | 応用論理学,論理推論 |
鈴木 誠 | KGRI | 共同研究員 | 作業療法,、リハビリテーション科学 |
高橋 優太 | KGRI | 共同研究員 | 論理学の哲学 |
田仲 祐登 | KGRI | 共同研究員 | 生理心理学・認知神経科学・内受容感覚・感情 |
塚本 匡 | KGRI | 共同研究員 | 臨床心理学、学習心理学 |
辻 幸樹 | KGRI | 共同研究員 | 認知神経科学、実験心理学 |
直井 望 | KGRI | 共同研究員 | 発達心理学・神経科学、発達障害の機序の解明および早期介入の効果についての行動・神経学的検討 |
西川 しずか | KGRI | 共同研究員 | 15世紀イタリア美術における宝石の表象 |
福田 恭子 | KGRI | 共同研究員 | 美術史、フランス絵画、風景画 |
星 聖子 | KGRI | 共同研究員 | 西洋美術史、イタリア・ルネサンス、ヴェネツィア・ルネサンス、祭壇画研究 |
松尾 加代 | KGRI | 共同研究員 | 記憶、意思決定、司法心理学、情報処理方略 |
松﨑 敦子 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
宮坂 敬造 | KGRI | 共同研究員 | 文化人類学(象徴人類学、心理と感覚人類学、医療人類学、映像人類学、精神生態の人類学) |
ゲルゲイ モハーチ | KGRI | 共同研究員 | 医療人類学、科学技術社会論 |
森井 真広 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学、意思決定、眼球運動測定 |
山田 理恵 | KGRI | 共同研究員 | 社会学 |
山根 千明 | KGRI | 共同研究員 | 西洋美術史、メディアアート、色彩論史、イメージ学 |
渡辺 茂 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学、比較認知科学、神経科学、行動薬理学 |