論理と感性のグローバル研究センター

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センター概要

21COEとグローバルCOEを継承し、人の判断や行動における論理と感性の関わりについて多層的に解明することを目的とする。特に、哲学、倫理学、論理学、美学・美術史学、文学、考古学などの人文科学系手法と心理学、行動科学、教育学、発達科学、医療人類学などの社会科学系手法を中心に、これに神経科学、認知科学、情報科学系手法を加えて、論理と感性の学際的な研究を行う。これを通じて人間のより深い理解を目指すとともに、成果の社会還元も目指す。学際性、国際性、若手研究者育成を重視している。

キーワード・主な研究テーマ

論理、感性、発達、進化、知的情報処理、発達科学、脳科学、合理性、非合理性

2020年度 事業計画

■2019年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

これまでの分野横断的で多層的な方法論による研究テーマを継続的に発展させる。

  1. 論理的判断と直観の関連性の研究をさらに発展させる。
  2. 美的判断、価値評価、倫理判断の特徴についての多層的研究を継続する。
  3. 島皮質における感情処理機能に関する認知神経科学研究、前頭極の機能とうつ症状との関連性に関する認知神経科学研究を行う。
  4. これと並行して、マウスやカラスの生理学的指標による実験手法や神経科学的実験手法により、情動感染や共感性の進化の基盤研究をさらに発展させる。
  5. 判断や思考課題の提示の仕方が被験者の判断や意思決定や思考にがどように影響するかという研究を、論理学、認知情報科学、認知心理学、社会心理学、行動心理学を分野横断的に進める。
  6. 乳幼児・児童・双生児を含む被験者実験により、社会性やコミュニケーションについて発達についての学際的で多層的な研究を進める。また、ASDリスク児の縦断研究も継続的に進める。
  7. これまで作り上げた支援プログラムが対人関係、親子関係の変容に及ぼす効果を、モーションキャプチャーやアイトラッカーにより今後さらに明らかにする。論理と感性の研究成果を、知的障がい児支援、認知症支援、教育支援、高齢者社会におけるグラフィック表示支援などへも応用する。医療文化人類学、発達科学、神経科学、論理学などの成果を用いる。
  8. 顔の印象研究,熟達性と創造性に関する研究。
  9. オセアニア環礁社会を支えるタロイモ栽培の天水田景観と気象災害のジオアーケオロジー。

■2020年度の新規活動目標と内容、実施の背景

人間の判断や思考における「論理」と「感性」はそれぞれ独立でははなく、互いに補完的に働いていることがこれまでの研究から明らかになってきた。論理的処理系と直観的・感性的処理系はこれまでしばしば独立で対立的デュアルシステムと理解されることが多かった。2020年度の研究において、我々はこの「論理」系と「感性」系の関係をさらに踏み込んで互いにどのように補完的役割を果しているかを明らかにしていく。人文科学的「心」研究、神経科学的「脳」研究、行動科学的「身体」行動研究は充分に成熟した段階にある。これらの成果を基にして、「心―脳―身体」系という学際的観点から「論理」と「感性」の相互依存的―相互補完的関係を多層的に捉える必要があり、学際的研究活動を継続する。より具体的には、

  1. これまでの研究成果の理論面を多層的にさらに整理する。また「論理」的側面と「感性」的側面について、理論的研究、被験者実験、フィールドワークを通じて兼空する。「論理」と「感性」の補完性の研究も研究対象とする。
  2. 我々の新たな研究成果を用いた応用研究をさらに行う。子供の論理と感性の発達の支援、発達障がい児支援、支援者トレーニング、地域へのアウトリーチ、よい意思決定や論理判断ができるグラフィック情報支援、人の健康や安全のための環境デザインへの応用などを考察する。
  3. これまで進めてきた(A)分野融合研究体制、(B)国際連携関係、(C)若手研究者育成の成果を整理をさらに進めて、研究計画に活かしていく。特に、4年後のセンター10年満期の総合成果まとめに向けて研究を進める。
    具体的研究例:Dissagreementの論理と哲学に関する日仏研究、認知症における進行の指標に関する認知神経科学研究、音声言語発話の発達。 熟達性と創造性の関係について視線計測や手の動きの分析を行い,客観的指標の開発を行う。
    オセアニアで切り開く「めぐり合わせ」の歴史人類学を新しい視点から考察する。

2019年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

予定通りの進展があり、充分な成果が得られた。前年度までの研究成果をもとに更なる成果を上げた。例えば次の点で予想以上の成果が上がった。

  1. 論理判断と論証について、構成主義・直観主義論証的観点から新しい知見を得た。また、合理性・規範性の基礎理論と意思決定の研究を進めた。
  2. 美的判断、価値評価において、芸術史的研究を進めた。分析美学に関しては哲学研究、美的評価の実験科学的研究も加わる多層的研究を進めた。また、庭園美や(サンゴ礁)景観美の研究、美術館ー博物館に関わる研究を多層的に行っている。
  3. 感情や記憶の神経基盤の障害により,どのような認知機能障害や神経変性が 現れるかを詳細に検討した。
  4. マウスやカラスなどの実験動物を用いた、情動感染、共感、論理的認知などについての基盤研究のほか鰻の神経科学分野でも先駆的成果を収めた。
  5. 質問紙・Web調査における回答バイアスについてWeb調査と眼球運動測定実験判断課題の提示の仕方が被験者の判断や意思決定や思考にがどように影響するかについて、成果をまとめた。異なったグラフィックデザインの選択が意思決定や論理推論にどのように影響するかじついて、成果をまとめた。
  6. 乳幼児・児童・双生児を含む被験者も含め、社会性やコミュニケーションの発達・進化の学際的研究を進め独自の成果をさらに積み上げた。
  7. 論理と感性の研究成果を、知的障がい児支援、認知症の社会支援などに応用した。発達科学、神経科学、医療文化人類学などの方法論をこのために導入した.また。早期発達支援プログラムを地域の拠点で活用し、効果を分析した。医療人類学的に多層的な医療支援の在り方を考察した。
達成度:成果は予想以上であり、充分な達成度であったと考える。

公刊論文、学会発表、イベントなど社会貢献の実績

主な出版論文数 : 61本
主な雑誌:Neuroimage, Developmental cognitive neuroscience Cognitive Processing, Brain, Brain Structure and Function, Brain Research

学会発表件数(国内・国際) : 107件(うち国内46件、国際61件)

主なイベント
 2020年02月29日:センター主催 センター年度末成果報告会 (三田)
 2020年02月23日:センター主催 人文社会科学の架橋に向けて16:『病いは物語である』(三田)
 2020年01月11日:センター主催 「論理の哲学セミナー - ウィトゲンシュタインとラムジー」(三田)
 2019年12月07日:センター主催 第3回行動ウェルネス研究会(三田)
 2019年12月01日:センター主催 エビデンスに基づいて保護者と取り組む発達障害児の早期療育モデル全国実装PJ最終報告シンポジウム(三田)
 2019年11月07日:センター主催 三田ロジックセミナー Mita Logic Seminar
 2019年09月18日:センター主催 The 13th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine
 2019年08月20日:センター主催 Thomas Bugnyar博士 講演会(三田)
 2019年06月02日:センター主催 哲学ワークショップ:ジョスラン・ブノア(Jocelyn Benoist)教授を含む7人のゲスト講演者
 2019年06月01日:センター主催 Nick Stang教授講演会(三田)
 2019年05月30日:センター主催 Jocelyn Benoist教授による講演会およびワークショップ(三田)
 2019年04月23日-25日:センター主催 5th France-Japan Cybersecurity workshop開催(三田)

メディア取材:日経、毎日など多数。

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

  1. Wittgensteinの論証論と構成的算術・直観主義算術との関連性を示した。論証の基盤的推論について哲学的手法と計算論的手法を用いて成果を挙げた。
  2. 美的判断の基礎研究に関して、美術作品における光と影や色彩の論理と感性研究を進めた。 分析美学の手法を音楽の美的判断に応用した。
  3. 上記(当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度)3.に関して、感情の中枢である島皮質が、微細感情の認識 関わること、前頭極が未来に関連する認知処理に関連することなどを明らかにした。
  4. 実験動物(マウスやカラス)を用いて、生理学的指標による実験手法及び神経科学的手法により、知性、情動感染や社会性などの基盤研究で成果を挙げた。カラスについて、道具を使うということに伴う論理性の進化と形態的特徴の関係について明らかにし、ヒト以外の初めての例として注目を集めた。
  5. 異なる提示法の違いにより、選好や判断や意思決定や裁判の判定がどように影響されるかについて、多層的に調査・分析し、新しい知見を得た。WEB調査、多属性商品カタログなどの調査とそのデータ分析を通じてこのことを明らかにした。
  6. 母の語りかけが新生児の言語の脳機能回路を活性化させる成果を示し、多くのメディアでも取り上げられた。
  7. 論理と感性の研究を、知的障がい児支援、認知症支援、論理教育支援、高齢者社会におけるグラフィック表示支援などに向けた応用のための準備研究で分野横断的に成果を得た。。発達科学、神経科学、医療人類学、情報論理学などの方法論を持つ研究グループがこれら重点テーマ研究を並行して進め成果を上げた。例えば発達科学的手法により開発した早期発達支援プログラムをスマホアプリに組み込み、病院やクリニックの小児科での活用で成果を得た。
  8. ドイツ近代庭園に関する「庭園芸術学」的考察やオセアニア環礁社会の天水田景観研究など、多層的な景観研究を進めた。

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位