人間知性研究センター

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センター概要

  • 人間知性研究分野におけるわが国の拠点形成 および 世界的研究ネットワーク形成 医学部・文学部・理工学部・経済学部等から構成されている総合大学である慶應義塾大学と、我が国における脳科学研究の拠点である脳科学総合研究センターを擁する理化学研究所との間で2008年12月10日に締結された包括提携を基盤とし、双方から多彩な研究者が集って学際的なチームを形成し、我が国における人間知性研究および当該研究の世界的ネットワークの拠点形成を本センターは目指している。
  • 人間を人間たらしめている「知性」について、生物学的基礎から文化的背景、さらにその将来に至るまで、幅広い視点から世界的規模での研究を発展させる 知性研究には人文科学的研究の長い歴史があるが、近年の認知科学、神経科学、コンピュータサイエンスの発展は、この人類にとっての重要な課題に新たなアプローチの可能性を提供している。このような分野複合的な研究を推進し、研究交流のハブとして機能する総合的な研究組織が成熟していない我が国において、「人間知性研究センター」こそがその先導者となることを目指す。人間知性の「分子生物学・発生工学からの解明」・「比較認知科学からの解明」・「脳科学からの解明」・「ロボット工学からの解明」の4グループがそれぞれ研究を推進し、知識と成果を共有する体制をとっている。

キーワード・主な研究テーマ

認知科学 脳科学 ロボット 社会 文明

2020年度 事業計画

■2019年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

本センターでは、前年度に続いて人間知性の「分子生物学・発生工学からの解明」・「比較認知科学からの解明」・「脳科学からの解明」・「ロボット工学からの解明」という各グループが一致団結して協力し、自然科学分野にとどまらず人文・社会科学分野からのアプローチにより人間知性を分子レベルから行動レベルまで幅広く探求する。事業項目は以下の通りである。
(01) 環境・遺伝子・神経活動との相互作用によるヒト認知進化誘導についての研究においては、霊長類疾患モデルである遺伝子改変マーモセットを用いて精神・神経疾患に関連した行動学的な異常を早期から捉えるための行動解析および画像解析(MRI, PET)を引き続き継続して実施し、成果として発表する準備を行う。
2019年度 事業報告の(02) ~(07) については最終年度にむけて人間知性に関する重要な成果として、論文化または論文化するための目処を立てる。
(07)fMRIを用いたマーモセット脳機能マッピング技術の開発では、マーモセット遺伝子発現と機能的連関がある部位との関連を詳細に解析する。
(08)電子顕微鏡を用いた脳機能マッピング技術の開発として、世界最速のマルチビーム走査電子顕微鏡神経活動を可視化する手法の開発に取り組む。
(09)蛍光カルシウムイメージング技術を用いてマーモセット脳の細胞種特異的長期間イメージングでは、1個2グラムという超小型蛍光顕微鏡を用い、自由行動下環境での脳深部機能マッピングの技術開発を目指す。
(10)蛍光と電顕によるコリレイティブ解析を本センターにて実施し、電顕・光顕で比較解析可能な細胞・組織の標識技術を世界最速のマルチビーム走査電子顕微鏡を用いたアルツハイマー病モデルマウスにおける特徴的な軸索変性像とアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在に関しての解析結果を論文にまとめる。
(11)アルツハイマー病ヒト死後脳解析として実際にアルツハイマー病患者脳を入手し、軸索変性像やアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在の解析を実施する方針である。
(12)ウナギの空間認知の神経機構をヒトと比較することにより、人間知性の特性を明らかにするプロジェクトでは空間認知の全体的手掛かりと全体的手掛かりの選択を明らかにするとともに、魚類の感覚遮断、脳損傷の交換を検討する。

■2020年度の新規活動目標と内容、実施の背景

新規項目として以下の項目を次年度より開始する。
(13)脳深部蛍光カルシウムイメージング 技術を用いて線条体における複雑な運動制御メカニズムの解明を目指す研究を行う。
(14)患者由来iPS細胞株、もしくはゲノム編集株から神経系の細胞を誘導し、ヒト細胞を用いた、in vitroにおけるてんかん様症状の再現と、アルツハイマー病発症メカニズムの研究を行う。

2020年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

当該年度の研究成果を研究項目ごとに記載する。

環境・遺伝子・神経活動との相互作用によるヒト認知進化誘導についての研究においては、霊長類疾患モデルである遺伝子改変マーモセットを用いて精神・神経疾患に関連した行動学的な異常を早期から捉えるための行動解析および画像解析(MRI, PET)を引き続き継続して実施し、成果として発表する準備を行う。
>>マーモセットの遺伝子改変技術を用いて、パーキンソン病および自閉症様症状を示すRett症候群モデルを作成し、行動解析および画像解析(MRI, PET)を行い、前者については論文投稿を行った(Kobayashi et al., Submitted)。また、マーモセットの遺伝子改変技術を用いて、ヒト特異的遺伝子ARGAP11B遺伝子の機能解析を行い、Science誌に論文発表した(Heide et al., Science, 2020). さらに、Harvard大学のWalsh教授との共同で、GPR56遺伝子のプロモーター機能の解析を、トランスジェニック・マーモセットを用いて行った(Murayama et al., Sci Rep, 2020)。

fMRIを用いたマーモセット脳機能マッピング技術の開発では、マーモセット遺伝子発現と機能的連関がある部位との関連を詳細に解析する。
>>マーモセットの視覚系についての解析を進め、論文投稿をした(Keneko et al., Submitted).

脳深部蛍光カルシウムイメージング 技術を用いて線条体における複雑な運動制御メカニズムの解明を目指す研究を行う。
>>大脳皮質一次運動野(Kondo et al., Cell Reports, 2018)に引き続き、マーモセット線条体の脳深部蛍光カルシウムイメージングに成功した。

患者由来iPS細胞株、もしくはゲノム編集株から神経系の細胞を誘導し、ヒト細胞を用いた、in vitroにおけるてんかん様症状の再現と、アルツハイマー病発症メカニズムの研究を行う。
>>慶應義塾大学病院メモリーセンターと共同し、孤発性アルツハイマー病及びMCI患者由来のiPS細胞の樹立に成功し、神経系細胞に誘導し、病態解析を行っている。また、我々の研究グループは、Aβを産生するγ-セクレターゼ複合体を構成する触媒サブユニット・プレセニリン(PS)には2つの型(PS1及びPS2)が存在することに着目し、ゲノム編集技術を用いて各々の触媒サブユニットあるいは両方を欠失させたヒト神経細胞モデルの開発に世界で初めて成功した(Watanabe et al., eNeuro, 2021)。これらのヒト神経細胞から産生されたAβを検討したところ、PS2を持つγ-セクレターゼ複合体からは、Aβの中でも毒性の強い種類が産生されていることが示された。さらに、特異的な免疫細胞染色によって、PS2を持つγ-セクレターゼ複合体は主に後期エンドソームに局在していた。これらのことから、γ-セクレターゼ複合体の触媒サブユニットの種類および神経細胞内での局在部位により、Aβの産生能の差異が生じうることが明らかになった。

公刊論文、学会発表、イベントなど社会貢献の実績

公刊論文数:61件
Nature, Science, Nature Communications, Annual Review of Neuroscience, PNAS, J Biol Chemなど

学会発表件数:国内9 件・国際7件

イベントなど社会貢献の実績
(1)LINK-Jシンポジウム/2020年6月3日/WEB
(2)患者・市民参画イベント『患者・社会と考える再生医療/ 2020年9月5日
(3)第63回日本神経化学会大会・大学生対象公開講座/2020年 9月12日
(4)第一回Keio-UCSD Webinar/2021年1月15日)
(5)第二回Keio-UCSD Webinar/2021年1月29日
(6)第一回Keio-Stanford Webinar/2021年1月30日)

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

これまでに本センターでは、慶應義塾大学と理化学研究所との包括協定に基づき設置された人間知性研究センターの研究者を中心として、2014年度からスタートしている国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」において、慶應義塾大学が研究機関の一員として重要な研究を担っていることが認められ、世界でもまだ3台しか通常稼働していない世界最高速の広範囲撮影用の61本のビームを有するマルチビーム走査電子顕微鏡が慶應義塾大学に2016年に導入され、64個の検出器を備えた最先端の超高解像度蛍光顕微鏡が慶應義塾大学へ2017年度に設置され、それらを活用した様々な成果が複数報告されつつある。また、蛍光カルシウムイメージング技術を用いてマーモセット脳の細胞種特異的長期間イメージングの項目を実施するために、新規開発された1個2グラムという超小型蛍光顕微鏡nVistaおよび、光刺激も可能となるnVoke顕微鏡が2017,18年にそれぞれ導入され、オートフォーカス機能を搭載するなどしたバージョンアップを2019年2月に実施し、霊長類の生きた脳の中での神経活動を蛍光プローブで可視したり、光刺激により神経活動を人工的に起こすことが可能となり、その成果も論文化されつつある。2020年度は、COVID-19 Pandemicのため、Face-to-Faceの会合やイベントは出来なかったが、多くのWebinarによりセンター内外のメンバー間で交流を深めることが出来た。また、マーモセットの遺伝子改変技術を用いて、ヒト特異的遺伝子ARGAP11B遺伝子の機能解析を行い、Science誌に論文発表するなど(Heide et al., Science, 2020)、多くの論文発表を行うことが出来た。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を3. すべての人に健康と福祉を
17. パートナーシップで目標を達成しよう17. パートナーシップで目標を達成しよう

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位