インターネット・オブ・ブレインズ・ソサエティ(IoB-S)
横断
研究概要
脳科学技術の進展には著しいものがあります。脳情報を計算論的処理をして一定の物理力に変換するBMI(Brain-Machine Interface)を中核技術として、リアル/ヴァーチャルの両世界でCA(Cybernetic Avatar)を操作することによって、わたしたちの身体能力が飛躍的に拡張し、時間や空間からの解放も徐々に社会実装されつつあります。こうした脳科学技術の発展が人間や社会にもたらす影響や意味を人文社会科学と科学者・技術者との対話によって探究していくのがこのプロジェクトです。IoT(Internet of Things)のつぎにやってくるIoB(Internet of Brains)の世界を見据えて、IoB-S("Internet of Brains"-Society)を立ち上げ、広く塾内外、国内外の有志が交流するプラットフォームを提供します。
2025年度事業計画
■2025年度の新規活動目標と内容、実施の背景・国内ELSI関係 ...昨年度、IoB-S 研究会実装実験系中間報告書『脳神経科学技術(ブレインテック)の法的課題――神経法学(Neurolaw)の構築に向けて』の完成を見、脳神経科学技術の法的・倫理的諸問題の基礎的調査は一応完了したので、今年度は、MS金井プロジェクトの参集する科学者との個別インタビューを通じて、より具体帝なケースを収集し、実践的・実務的(でかつ理論的)整理を行いたい。また、引き続き、国内学会への参加を目指す。
・国際交流の強化 ...昨年度、国際的なブレインテック規制のルールメーキング過程に参加し、国際的なneurolaw研究者の団体やユニットとの連携のきっかけができたので、今年度は、国際交流を今まで以上に力を入れて、我々IoB-Sのメインの活動として位置づけたい。同時に、単にシンポジウムに参加するだけではなく、継続的な共同研究の提案、海外のジャーナルへの投稿の積極化、等々を進める。特に、今年度の9月あるいは10月にミュンヘン工科大学のマルチェロ・イエンカ教授(国際的な神経倫理学研究の中心人物)を東京にお招きして、シンポジウムを開催する予定である。
2024年度事業報告
・経年で継続している活動内容について、継続する背景・根拠と目標
ELSIチームとして、IoB(Internet of Brains)の実現に伴うELSI課題の検討を継続しておこなってきたが、当該年度において、2022年度と2023年度の法学・倫理学系のリサーチをまとめた、IoB-S 研究会実装実験系中間報告書『脳神経科学技術(ブレインテック)の法的課題――神経法学(Neurolaw)の構築に向けて』の作成と配布を行った。また、これまでの連載(法学セミナー誌上における「インターネット・オブ・ブレインス」)の終了とそれにともなう書籍化を進め、補正と校正ゲラの完成を見ることができたが、出版自体は2025年度初夏にずれこむことになった。いずれにしても、中間報告書の発行を契機に国内のさまざまな研究会合等に参加し、我々のユニットのプレゼンスを高め、かつ神経法学という新分野の意義を啓蒙する活動を積極的に行ったところである。
・2024年度の新規活動目標と内容、実施の背景
2024年度に特有の活動としては、これまで蓄積されてきた研究成果についての国際発信を強化することを掲げてきた。この目標は当該年度において大きく達成されたと考えている。従来の韓国やアメリカでの報告機会を前提に、当該年度では、アメリカ(ボルティモア)、ヨーロッパ(マドリッド、ジュネーブ、ミュンヘン、ミラノ)で報告や会合を持つことができた。さらに、そこで得た知己がさらなるネットワークの拡大の呼び水となり、ブラジルでの神経法学系のコンファレンスに参加し、さらにIoB-Sの代表である駒村を編者とするブックプロジェクトが展開し、現在、ゲラ校正の段階にある。さらに、神経倫理の国際的なルールメーキングをリードするマルチェロ・イエンカ教授を東京の金井プロジェクトラボに招待し、2025年度の研究連携(日独共同研究)を促進することで合意を得た。さらに、American Journal on Bioethisc : Neuroscienceにアジアの神経法学の特集を組み、IoB-Sからは駒村が寄稿した(2026年に公刊予定)。近年、ニューロテックにかかる国際的なルールメイクやELSIの検討の動きが加速しているが、この動向にわれわれのユニットも参画するため、日本の政策形成担当者たちとの接触も解したところである。
・国外での学会発表等 International Neuroethics Society(INS), Baltimore, MA, USA 2024年4月18日(駒村、福士、小久保)、ICON・S(International Society of Public Law), Madrid. Spain 2024年7月9日(駒村、福士、小久保)、Workshop @ Utrechit Iniversity, Utrechit, Netherland 2024年7月11日(福士、小久保)、Workshop -Ethics and Governance of Emerging Technologies: European and Asian Perspectives-, Germany, Munich 2024年7月12日(福士、小久保)、EPFL, Hybrid Mind Conference, Geneva, Switzerland 2024年10月16日から18日(駒村、小久保), III Seminar of the International Network on Neurolaw and Human Rights, Zoom conference, 2024年10月28日から30日(駒村、福士、小久保)
・国内での学会発表等 The 10th CiNet Conference Frontiers of responsible research and innovation in neuroscience, 大阪大学 2024年12月10日から11日(駒村、福士、小久保)、脳神経倫理研究会、生理学研究所 2025年1月24日(小久保)。
・公刊論文数「4点」・IoB-S 研究会実装実験系中間報告書『脳神経科学技術(ブレインテック)の法的課題――神経法学(Neurolaw)の構築に向けて』(研究費による自費出版・配布)、Tamami Fukushi, East Asian perspective of responsible research and innovation in neurotechnology, IBRO Neuroscience Reports vol 16 (2024) 582-597, 松尾剛行「ブレインテックと行政法―脳神経情報を利用して行政活動が行われる時代における行政法総論、行政救済法、行政規制等の検討」一橋法学49巻3号(2024年)31頁所収、松尾剛行「ブレインテックと手続法-民事訴訟法、刑事訴訟法を中心に」学習院法務研究19号(2025年)13頁所収。
・2024年度の成果としては、今までの法学的・倫理学的争点の整理をおこなった、IoB-S 研究会実装実験系中間報告書『脳神経科学技術(ブレインテック)の法的課題――神経法学(Neurolaw)の構築に向けて』の出版・配布をおこなったことをまず挙げておきたい。これをもって国内ELSIの出発点を築くことができた。次年度では、より個別的なケースを、収集し、分析し、解決策の提言をしていくつもりである。
・2024年度の成果として特に強調したいのは、国際交流である。24年度に入り、駒村、福士、小久保の3名が中心になって国際交流のネットワークが一段と広がり、我々のユニットもそれなりに国際社会で認知されるようになったが。これは、この三名が従来行ってきた国際交流のネットワークを基礎に開始したものであり(駒村が国際公法学会、福士が国際神経倫理学会、小久保がNeurolawのネットワーク)、それらの旧来成果を統合し、重要な国際動向に結びつけることが当該年度において可能になった。世界のさまざま研究者や研究機関から、現在、執筆参加や共同研究のお誘いを受けている。次年度以降は、この国際動向にしっかりと寄り添い、また、研究参加者の増員も射程にいれて、慶應義塾(KGRI/XDignityセンター)、OIST,アジアの連携機関を、neurolawという新機軸で結びつけるハブとなりたいと考えている。
2023年度事業報告
本年度は、ELSIレポートの作成やIEEEのNeuroethics Framework Wellnessチームの地域シンポジウムを主催するなど積極的な国際的活動を展開した。
また、国内学会での研究報告、研究業績の刊行(論文・著書の双方を含む)を行なった。
これにより、計画内容の全てを不足なく達成することができただけでなく、それを上回る国際的研究発表を行うことができた。
公開論文数:14
刊行著作数:1
国際学会等発表件数:3
国内学会等発表件数:6
IEEE Neuroethics Framework Wellnessチームの地域ワークショップを主催したほか、第46回日本神経科学学会において、
シンポジウム:「『倫理』だけで十分か―ニューロテクノロジーの持続可能な発展に向けて―」を共催した。
このほか、二ヵ年の法学セミナー連載の最終年度として具体的な想定事例の検討を行うことで、より具体的かつ詳細な法的・倫理的議論を展開することができた。
また、延世大学医学研究科とシンポジウムを共催するなど、国際交流活動にも力を入れた。
インターネット・オブ・ブレインズ・ソサエティ(IoB-S)
SDGs









プロジェクトメンバー
プロジェクトメンバー・所員について◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
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◎ 駒村 圭吾 | 法学部 | 教授 | 憲法、憲政史、憲法訴訟、権利基礎論 |
大島 義則 | 弁護士法人長谷川法律事務所/専修大学法科大学院 | 弁護士/教授 | 憲法学、行政法学、情報法 |
小久保 智淳 | 東京大学大学院情報学環 | 助教 | 憲法学、神経法学、認知過程の自由(congnitive liberty)、神経科学 |
堤林 剣 | 法学部 | 学部長/教授 | 政治思想史、比較政治思想史 |
横大道 聡 | 法務研究科 | 教授 | 憲法学、比較憲法学、表現の自由 |
斉藤 邦史 | 総合政策学部 | 准教授 | 新領域法学、民事法律実務、情報法 |
成原 慧 | 九州大学大学院法学研究院・法学部 | 准教授 | 情報法、表現の自由、プライバシー、個人情報保護、人工知能と法 |
酒井 麻千子 | 東京大学大学院情報学環 | 准教授 | 知的財産法、情報法・政策 |
西村 友海 | 九州大学大学院法学研究院 | 准教授 | 法哲学、法情報学、人工知能と法 |
福士 珠美 | 東京通信大学人間福祉学部 | 教授 | 脳神経倫理学、脳科学、責任ある研究とイノベーション、科学コミュニケーション |
松尾 剛行 | 弁護士 | 情報法(AI、医療情報、個人情報、プライバシーを含む) | |
数藤 雅彦 | 弁護士 | デジタルアーカイブ、著作権法、個人情報、肖像権 | |
小出 優花 | Boston Consulting Group | データサイエンティスト | 憲法学、心理学 |
山梨 光貴 | 立正大学法学部法学科 | 専任講師 | 犯罪学、刑事政策 |