KGRI Challenge Grant: ナノ粒子による難治がんに対する免疫療法の開発

創造

研究概要

Koike

難治がんに対する治療法として、免疫細胞を薬として使う免疫細胞療法が期待されている。特にキメラ抗原受容体(CAR)導入T細胞療法は、難治性の血液がんに対して高い治療効果を示し、実臨床に導入されている。しかし、大部分のがん種ではCAR-T細胞療法は一過性の有効性にとどまり、持続的な治療効果は得られていない。末梢血液中を循環する血液がんと異なり、腫瘍塊を形成する固形がんでは、本来がん組織近くのリンパ節でT細胞が共刺激、サイトカインなどの複合的なシグナルを伴う抗原提示(プライミング)を受けることで、がん組織に遊走する。本研究ではCAR-T細胞にこの仕組みを付与するため、複合的な免疫細胞活性化シグナルを誘導するナノ粒子を開発する。これにより人工的にCAR-T細胞に対するプライミング・腫瘍組織への遊走を行える抗原提示システムを開発し、再発・難治性の固形がんを標的としたCAR-T細胞療法の新規治療戦略の確立を目指す。研究代表者は、既に細胞膜小胞を用いた開発を通じてT細胞の活性化に寄与する免疫制御分子について知見を得ている。これらの分子群を研究協力者・松原が有する生体ナノ粒子設計技術を応用して、ナノ粒子コアを様々なサイズで調整しながら、最適なプライミングを行える人工粒子を合成する。

2025年度事業計画

■2025年度の新規活動目標と内容、実施の背景

初年度において、細胞膜小胞に搭載するべき免疫制御分子についての情報を得た。特に通常考えられる抗CD3抗体と共刺激分子による活性化に加えて、サイトカインシグナルや免疫チェックポイント分子の阻害が治療効果を大きく変化させることを見出した。そこで2年目はこれらの知見に基づき、初年度から検討を進めている人工合成ナノ粒子の種々の分子を搭載した上で、その抗腫瘍効果を固形がん腫瘍モデルで検証する。その際、バックボーンとなる粒子体が変わることから、組織への移行性や半減期などの物性についても評価を行う。これらの研究遂行を通じて、複合的な免疫刺激シグナルをT細胞に送達し、その効果を飛躍的に高めることができる抗腫瘍ナノ粒子製剤の開発を目指す。


2024年度事業報告

■当該年度活動計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

当該年度は、研究代表者・籠谷がこれまでに持つ細胞膜小胞のデータに基づき、研究分担者・松原が種々の分子を搭載した人工ナノ粒子合成を進めた。搭載する分子については、細胞膜小胞のプラットフォームを活用して、in vitroの実験系でT細胞の細胞傷害活性、サイトカイン分泌、増殖などの誘導効果を指標として検討を進めた。さらに、in vivoにおいても血液腫瘍モデル、及び固形がんモデルを用いて、細胞膜小胞の効果検証を行った。特に固形がんモデルでは腫瘍微小環境による免疫抑制作用があるため、これを膜小胞上の免疫制御分子搭載により環境改変を行える可能性があると考え、種々のサイトカイン、免疫チェックポイント分子について検証を行った。治療効果を指標に複数の有用な分子、及びその組み合わせの有効性を示した。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

[論文] 1件
Ito Y, Kasuya H, Kataoka M, Nakamura N, Yoshikawa T, Nakashima T, Zhang H, Li Y, Matsukawa T, Inoue S, Oneyama C, Ohta S, Kagoya Y. Plasma membrane-coated nanoparticles and membrane vesicles to orchestrate multimodal antitumor immunity. J Immunother Cancer. 2025;13(1):e010005. doi: 10.1136/jitc-2024-010005.
[主な学会発表]
国内学会:6件、国際学会:3件

■プロジェクト活動を通じて特に成果を挙げた事柄

上記の論文実績で示されるように、膜小胞については様々な免疫制御分子を搭載しながら治療効果を複数の腫瘍モデルで実証して、国内外の学会発表において注目されたほか、学術論文として公表することができた。特に従来の免疫療法では持続的な有効性が乏しい固形腫瘍モデルにおいても抗腫瘍効果が見られており、複数の分子搭載による効果であると考えられた。また本プロジェクトで進めるナノ粒子への分子搭載についても、コンジュゲート率の検討を進めて、プロトコール開発において着実な進捗を達成できた。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を3. すべての人に健康と福祉を
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

プロジェクトメンバー

プロジェクトメンバー・所員について

◎印は研究代表者

◎ 籠谷 勇紀 医学部 教授 腫瘍免疫学
松原 輝彦 理工学部 准教授 ナノ粒子工学
筒井 正斗 理工学部 助教 ナノ粒子工学