スピントロニクス研究開発センター

   

センター概要

「スピントロニクス研究開発センター」は、慶大が日本のスピントロニクス研究の中心的役割を果たすことを目的として、基礎から応用の幅広い領域で世界をリードする研究成果を発信する。スピントロニクスとは、物質の電気特性と磁気特性の双方を制御することにより得られる新しい物理現象を見出し、その成果を電子・情報通信産業のイノベーションに結びつける新しい学術分野である。その創成と発展には、本塾の研究者と出身者が大きく寄与しており、今後の基礎学問としての更なる発展と産業界における応用を先導するためにスピントロニクス研究開発センターを設置した。

2022年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

2021年度(以下、事業報告のとおり)は、本センターの活動を通じて慶大のスピントロニクス研究成果の発信に加え、一部成果の国際的な共同研究へ発展を実現できるなど、当初目的通りの成果を上げることができた。このような成果を継続的に上げるため、2022年度も引き続き下記の活動を行う。

  1. シンポジウム/研究会の共催・協賛
  2. 広報・アウトリーチ活動
  3. 国際会議派遣補助
  4. 慶大理工学部の研究共有スペースを利用したセンターの研究スペース拡充
  5. 最先端スピントロニクスデバイス研究に必要な共用設備料金の補助

■2022年度の新規活動目標と内容、実施の背景

本センターは、塾内のスピントロニクス研究者の拠点であると同時に、国内外のスピントロニクス研究者間の連携を推進するスピントロニクス連携ネットワークの中心としての任務を遂行する。そのため、日本のスピントロニクス分野の研究者コミュニティの代表として、東京大学、東北大学、大阪大学、京都大学、慶應義塾大学の拠点5大学が「スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク(Spintronics Research Network of Japan, Spin-RNJ)」拠点形成計画を「学術研究の大型プロジェクト-ロードマップ2020」として応募し、最高評価ランクでこれに採択され、2022年度から6年間の予算措置が内定している。このSpin-RNJ活動を通じ、慶大のスピントロニクス研究において大型予算の獲得を狙うだけでなく、拠点大学間の人材交流を通じた学術領域の発展と国際競争力の向上を目指す。また、これらの予算を活用してセンターオフィスと共通研究スペースを開設し、センター所員の有機的な連携を実現することにより、スピントロニクス研究において新機軸を生み出す。

2021年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

本年度は、電子スピンを利用した全く新しいデバイス応用に結び付ける研究を実施し、次のような成果を得た。

  1. 「非一様物質中の電流渦を用いたスピン流生成法の開発」磁気回転効果は、物質の磁気の源が電子の回転運動であることを示す普遍的な物理現象であり、全く新しい磁気制御方法として期待されていた。しかし、その効果の大きさは、最新の遠心分離器で回転させても地磁気よりも弱く、物質の磁気制御に使えなかった。研究グループは、電気伝導度をナノメートル幅で変調させた傾斜材料を人工的に作製し、プラチナに匹敵する巨大なスピン流を生成できることを世界で初めて発見した。
  2. 「音波を用いたスピン起電力生成法の開発」強磁性薄膜に音波を注入すると、磁気回転効果と磁気弾性効果の交差効果としてスピン起電力が発生することを新たに理論予言した。
1.、2.の成果とも、中国科学院大学カブリ理論科学研究所との国際共同研究の成果である。さらには、2.の成果は本センターの特任助教が主導したものである。このように、本センターを介した密接な研究交流によるものであり、当初の目的を達成している。



■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文数:4報(Physical Review Letters (IF=9.161 @2020)など)
学会発表件数:(国内)7件、(国際)7件

イベントなど社会貢献の実績:
Spin-RNJ研究発表会(2022年3月10日、オンライン予定)の開催(東大・東北大・阪大・京大・慶大による共同開催)など

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

研究成果において、実用化に向けた展開が期待できるものとして、(1)表面弾性波におけるスピン流源の空間分布を調査した研究の副産物である「ナノスケール傾斜材料による巨大スピン流生成」と、(2)表面弾性波の格子回転を利用した「スピン起電力の発現」が挙げられる。(1)では、アモルファスSiと多結晶Al複合材料において、巨大なスピン流が生成できること、更には電流とスピン流の変換が極めて非相反的であることを発見した。スピン流を用いた磁気メモリ動作の飛躍的な省電力化と、スピン流生成材料の新たな開発基軸を与える研究成果である。(2)は、交流磁場ではなく音波を用いて強磁性体に直流のスピン起電力を発現できることを理論予言したものである。電流印加が必須の交流磁場ではなく、電圧制御が可能な音波によるスピン起電力生成は、実デバイス化において消費電力を大きく抑制できるため、今後様々な応用展開が見込める。
なお本件は、2022/02付でプレスリリースされた。
『磁気回転効果を用いて磁性体から起電力を取り出す機構の発見-音波を用いたスピントロニクスデバイス応用へ-』(2022年2月21日プレスリース)

SDGs

12. つくる責任 つかう責任12. つくる責任 つかう責任

設置期間

2021/03/01~2024/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 能崎 幸雄 理工学部 教授 磁性物理学、スピンダイナミクス、ナノ物性
江藤 幹雄 理工学部 教授 物性物理学、半導体、メゾスコピック系、量子ドット、ナノテクノロジー
斎木 敏治 理工学部 教授 ナノフォトニクス、半導体量子構造、相変化材料工学、ナノバイオセンシング
白濱 圭也 理工学部 教授 物性 II
松本 佳宣 理工学部 教授 センサ、IoT、センサネットワーク、マイコン・電子回路、機械学習
的場 正憲 理工学部 教授 強相関電子物理、固体物性、物質設計、探索的材料物性
神原 陽一 理工学部 教授 超伝導、相転移、磁性、電子構造、新物質
田邉 孝純 理工学部 教授 フォトニックナノ構造、微小光共振器、省電力光デバイス、超高速光技術、光集積回路
早瀬 潤子 理工学部 教授 ナノ構造化学、ナノマイクロシステム、光工学・光量子科学、物性Ⅰ、原子・分子・量子エレクトロニクス
牧 英之 理工学部 教授 ナノ物質、ナノデバイス、材料物性
山本 直樹 理工学部 教授 量子計算、量子情報、数理工学
渡邉 紳一 理工学部 教授 光物性物理学、テラヘルツ分光、超高速分光
安藤 和也 理工学部 准教授 スピントロニクス、スピン量子物性
太田 泰友 理工学部 准教授 ナノフォトニクス、量子情報処理、トポロジカルフォトニクス、ハイブリッド集積、量子エレクトロニクス
栄長 泰明 理工学部 教授 光機能性材料、ナノ粒子・薄膜、ダイヤモンド電極
海住 英生 理工学部 准教授 磁気エレクトロニクス、ナノ科学