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【採択者決定】2023年度 KGRIプレ・スタートアップ研究補助金

2023.06.28

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KGRIは、慶應義塾大学のグローバル化と学際研究を力強く推進するため、2020年度から、スタートアップ研究に至る前段階の萌芽的な研究に対して、プレ・スタートアップ研究補助金助成を行っている。本年度は募集要項の周知方法を改めた結果、応募件数としては横ばいだったものの、若干ではあるが、これまでより幅広い研究領域からの応募があった。

本年度の採択者は以下の通りである。本補助金が、採択者において適切かつ有効に活用され、各研究の発展を支える一助になれば幸いである。さらには、次年度以降、学内の領域横断的研究チームの組成が行われ、より大型の研究資金の獲得や、よりグローバルかつ学際的な展開へとつながることを期待したい。


【採択者】

「認知症患者・失語症患者の言語における時間―意味ダイナミクスの解明」 
 板口 典弘(文学部 准教授)

研究成果報告

■研究概要
本研究では,マルチスケール時間情報解析,自然言語処理に基づいた意味ネットワーク解析という2つの解析の統合によって,加齢や脳機能障害等に起因する言語症状の定量評価法を刷新することを目指す。解析対象とする行動データは,言語流暢性課題(VFT)への回答である。VFTにおいて,参加者は一定の時間内にできるだけ多く,ある意味カテゴリ(例:動物)に属する単語を回答する。この課題は,加齢や認知症などを簡便かつ感度よく評価可能であるため,心理学研究や臨床現場で重用されている。本研究は全体として,①マルチスケール時間情報を用いたVFT解析法の確立,②時間情報を定量化する音声認識システムの開発,③LDA意味ネットワークに基づいたVFT解析法の確立,④加齢や脳機能障害に起因する"時間-意味"的言語特徴の解明およびその神経基盤の特定,⑤研究加速・臨床応用に向けた統合パッケージの公開,という5つの下位研究により構成されている。


<研究成果報告>

■目的
2023年度には下位研究のうち,(a)LDA意味ネットワークに基づいたVFT解析法,および(b)マルチスケール時間情報を用いたVFT解析法を確立することを目的とした。LDA(潜在ディリクレ配分法,Blei, 2003)とは自然言語処理手法のひとつである。本研究ではLDAをWikipedia記事に対して実施し,意味的解析の基準となる標準的な意味ネットワーク(動物サブカテゴリ)を構築することを目的とした。マルチスケール時間情報とは,複数の時間スケールからVFT回答を検討する解析手法である。本研究では,課題内の時間スケールに加え,リハビリレベルの長時間スケールにおいてVFT成績がどのように変化するかを検討した。

■方法
(a) まず,日本語版Wikipedia(1,125,721記事)から670種類の動物名単語リストを作成し,1記事に2つ以上含む30,459記事・計102,467単語に対してLDA解析をおこなった。その際のパラメータはトピック数=10,α=0.4であった。構築された動物サブカテゴリ意味ネットワークに基づいて,大学生を対象としたVFT回答データを対象における正答反応数とMCS(平均クラスタサイズ)を算出し,それらの相関係数を求めた。
(b) 4名の脳卒中により言語機能あるいは前頭葉機能に低下を示す患者に対して,VFTを20日~31日間,連続実施した。実施期間は各患者の状態に合わせて変動した。成績を評価する指標として,通常使用される正答単語数およびエラー数に加え,MCS,平均単語頻度,頻度回帰係数を算出した。頻度回帰係数とは,課題内における頻度効果を示す指標である。これらの指標がリハビリスケールによりどのように変化するかを検討した。

■結果
(a) 1分間の課題内における反応を,回答タイミング,単語頻度,クラスタといった複数の情報をまとめて視覚化する手法を開発した。健常若年者における正答反応数とMCSの相関係数rは-.19 (p=.20)であった。
(b) 各患者における課題内の意味クラスタがリハビリという日単位の長時間スケールにおいてどのように変化するかを視覚化する手法を開発した。正答反応数は全患者において向上した。誤カテゴリエラー数は全患者において減少したが,繰り返しエラー数が減少した患者は1名のみであった。MCSは2名の患者が増加,平均単語頻度は2名の患者が低下,頻度回帰係数は3名の患者が低下した。

■考察
2023年度の目的である(a)LDA意味ネットワークに基づいたVFT解析法,および(b)マルチスケール時間情報を用いたVFT解析法を確立については概ね達成された(論文未発表のため,本報告には含めていない指標・解析も存在する)。検討(a)における相関分析の結果は,MCSは従来の正答反応数では評価できない側面を評価しているという考えを支持するものであり,その有用性が示された。検討(b)については,患者の症状に依存したリハビリ経過を浮き彫りにすることができた。本報告の範囲内では,頻度回帰係数のリハビリ経過が複数の時間スケールを同時に評価する,新規性の高い解析となっており,その変容過程を定量的に示せた点で大きな成果である。


「結核蔓延度から考える透析患者へのIGRA検査による潜在性結核診断・治療の意義」 
 吉藤 歩(医学部 専任講師)

研究成果報告

■研究概要
2022年には世界で推定1,060万人が結核に感染し、130万人が死亡している。日本では結核の罹患率は10万人あたり8.2人であるが、タイでは176.0 、ベトナムでは155.0と依然として高蔓延状態が続いている。 また、透析患者では、透析導入後、結核の発症率が一般人口と比較し、10~25倍となることが知られている。透析患者が結核を発症すると時間と場所を共有する他の透析患者への空気感染伝播や重症化リスクが高いことが知られている。
そこで、本研究では、結核の蔓延度が異なるタイ、ベトナム、ベルギー、日本の透析導入患者に対して、抗原特異的インターフェロン-γ遊離検査(IGRA)という血液検査を用いることで、結核に感染しているが、発症していない潜在性結核感染症の状態を早期診断、早期治療を行うことの意義を、医学的および医療経済学的視点から明らかにする。


<研究成果報告>

■目的
結核の低蔓延国(日本、ベルギー)および高蔓延国(タイ、ベトナム)において、透析患者の結核発症を予防するために、潜在性結核のスクリーニング検査としてIGRA検査を行い治療することの意義を、医学的および医療経済学的な視点から検討する。

■方法
日本、ベルギー、タイ、ベトナムの透析医療機関において、
① Cross-sectional study:研究対象医療機関において透析を受けている患者を対象に研究開始および終了の2時点でIGRA検査を実施する
② Prospective cohort study:研究対象医療機関において透析導入となる患者の導入時、6ヶ月後にIGRA検査を実施し、導入後12ヶ月以内の発症の有無について検討する
を行う。主要評価項目としては、潜在性結核感染症のprevalence、副次的項目として、結核の発症率、IGRA検査費用および結核治療費用、結核発症時の感染対策費用、潜在性結核患者および結核発症患者のQOL(EQ-5D)を設定し、評価する。

■結果
本プレ・スタートアップ研究では参加予定施設とWeb meetingを行い、プロトコールについて議論をおこなった。
その後、実際にタイ、ベトナム、ベルギーを訪問し、研究の実施の運用方法(患者リクルートの方法、院内の研究支援体制、検体輸送について、検査の測定方法について、データの入力システムについて)について話し合い、運用方法が決定した。研究費が獲得次第、研究が開始出来る段階に到達した。

■考察
本PROJECT開始にあたる準備を行うことができた。研究費を獲得し、実際に運用を開始したい。
研究成果から、各国の結核の政策について、提案を行い、WHOが掲げる「2030年までに結核をゼロに」という目標の達成を目指す。


「ワクチン接種の最適な自己決定に貢献するPOCT型免疫予測システムの構築」 
 上蓑 義典(医学部 専任講師)

研究成果報告

■研究概要
ワクチンによる獲得抗体を評価するイムノクロマト法とスマートフォンを用いたPoint of Care Testing (POCT)ツールを開発評価するとともに、抗体の減衰予測式を開発し、簡単に誰でもワクチン後の現在および将来の抗体の値を知り、ワクチンの追加接種等に関する自己決定を可能にするシステムを開発する。


<研究成果報告>

■目的
ワクチンによる免疫獲得の個体差は大きいが、新型コロナウイルスワクチンのように、個々の免疫の状態とは関係なく、行政による接種の推奨に基づき接種が行われるのが現状である。これをより個別化するため、簡単に免疫の状態を知るためのPOCT型の抗体測定ツールにより、誰でも容易にその免疫の状態を知り、さらにその減衰を予測式から予測できるようにすることで、現在および将来の免疫を知った上で、自己の判断により、追加接種の要否および時期を決定するに資するディバイスを開発することを目的とする。

■方法
慶應義塾大学病院で展開されている新型コロナウイルスワクチンの免疫評価に関する長期コホート研究で得られた抗体価データをよびサンプルを利用し、抗体価の減衰を予測する最適な数理モデルの決定を行うとともに、イムノクロマト法とスマートフォンを用いた抗体定量測定POCT系の精度を評価し、得られた光学的測定値と、国際標準法による測定値の相関を決定する。

■結果
新型コロナウイルスワクチン2回接種後、6ヶ月間の抗体価の減衰を予測する数理モデルを決定した。予測精度は非常に高い結果であった。また、イムノクロマト法とスマートフォンを用いた抗体定量測定POCT系の精度を800検体の血清を用いて評価したところ、高値域では適切な希釈が必要なものの、既存法との相関係数は0.8を超え良好な相関が得られることが判明した。

■考察
新型コロナウイルスワクチン後の免疫減衰および免疫の簡易評価が可能であることが明らかになった。今後、数理モデルと、抗体定量測定POCT系を融合し、ユーザーインターフェイスを改良したアプリケーションを開発することにより、簡単に抗体価を測定し、その減衰を予測することが可能になると期待される。さらに、新型コロナウイルス以外のワクチンで予防可能な感染症(VPD)についても、同様のシステムの開発が必要であると考えられる。


「地域在住高齢者のフレイル・サルコペニアのサブタイプと経時的推移:日米伊の国際比較」
 大澤 祐介(健康マネジメント研究科 准教授)

研究成果報告

■研究概要
老化によって身体を動かす器官である筋肉や骨など運動器や体形が変化する。これらの加齢変化によって運動機能障害や転倒・骨折などのリスクが上昇することが多くの先行研究から示されている。しかし、これらの老化現象は国や人種によって異なるかは十分に明らかになっていない。そこで、本研究では、日米伊3か国の地域住民を対象にした前向きコホート研究のデータを用いて、40歳以降の体格や身体組成、運動機能における加齢変化を検討することを目的とした。また、各臓器が独立して老化現象が進行するのではなく、臓器間で相互に影響しあって老化現象が進行すると考えられている。このことから、本研究では、上記のコホート研究のデータから、
①体格、身体組成、および運動機能における老化現象のコホート間および性別による比較を行うこと、
②筋肉量および骨密度の低下について縦断的な関連性を検討することを目的とした。


<研究成果報告>

■目的
筋肉と様々な臓器は液性因子を介して相互に影響しあう。また、筋肉の質・量が低下すると、活動量の減少、他の臓器の機能低下を介して、さらなる筋肉の質・量の低下を招く。筋肉量と筋力・身体機能の低下で診断されるサルコペニアの有病率は18-35%と国によって開きがあるが、その背景因子は明らかではない。また、サルコペニアと骨粗鬆症や肥満など他の臓器の表現型・機能低下が併存する病態は、単独の病態より死亡や機能障害など様々な健康関連アウトカムのリスクが高い。本研究では、日米伊3つの前向きコホート研究のデータを用いて、体格・身体組成および運動機能における老化現象を検討した。また、筋肉量と骨密度の変化における縦断的な関連性を検討した。

■方法
Baltimore Longitudinal Study of Aging (BLSA;米国;n=1563;65.9±13.1歳)、国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA;愛知県;n=3983; 56.9±13.0歳)、およびInvecchiare in Chianti, aging in the Chianti area (InCHIANTI;イタリア;n=1325; 70.7±12.4際)の3ヵ国3つの前向きコホート研究のうち、形態(身長・体重・BMI)、身体組成(筋肉量・脂肪量・骨密度)および運動機能(握力および歩行速度)を解析に用いた。Generalized additive mixed-effect modelを用いて、各変数についてコホート別・性別で加齢変化を推定した。また、筋肉量と骨密度の経時的変化の関連をみるためにbi-variate linear mixed-effect modelを用いた。

■結果
欧米2つのコホート研究の結果と比較して、NILS-LSAは男女ともに体重や体格指数でみた体格や筋肉量、脂肪量および骨密度でみた身体組成において低値だった。また、40歳以降の経年変化でみると、日本人では低下傾向にあるのに対して、欧米とくに米国では男女ともに40歳から65歳ごろまでは体重および脂肪量は増加傾向にあり、その後低下傾向にあるという非線形の変化をした。筋肉量に関しては、いずれのコホートまたは性別でみても低下傾向にあったが、筋肉量が多い米国男性においては加齢による低下量が大きかった。また、骨密度の加齢変化はコホート間よりも性差が顕著であり、女性は閉経前後の50歳代において顕著な減少があり、その後緩やかな低下傾向を認めた。一方、男性においては緩やかな低下傾向を認めた。筋肉量と骨密度の低下の縦断的関連性は、両者には正の相関を認めたが、相関の強さにおいてはBLSAよりもNILS-LSAのほうが関連が強かった。

■考察
筋肉・脂肪・骨の加齢変化について日米伊3つのコホート研究のデータを用いて性別およびコホート(国)間の比較検討を行った。その結果、元々の体格が大きい欧米人は日本人と比較して、傾きの大きさでみた加齢による低下の程度は大きかった。また、同様に性別で比較すると、いずれのコホート研究においても男性のほうが女性と比較して加齢による低下の程度が大きかった。また、筋肉と骨との縦断的関連性ではコホート間の差を認めたことから、筋肉を中心とする運動器の加齢変化には国や人種による違いがあることが示唆される。これらのコホート間または性差に関しては、遺伝的素因や生活様式の違い、または双方が相互に影響して関与している可能性があり、今後、これらの加齢変化を検討する上では、バイオインフォマティクスおよび生活習慣を含めて検討する必要がある。


「文化芸術を日常に取り入れた社会福祉サービスの設計」
 佐藤 千尋(KMD 専任講師)

研究成果報告

■研究概要
本研究では、高齢・障害による孤立を余儀なくされる生活者に対して、心身ともに健康で地域社会とつながり続けることができる社会福祉サービスの設計に取り組んでいる。高齢化先進国である日本は長寿世界一であるが、日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す健康寿命をいかに延伸するかという厚生労働省も掲げている課題に対し、それに伴い多様化される福祉ニーズに応える担い手育成が追いついていない。 研究代表者は過去KGRIプレ・スタートアップ研究資金による活動の結果、八千代市社会福祉協議会や地域包括支援センター、第二層生活支援協議体、支会・自治会・民生委員・福祉委員の住民の方々などと強固な信頼関係を構築している。特に八千代市米本支会とは強い協力関係を築いており、この強みを活かし、日常的な文化芸術身体活動が社会福祉を必要とする生活者の精神的ウェルビーイングを向上することを実証し、地域共生社会のあり方の一つのケースとして提言することを目指す。


<研究成果報告>

■目的
本研究は、日英の国際連携を図りながら、千葉県八千代市社会福祉協議会を筆頭とした様々な地域団体との参加型デザイン研究(Participatory Design)活動を実施する。その活動が対象者の精神的ウェルビーイング向上にどのように寄与したかを調査し、高齢・障害を抱えた多様な住民ができるだけ長く心身ともに健康に生活できるようなケーススタディーとして捉え、自分に合った自己実現方法や人との繋がり方を選べる自由をどのように提供するか、健康寿命を伸ばすための社会環境エコシステムをどう構築するべきか研究する。

■方法
英国人障害者アーティストのJason Wilsher-Millsを共同研究者として迎え、千葉県八千代市・特例子会社薬樹ウィル従業員を対象に障害を抱える生活者の自己表現として、タブレットを用いて指一本で自画像を制作する、という内容のワークショップ等を実施した。他にも八千代市の障害者を対象にクリスマスツリー飾りの手芸ワークショップ、アイロンビーズDIYワークショップを実施した。また身体障害・アクセシビリティを専門とする研究者Giulia Barbareschiの支援を得て、高齢者メンズ限定ストレッチワークショップを開催し、他にも写真コラージュワークショップ、園芸ワークショップ等を開催した。
各ワークショップの参加者にインタビュー・アンケートを行い、その文化芸術身体活動が参加者に与える価値を検証した。

■結果
上記ワークショップ内で制作した作品を統合し、12月の障害者週間に合わせて作品展「とっておきの作品展」を千葉県八千代市内市民ギャラリーにて実施した。八千代市身体障害者福祉会が主催した本展示であるが、八千代市社会福祉協議会・オーエンス八千代市民ギャラリー・特例子会社薬樹ウィルなどと連携協力し、多岐に渡る人々に観覧いただいた。J:COMによるテレビ取材を筆頭とした地方紙での紹介も相まって、社会的な認知が広まった。また、科研費基盤研究(B)を2023年度〜2025年度の獲得に貢献した。
発表した論文は下記:
- Sifan Chen, Danyang Peng, Giulia Barbareschi, Chihiro Sato, and Dunya Chen, 2023. "BeadMuse AI: Enhancing Inclusive and Independent Crafting Through Adaptive Pixel Art Templates". In IoT '23: The International Conference on the Internet of Things (IoT2023). ACM, New York, NY, USA. 211-218. DOI: 10.1145/3627050.3631580
- Adwitiyo Pramudito, Giulia Barbareschi, and Chihiro Sato, 2023. "Enhancing Self-Reflection in Older Adults through Collage Making". In IoT '23: The International Conference on the Internet of Things (IoT2023). ACM, New York, NY, USA. 236-239. DOI: 10.1145/3627050.3631568
- 陳 思帆,吉澤 靖博,ジュリア バルバレスキ, 陳 敦雅, 佐藤 千尋, 2024.「DIYクラフト活動による職場のインクルーシブ性の向上を目指すサービスデザイン」2024年サービス学会 第12回国内大会.
- 中野 桃葉, 佐藤 千尋, 2024.「フードバンクを新たな居場所へ: 地域の子どもたちの学びと遊びを促す放課後アートワークショップ『M+Project』」2024年サービス学会 第12回国内大会.
- 朴 成周, Christopher Changmok Kim, Giulia Barbareschi, Kai Kunze, 佐藤 千尋.「『メンズ限定ストレッチ共有会』: 高齢化が進む団地内の運動プログラムの実践」2024年サービス学会 第12回国内大会.
- アドウィティヨ プラムディト, 佐藤 千尋, 2024.「個人ストーリーで生まれたコミュニティとしてのリフレクション」2024年サービス学会 第12回国内大会.
- 松井 美名子, 佐藤 千尋, 2024.「縁側が促すサービス交換の役割:千葉県八千代市の福祉施設を例に」2024年サービス学会 第12回国内大会.
- Qianrong Fu, Yifan Xu, Dunya Chen, Giulia Barbareschi, Chihiro Sato, 2024. "Empowering People with Intellectual Disabilities Connection to the Community through Adaptive Fabric Art" 2024年サービス学会 第12回国内大会.
- Yifan Xu, Qianrong Fu, Dunya Chen, Giulia Barbareschi, Chihiro Sato, 2024. "Making Personalized Souvenirs and Memories through Creative Craft Activities" 2024年サービス学会 第12回国内大会.
- Jianrui Zhao, Donna Dunya Chen, Chihiro Sato, 2024. "Collaboratively Cocreate a Gardening Program within a Local Ecosystem to Strengthen the Relationship in an Aging Community" 2024年サービス学会 第12回国内大会."

■考察
本研究活動に参加された地域ステークホルダーを基軸として、より一層の広がりを目指す。ワークショップ実施→作品展示→多様な住民への認知、の流れによる社会福祉サービスとして設計していくべく、社会福祉協議会と密に連携をとって応用可能性を探っていく。また、今回はタブレットを用いた芸術作品制作に取り組んだが、今後は「文化・芸術」をより広く捉えて社会福祉サービスを設計していく。具体的には、写真・園芸・電気工作・フィットネス・ゲームなど既に検討を開始しており、民生委員や各種支援センターも協力体制を整えている。引き続き、「自分に合った自己実現方法や人との繋がり方を選べる自由をどのように提供するか」という問いに向けて粛々と研究実施していきたい。


(以上計5名、各80万円)


「AIとの対話による問題解決場面における心理過程の解明」
 菅 さやか(文学部 准教授)

研究成果報告

■研究概要
人が対話型AIとも理解を共有し、良好な関係を築いたり、現実を認識するための手がかりとして対話型AIを信頼したりすることができるのか否かを明らかにすることを目的として調査を実施した。対話型AIのひとつであるChatGPTの利用者を対象に調査を実施した結果、人はChatGPTと理解を共有できたという主観的共有的リアリティを中程度に感じており、主観的共有的リアリティが高いほど、ChatGPTと意気投合したという感覚や、ChatGPTを情報源として信頼できると感じる程度が高くなることが明らかになった。また、ChatGPTがよく応答してくれたと思うほど、ChatGPTとの意気投合感やChatGPTへの信頼感が高くなるという直接的な影響関係は、ChatGPTとの主観的共有的リアリティの程度に部分的に媒介されていることも示された。以上の結果より、人は対話型AIとも主観的共有的リアリティを確立することができ、その結果、対話型AIと良好な関係を築き、対話型AIを現実を認識するための手がかりとして信頼することができることが明らかになったと言える。


<研究成果報告>

■目的
人は、他者と理解を共有することで、良好な関係を築き、現実の認識を確かなものにできると考えられる (Rogginac-Milon, et al., 2021)。そこで本研究は、人が対話型AIとも理解を共有し、良好な関係を築いたり、現実を認識するための手がかりとして対話型AIを信頼したりすることができるのか否かを明らかにすることを目的とした。

■方法
対話型AI (ChatGPT) の利用者を対象にオンライン調査を実施
[回答者]492名 (平均年齢49.94歳、標準偏差11.27)
[主な質問項目]①ChatGPTから得られた回答全般への満足度、(以下全て「最後にChatGPTを使った場面における」) ②ChatGPTから得られた回答への満足度、③利用者とChatGPTの関係性、④主観的共有的リアリティ、⑤意気投合感、⑥認識論的信頼性、⑥応答性

■結果
・ChagGPTから得られた回答全般に対して利用者は中程度に満足しており、若年者ほど満足度が高く、男性より女性の方が満足度が高い
・最後にChatGPTを使った場面におけるChatGPTから得られた回答への満足度と、利用者とChatGPTとの関係性は、正の相関関係
・主観的共有的リアリティが高いほど、意気投合感や認識論的信頼性が高い
・応答性が意気投合感や認識論的信頼性に及ぼす直接的な影響関係は、主観的共有的リアリティによって部分的に媒介されている

■考察
・若年者ほど満足度が高いのは、高齢者に比べてChatGPTの利用スキルが高いためであり、男性より女性の方が満足度が高いのは、女性がChatGPTを利用する際の作業内容が簡単なものであるためであると考えられる。
・満足度が高いから関係性を近く感じているのか、関係性を近く感じているから満足度が高いのかについては、本研究では明らかにできない。
・人は、ChatGPTと主観的共有的リアリティを確立することができ、その結果、ChatGPTと良好な関係を築き、ChatGPTを現実を認識するための手がかりとして信頼することができる。


「1分子の自律的な拡散運動による神経変性機構の解明」
 前田 純宏(医学部 専任講師)

研究成果報告

■研究概要
アルツハイマー病(AD)は、高齢者において発症する代表的な認知症だが、その治療薬開発は失敗に終わっているか、発症初期の患者に対する限定的な効果を得るにとどまっている。そこで本研究では、発症中期以降に主要な役割を担っていると考えられているタウタンパク質に着目した。タウタンパク質はその発現が抗てんかん作用を示すこと、過剰発現がてんかん様症状を引き起こすことなどから、神経興奮性の制御に関わっていると考えられたが、その制御機構に関しては不明だった。さらに、アルツハイマー病はてんかんによって発症、もしくは悪化することも考えられている。そこで我々は、ヒトiPS細胞から、主に抑制性神経細胞を誘導する培養系を使って、その制御機構を探った。神経細胞は興奮性シグナル、抑制性シグナルのバランスによって興奮性が制御されている。特にADでは、抑制性神経の変性が発症に関わっているという報告もあることから、抑制性シグナルをの受容体である、GABA受容体の、神経細胞膜上における側方拡散の、タウタンパク質の発現による変化を検証した。まずは、ヒトiPS由来神経細胞において、世界で初めて1分子のライブイメージングに成功した。その結果、タウタンパク質の発現抑制によって、GABA受容体の側方拡散が促進されること、それによって、抑制性シグナルが減少していると考えられることを発見した。また、GABA受容体の細胞膜下の裏打ち構造であるGephyrinが減少することも発見した。これらの発見から、タウタンパク質は抑制性神経細胞における抑制性シグナルの減少によって、その興奮性を上昇させ、神経ネットワークの過活動を制御していると考えられた。


<研究成果報告>

■目的
本提案では、生命科学と物理化学が融合した学際的技術の代表例である1分子ライブイメージングを用いて、神経細胞内外の受容体もしくは構造タンパク質の拡散運動を計測し、アルツハイマー病のキー分子である、タウタンパク質が神経細胞の過剰な興奮性を制御するメカニズムを解明することを目的とした。

■方法
ヒトiPS細胞から、抑制性神経細胞がenrichされた神経細胞を作出し、その細胞表面におけるGABA受容体の側方拡散から、抑制性シグナルの伝達効率を検証した。

■結果
GABA受容体の側方拡散がタウタンパク質の発現を抑制することによって低下することが判明した。また、GABA受容体の裏打ち構造であるGephyrinのクラスター量が減少していることも観察された。

■考察
抑制性神経細胞は、抑制性シグナルをアウトプットとして出す。タウタンパク質の減少によって、その抑制性神経細胞自身への抑制性シグナルが減少している状態が考えられたので、タウタンパク質は、抑制性神経細胞を活発化することによって、神経興奮性を制御している可能性が考えられた。特に、GephyrinというGABA受容体のクラスター形成を制御することによって、その活動性を制御しているものと考えられた。


「軟骨伝導補聴器格納式義耳の音響的安定性向上のための形状最適化研究」
 西山 崇経(医学部 専任講師)

研究成果報告

■研究概要
小耳症は約1万人に1人の有病率とされている先天性疾患であり、多くの症例で耳介奇形と外耳道閉鎖を合併するため、審美面と聴覚という機能面の両側面が治療対象となる。耳介奇形の治療は従来から耳介形成術による手術加療が主流であるが、その完成度は高くないことも多い。また、外耳道閉鎖に対する聴力改善手術の成績は良好とはいえず、世界的に小耳症に対して非侵襲的に審美・聴覚両面を同時に改善させる治療法は確立していなかった。そこで我々は、3Dプリント技術を応用した、高精細な義耳と2017年に本邦から発明された軟骨伝導補聴器という新たな補聴器を融合することで、審美・聴覚両面を同時に改善させる革新的治療方法を考案し、2021年9月より軟骨伝導補聴器格納式義耳 (APiCHA) を用いた前向き臨床研究を世界で初めて開始した。しかしながら、軟骨伝導補聴器単独時よりも、APiCHAを併用した際に、ハウリング音と呼ばれる雑音が大きくなる可能性があるため、小耳介モデルを作成しハウリング音の発生状況を検証した。


<研究成果報告>

■目的
軟骨伝導補聴器単独時と比較し、APiCHA併用によってハウリング音に生じる変化を検証すると共に、ハウリング音を生じにくいAPiCHAの形状を探索する。

■方法
小耳介モデルに対して、軟骨伝導補聴器なし、軟骨伝導補聴器単独時、APiCHA併用時、APiCHA改良品併用時の各条件において、振動子から5cmの距離における騒音レベルを測定し、各条件におけるハウリング音に与える影響について考察する。

■結果
各条件における騒音レベル±標準偏差 (SD) は、軟骨伝導補聴器なしで53.9±1.8 dB、軟骨伝導補聴器単独時で53.4±2.4 dB、APiCHA併用時で56.2±1.1 dBであり、軟骨伝導補聴器単独時と比較し、APiCHA併用時にハウリング音が有意 (P = 0.011) に増大することが分かった。APiCHAに対して、固定性を改善させるためにケーブル交差部にスリットを作成すると、58.1±1.8 dBと更にハウリング音が増大する傾向 (P = 0.059) を認め、APiCHA内腔の空間をシリコンで充填することで、53.2±1.1 dBと有意に改善 (P = 0.0047) し、軟骨伝導補聴器単独時と比較してもハウリング音が増大しない (P = 0.85) ことが分かった。

■考察
軟骨伝導補聴器単独時と比較し、APiCHA併用によってハウリング音が増大する傾向を認めたが、APiCHA内腔の空間をシリコンで充填することで、ハウリング音を増大させないようにできることが分かった。APiCHAの固定性とハウリング音を最適化するためには、ケーブル交差部にスリットを作成し、内腔を充填した形状にすることが有用であることが分かった。


「フェムテック開発のための事前調査:業界の現状や問題点を把握し、盲点になっている領域を探る」
 長谷川 愛(理工学部 准教授)

研究成果報告

掲載準備中


「ドラマージストニアの脳内機序解明」
 藤井 進也(環境情報学部 准教授)

研究成果報告

■研究概要
ドラマージストニアの脳内機序の一端を解明することを目的に、ドラマーの身体不調の実態、ジストニア症状発症時のパフォーマンスと筋活動の特徴、ジストニアドラマーの運動皮質の興奮ー抑制機能を調査した。調査の結果、プロドラマーではバスドラムを演奏する右足とスネアドラムを演奏する左手においてジストニア症状の発現が多いこと、ジストニア症状はドラムパターンの1拍目で発現する頻度が高いこと、有症状時特有の演奏タイミング、発音振幅、筋活動パターンが明らかとなった。また、ジストニアドラマーの運動皮質の興奮ー抑制機能に関する予備的成果を得ることができた。


<研究成果報告>

■目的
本研究の目的は、ドラマーの身体不調の実態、ジストニア症状発症時のパフォーマンスと筋活動の特徴、ジストニアドラマーの運動皮質の興奮ー抑制機能を調査し、ドラマージストニアの脳内機序の一端を解明することであった。

■方法
アンケート調査の手法を用いて、国内約千名のドラマーを対象に身体不調の実態調査を行った。右下肢を罹患した1名のジストニアドラマーを対象に、ドラムパターン演奏中のバスドラム音の録音と右下肢表面筋電図活動データの分析を行い、症状発現の頻度を調査するとともに、有症状時と無症状時の演奏タイミングや発音振幅、下肢筋活動パターンを比較する症例研究を行った。同ドラマーを対象に、経頭蓋磁気刺激の手法を用いて、皮質内促通と短潜時皮質内抑制を計測し、運動皮質の興奮ー抑制機能を評価する予備実験を行った。

■結果
アンケート調査の結果、プロドラマーでは、主にハイハットを演奏する右手や左足に比べて、バスドラムを演奏する右足とスネアドラムを演奏する左手においてジストニア症状の発現が多いことが明らかとなった(Yamaguchi et al., ICMPC, 2023)。症例研究では、右下肢にジストニア症状が発現するドラマーがドラムパターンを演奏する際には、1拍目で症状が発現する頻度が高いこと、有症状時は無症状時に比べて演奏タイミングが早く、発音振幅が小さいことが明らかとなった(Honda et al., bioRxiv, 2024)。筋活動パターンを分析した結果、症状発生時には特有の筋活動パターンがあることが明らかとなった(Honda et al., bioRxiv, 2024; Sata et al., ICMPC, 2023)。経頭蓋磁気刺激の手法を用いた実験では、皮質内促通と短潜時皮質内抑制パラダイムにおいて、運動誘発電位の増大と減少が観察されることを確認した。

■考察
プロドラマーのジストニア症状は、リズムパターンの骨子を担うバスドラムやスネアドラムに多く発現する可能性が示唆される。ドラム演奏において、1拍目はリズムパターンの要となる頭拍であり、タイミング予測や注意量の増大がジストニア症状の発現と関連している可能性が示唆される。ジストニア症状発現に伴う演奏タイミングや発音振幅、筋活動パターンの特徴は、症状発現の定量評価指標として応用できる可能性がある。先行研究では、ジストニア症状を有するピアニストにおいて一次運動皮質内の抑制性減少・興奮性増大が報告されており(Furuya et al., J Physiol, 2018)、今後複数のドラマーを対象に運動皮質の興奮ー抑制機能についてさらに検討を進めることが期待される。


(以上計5名、各30万円)


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