サスティナブル量子AI研究センター

 

センター概要

量子ソフトウェアとHPC・シミュレーション技術の融合により、サスティナブルなAI技術を開拓する。具体的には、少数データに対する量子機械学習手法と多体問題量子シミュレーション手法を開発し、量子古典融合表現形式と量子最適化技術を駆使することで、量子機械学習・量子シミュレーション・量子デバイスを結合した量子AI技術を創出する。さらに、量子オフローディングや量子AIエッジコンピューティングのための量子HPC基盤を構築・展開する。量子AI技術を社会経済システムに組み込み、量子技術を活用した新産業やスタートアップ企業の創出を通じて国際競争力を高め、量子AIに支えられ生産性革命や新産業創出が持続する社会の実現を目指す。

設置目的及び活動計画

■設置目的

量子コンピューティング技術は、従来型コンピューティングのみでは困難な計算を現実的な時間で実行可能となると期待されている計算技術である。そのため現在、量子コンピューティング技術は世界的に注目され、活発に研究開発が進められている。日本においても、「量子技術イノベーション戦略」、「量子未来社会ビジョン」、「量子未来産業創出戦略」といった国家戦略が2020年から立て続けに策定され、量子技術に関する研究開発から社会実装までを一気通貫で進める方策を検討する必要がある。
本センターの設置目的は、上記の背景を受け、量子技術の中でも特に量子コンピューティング技術に対する研究開発を加速させることである。2022年度に、科学技術振興機構・ 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェアとHPC・シミュレーション技術の共創によるサスティナブルAI研究拠点」(代表機関:東京大学、研究代表者:藤堂眞治)が採択され、当該事業に共同研究機関として慶應義塾大学が参画しており、申請者は2024年度から慶應義塾大学の研究開発責任者を務める。この事業の成果を最大化し、また成果を社会に展開するために、本センターの設置を申請する。

■活動内容

本センターでの研究開発活動は、(1)量子機械学習プロジェクト、(2)量子埋め込みプロジェクト、(3)量子最適化プロジェクト、(4)量子HPCプロジェクト、の4つに分類される。以下、研究計画を述べる。

  • (1)量子機械学習プロジェクトでは、データ収集や学習時間にかかるコストを削減し、サスティナブルAIの創出に資するため、少数データ・少数パラメータに対する量子機械学習手法の開発を行う。多体問題量子シミュレーションや量子デバイスからの量子データ入力によって、学習データを大幅に削減できる可能性もあり、量子・古典の統合機械学習技術の実現はサスティナブルAIの創出に向けた重要な課題である。
  • (2)量子埋め込みプロジェクトでは、テンソルネットワークなどに代表される新しい計算科学の枠組と量子コンピューティングの深い対応性に着目し、量子埋め込みに基づいたより高いレベルでデータのやり取りやアルゴリズム自身の可搬性のための新しい表現形式に関する基礎研究を進め、量子古典混合アルゴリズムを超えた量子古典融合アルゴリズムを実現する。量子埋め込みに基づく融合表現形式により、日々発展する古典コンピュータでの機械学習やシミュレーション技術を柔軟に量子に取り込むことが可能となる。また、NISQでの知見を活かし、将来の誤り耐性量子計算へ向けて量子コンピュータのハードウェアの進歩を段階的・漸次的に取り込める。さらに、量子ハードウェアが一般普及する前から、前倒しで量子AIの恩恵を受けることが可能となる。
  • (3)量子最適化プロジェクトでは、問題のQUBO(二次制約なし二値最適化)定式化による最適化や最適化プロセスの多段化、量子アニーリングや各種イジングマシンの前処理最適化への応用など、技術の用途拡大・汎用化に向けた開発を進める。また、各種計算技術融合における最適化技術の開発:素粒子物理学、量子化学、材料科学などの具体的な問題において、ゲート式量子コンピュータ/量子アニーリングマシン/イジングマシン等の各種計算技術や機械学習の融合アルゴリズムにおける最適化技術を開発する。
  • (4)量子HPCプロジェクトでは、FPGAと高速分散ストレージを用いて、大規模な量子コンピュータをシミュレーションする環境を構築する。さらに古典、量子デバイスを交互に利用するアルゴリズム、量子誤り訂正に対し、古典側の処理をFPGAやGPGPUなどを用いて加速し、ボトルネックとなることを防ぐ。これら4つのプロジェクトを有機的に連携させ、量子コンピューティング時代に備えた斬新かつインパクトの高い研究成果を創出する。また、共同研究など企業との連携を積極的に行い、研究成果の社会展開を目指す。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を 3. すべての人に健康と福祉を
7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

設置期間

2024/04/01~2029/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 田中 宗 理工学部物情工学科 准教授 量子アニーリング、量子コンピューティング、イジングマシン、統計力学、計算物理学
近藤 正章 理工学部情報工学科 教授 計算機アーキテクチャ、新計算原理、高性能計算
山本 直樹 理工学部物情工学科 教授 量子制御、量子計算、量子情報
杉浦 孔明 理工学部情報工学科 教授 機械知能、知能ロボティクス、深層学習
武岡 正裕 理工学部電気情報工学科 教授 量子情報理論、量子ネットワーク、量子暗号、量子光学
畑中 美穂 理工学部化学科 准教授 理論化学、計算化学、マテリアルズ・インフォマティクス、反応経路自動探索
村松 眞由 理工学部機械工学科 准教授 固体力学、マルチフィジックスシミュレーション
渡辺 宙志 理工学部物情工学科 教授 大規模計算、相転移、計算科学
佐藤 貴彦 理工学部情報工学科 准教授 量子コンピュータ、量子インターネット、量子人材育成
古川 俊輔 理工学部物理学科 専任講師 物性理論、冷却原子系、磁性、トポロジカル秩序
杉本 高大 理工学部物理学科 専任講師 凝縮系物理学、計算物理学、強相関電子系
友野 孝夫 政策・メディア研究科 特任教授 量子光学
森田 悟史 理工学研究科 特任准教授 テンソルネットワーク、変分モンテカルロ法
杉﨑 研司 理工学研究科 特任准教授 量子化学計算、量子コンピュータ
杜 韋霖 理工学研究科 特任講師 テンソルネットワーク
ヴォイチェフ・ロガ 理工学研究科 特任講師 量子情報理論、開放系の量子力学、量子増強イメージング、量子コンピュータ
関 優也 理工学研究科 特任講師 量子アニーリング、機械学習、統計力学
王 天淳 理工学研究科 特任助教 物性理論
魏 凱傑 理工学研究科 特任助教 FPGA上のシステム設計、GPU等のアクセラレータプログラム
渡邊 日出雄 理工学研究科 特任教授 機械学習、量子コンピュータ、組織マネジメント
天野 英晴 (2024/6/1-) KGRI 共同研究員 コンピュータアーキテクチャ