構造生命化学研究センター
センター概要
構造生命化学は、ヘモグロビンなどのタンパク質に代表される生体高分子の立体構造を原子レベルで精密に解析することで、生命現象の理解とともに人の健康増進・疾患治療に寄与しうる科学的・社会的波及効果の大きな理工学分野の一つである。当該分野における近年の進展を鑑みると、生体高分子に関する原子解像度での構造情報が今後爆発的に増え、人工知能といった情報科学技術とタッグを組むことで、生命科学に革新がもたらされる時代に突入すると考えられる。研究大学を標榜する慶應義塾大学においても、構造生命化学を強力に推進する必要があるものの、構造解析の支援や応用的展開の触媒を担う窓口がないのが現状である。特に、タンパク質構造に基づく創薬に見られるように、医学・薬学領域との密接な連携や複数の学問領域を跨ぐ横断は必須である。そこで、構造解析経験のある研究者を含めた理工学部・医学部・薬学部の専任教員で、これまでの連携実績も考慮した「構造生命化学研究センター」を設置し、構造解析を支援するための基盤を速やかに構築することを目的とする。
2024年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
前年度より継続して、構造解析に関する研究面でのサポートはもちろんのこと、セミナーの開催やオンデマンド教材の拡充についても進めたい。
- 【教育】構造解析に関するセミナー(応用編)を実施する。特に、最先端の構造解析技術を紹介するセミナーを開催したい。
- 【基盤整備】実験プロトコルや共同利用施設活用の手引きを整備する。
- 【研究】センター所員が研究対象とするタンパク質やその複合体に関する構造解析を実施する。
これらの活動を通じて、学部間でのコミュニケーションをより活発なものとし、「構造生命化学」分野の基盤を構築することを目標とする。
■2024年度の新規活動目標と内容、実施の背景
今年度も、クライオ電顕を利用した単粒子解析では、難易度のより高い構造(例えば、線維構造)の解析手法を確立させたい。また、AlphaFoldによるタンパク質構造予測の成功例にも見られるように、生体高分子の構造解析については、データサイエンスとの協力関係が不可欠となりつつある。そこで、今年度は特に、深層学習による新規タンパク質の設計に力を入れて進めたい。
2023年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
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【教育】
(計画)構造解析に関するセミナー(応用編)の実施、最先端の構造解析技術を紹介するセミナーの開催
(達成度)セミナーの開催はなかったものの、構造解析や最先端の構造解析技術に関する内容を含んだ「第2回生命金属科学シンポジウム」を矢上キャンパスにて主催した。センター所員を含め、塾内外より100名ほどの参加者があり、非常に有意義な機会とすることができた。 -
【基盤整備】
(計画)実験プロトコルや共同利用施設活用の手引きを整備する。
(達成度)SPring-8での結晶構造解析や分子科学研究所における結晶構造解析を進めることができ、それぞれの研究機関における装置・機器の利用手順を整備した。 -
【研究】
(計画)センター所員が研究対象とするタンパク質やその複合体に関する構造解析を実施する。
(達成度)所員からの構造解析に関する問い合わせに基づき、当該年度には4件ほどのタンパク質サンプルについて、結晶化・構造解析を行った。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
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公刊論文数:64報
Angewandte Chemie International Edition (IF=16.823 @2024), Chemical Communications (IF=6.065 @2024), Journal of BIological Chemistry (IF=5.485 @2024) など - 学会発表件数:(国内)72件、(国際)21件
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イベントなど社会貢献の実績:8件
- M PIP 有機・バイオ材料拠点セミナー(2023年9月20日, 産業技術総合研究所 中国センター)
- 第2回生命金属科学シンポジウムの主催(参加者数: 110名)(2023年5月19-21日, 慶應義塾大学矢上キャンパス)
- 第23回日本蛋白質科学会年会ワークショップ「生命現象を司る金属ホメオスタシスの理解」オーガナイズ(2023年7月5日, 名古屋国際会議場)
- 2040独立自尊プロジェクト 特別セミナー(2023年4月19日, 慶應義塾大学 信濃町キャンパス JKiC)
- 薬理学セミナー(2024年1月24日, 慶應義塾大学 信濃町キャンパス リサーチパーク6階会議室)
- 塾内高校夏休み研究体験(2023年8月29日, 慶應義塾大学理工学部)
- 日本プロセス化学会出前講義(2023年12月21日, 岐阜薬科大学)
- オンライン受賞記念講演会の企画および主宰(2023年12月6, 13, 20日, 日本薬学会関東支部)
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄
タンパク質の結晶構造解析(2件)について、2報の学術論文として報告することができた。また、クライオ電顕による単粒子解析についても進めることができ、論文投稿には至らなかったものの、高度な解析手法の検討を進めることができた。また、SPring-8や分子科学研究所の施設を利用して、合計で6件の構造解析を進めており、生体分子の構造解析に必要となる実験・手続・解析の流れを整備することができた。本センターを開始して約3年(スタートアップ含む)が経過したが、タンパク質の結晶構造解析については、問題なく進めることができるプラットフォームが確立した。クライオ電顕については、多くの研究機関で提供されている共同研究手続きを整備することができ、最も肝要となるデータ解析を行う環境も整えることができた。
SDGs
設置期間
2023/07/01~2026/03/31
メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
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◎ 古川 良明 | 理工学部 化学科 | 教授 | 生物無機化学、タンパク質科学 |
藤本 ゆかり | 理工学部 化学科 | 教授 | 生物分子化学、有機化学、生体関連化学 |
末永 聖武 | 理工学部 化学科 | 教授 | 生物分子化学 (天然物化学) |
栄長 泰明 | 理工学部 化学科 | 教授 | 光機能性材料、ナノ粒子・薄膜、ダイヤモンド電極 |
村木 則文 | 理工学部 化学科 | 准教授(有期) | 蛋白質結晶学、生物無機化学、構造生物化学 |
高橋 大介 | 理工学部 応用化学科/自然科学研究教育センター | 准教授 | 糖質科学、有機合成化学、ケミカルバイオロジー |
安井 正人 | 医学部 薬理学 | 教授 | 水分子の生命科学・医学、薬理学 |
三澤 日出巳 | 薬学部 薬科学科 | 教授 | 神経化学・神経薬理学 |
花屋 賢悟 | 薬学部 薬科学科 | 専任講師 | 生物有機化学、生物無機化学 |
大澤 匡範 | 薬学部 薬科学科 | 教授 | 構造生物化学、生物物理学 |
横川 真梨子 | 薬学部 薬科学科 | 専任講師 | 物理系薬学、構造生物化学 |
須貝 威 | KGRI | 共同研究員 | 酵素触媒を活用する有機合成化学 |