スピントロニクス研究開発センター

 

センター概要

「スピントロニクス研究開発センター」は、慶大が日本のスピントロニクス研究の中心的役割を果たすことを目的として、基礎から応用の幅広い領域で世界をリードする研究成果を発信する。スピントロニクスとは、物質の電気特性と磁気特性の双方を制御することにより得られる新しい物理現象を見出し、その成果を電子・情報通信産業のイノベーションに結びつける新しい学術分野である。その創成と発展には、本塾の研究者と出身者が大きく寄与しており、今後の基礎学問としての更なる発展と産業界における応用を先導するためにスピントロニクス研究開発センターを設置した。

設置目的及び活動計画

「スピントロニクス研究開発センター」は、慶大が日本のスピントロニクス研究の中心的役割を果たすことを目的として、基礎から応用の幅広い領域で世界をリードする研究成果を発信する。スピントロニクスとは、物質の電気特性と磁気特性の双方を制御することにより得られる新しい物理現象を見出し、その成果を電子・情報通信産業のイノベーションに結びつける新しい学術分野である。その創成と発展には、本塾の研究者と出身者が大きく寄与しており、今後の基礎学問としての更なる発展と産業界における応用を先導するためにスピントロニクス研究開発センターを設置した。

本センターは、塾内のスピントロニクス研究者の拠点であると同時に、国内外のスピントロニクス研究者間の連携を推進するスピントロニクス連携ネットワークの中心としての任務を遂行する。そのため、日本のスピントロニクス分野の研究者コミュニティの代表として、東大・東北大・阪大・京都大・慶大の5大学が「スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク」拠点形成計画を「学術研究の大型プロジェクト-ロードマップ2023」として応募し、最終ヒアリング直前の段階まで進んでいる(2023年11月28日現在)。これは、重点的な国費投入が必要な研究分野を評価・認定するものであり、慶大のスピントロニクス研究において大型予算を獲得するチャンスが大きく広がるだけでなく、拠点大学間の人材交流を通じた学術領域の発展と国際競争力の向上に繋がる。また、これらの予算を活用してセンターオフィスと共通研究スペースを開設し、センター所員の有機的な連携を実現することにより、スピントロニクス研究において新機軸を生み出す。

以上の目的を達成するため、本センターの継続は必須であると考える。
センター設置以降の主な活動内容(2023年11月28日現在)は下記のとおりであり、十分な成果をあげている。

  1. 国際会議/研究会/スクールの共催・協賛:25件
  2. 広報・アウトリーチ活動:3件
  3. 国際会議派遣補助:20件
  4. 慶大理工学部の研究共有スペースを利用したセンターの研究スペース拡充
  5. 微細加工装置など共用設備料金の補助
  6. 共催研究会の招待講演者への謝金支出:2件
  7. 特任助教の雇用と国際共同研究(中国科学院大学)の推進
  8. スピントロニクスデバイス作成・評価装置の新規導入とセンター所員による共同利用の開始

2023年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

本年度は、電子スピンを利用した全く新しいデバイス応用に結び付ける研究を実施した。下記は、その結果の一例である。

(1)高品質ジスプロシウム薄膜の磁気相転移を用いたスピンポンピング効率の巨大変調の実現:本研究では、単結晶ジスプロシウム(Dy)における磁気相転移を用いたスピンポンピングの大幅な変調を報告した。さらに、Dyが常磁性相と反強磁性相を示す温度領域において、多結晶Dyよりもスピン輸送可能な距離が増加することを発見した。この成果は、電子スピンの流れをデバイス動作に用いるスピントロニクスデバイスの高性能化につながるものであり、Applied Physics Express誌に掲載された。
(2)チタン/タングステン傾斜材料のスピントルク効率と傾斜界面構造の相関解明:本研究では、チタンとタングステン薄膜の界面にナノスケール組成勾配を作製し、スピントルク生成効率が増加することを実証した。さらに、本効果が組成勾配界面の構造乱れに敏感であることを発見した。これらの成果は、組成勾配界面を用いた全く新しいスピントロニクス材料開発の道を拓くものとして注目されており、Physical Review B誌に掲載された。
(3)液体金属の非定常流を用いたスピン流生成:力学的な回転を利用したスピン流生成の実現例として、液体金属の定常流に伴う渦度によるスピン流生成が観測され、注目を浴びている。本研究は液体金属の非定常流に注目し、それに伴う渦度によって駆動されるスピン流の理論解析を行った。流体の非定常流によるスピン流生成に着目した初めての研究であり、流体のスピントロニクスへの応用範囲の拡大に繋がると期待される。なお本成果は、Journal of Magnetism and Magnetic Materialsに掲載された。
(4)差動回転によるスピン流生成:最近、液体金属流の渦運動や表面弾性波に伴う格子回転など、剛体回転を局所化させた渦度と電子スピンの結合(スピン・渦度結合)によるスピン流生成が実現され、注目を浴びている。一方、剛体回転の局所化として、一軸周りの回転の角速度を空間的に非一様化させた差動回転も考えられる。その中には渦度なしの差動回転も存在し得るため、それと電子スピンの相互作用は従来の理論によって解析することができない。本研究は、差動回転によるスピン流生成メカニズムについて微視的な解析を行なった。その結果、差動回転からスピン流が生成されることを示し、それがスピン緩和と本質的に関係することを明らかにした。電子スピンと力学回転の微視的な結合メカニズムを明らかにし、力学回転を用いた新たなスピンデバイスの発展に寄与する成果であり、現在論文投稿中である。
(5)カイラルフォノンによる界面スピン流生成:最近、カイラルフォノンによるスピン流生成が盛んに研究されている。このメカニズムは、従来必須であったスピン軌道相互作用を必要としないため注目を浴びている。一方で、その背後にある物理的なメカニズムは明らかになっていない。本研究は、電子スピンとカイラルフォノンに伴う結晶の微小回転の結合(スピン・微小回転結合)に着目し、カイラルフォノンから誘起されるスピン流の微視的な解析を行った。その結果、カイラル絶縁体へ温度勾配を印加することにより、金属へスピンが注入されるがわかった。本研究は、カイラルフォノンによるスピン流生成の微視的起源を提案するものであり、重元素を用いないスピントロニクスデバイスの開発にブレークスルーをもたらすと期待される。なお研究成果は国際学会MRM2023にて発表済みであり、現在論文投稿中でもある。

以上の成果は、中国科学院大学カブリ理論科学研究所、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、東京大学物性研究所、中央大学との共同研究として本センターの所員と特任助教が主導したものである。このように、本センターを介した密接な研究交流によるものであり、当初の目的を達成している。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

(1)公刊論文数:16報(Physical Review B (IF=3.7 @2022)など)
(2)学会発表件数:(国内)13件(うち2件は招待講演)、(国際)10件(うち4件は招待講演)
(3)イベントなど社会貢献の実績:日本磁気学会との研究会の共催、Spin-RNJ研究発表会(2024年3月17日-18日オンサイト方式)の開催(東大・東北大・阪大・京大・慶大による共同開催)など

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

社会実装可能な研究成果として、巨大スピン流生成が可能な人工ナノ合金とナノスケール傾斜材料の発見がある。国内外で激しい開発競争が繰り広げられている次世代磁気メモリの省電力化に貢献できる新しい材料として位置づけられる。なお本件は、慶大知財部門からの特許申請を準備しており、社会実装に向けた着実な成果といえる。

SDGs

9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

設置期間

2021/03/01~2027/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 能崎 幸雄 理工学部物理学科 教授 磁性物理学、スピンダイナミクス、ナノ物性
安藤 和也 理工学部物理情報工学科 准教授 スピントロニクス、スピン量子物性
早瀬 潤子 理工学部物理情報工学科 教授 光工学・光量子科学
江藤 幹雄 理工学部物理学科 教授 メゾスコピック系、量子ドット
斎木 敏治 理工学部電気情報工学科 教授 ナノフォトニクス、半導体量子構造
松本 佳宣 理工学部物理情報工学科 教授 センサ、IoT、機械学習
的場 正憲 理工学部物理情報工学科 教授 強相関電子物理、物質設計
神原 陽一 理工学部物理情報工学科 教授 超伝導、相転移、新物質
田邉 孝純 理工学部電気情報工学科 教授 フォトニックナノ構造、超高速光技術
牧 英之 理工学部物理情報工学科 教授 ナノ物質、ナノデバイス
山本 直樹 理工学部物理情報工学科 教授 量子計算、量子情報
渡邉 紳一 理工学部物理学科 教授 光物性物理学、テラヘルツ分光
太田 泰友 理工学部物理情報工学科 准教授 ナノフォトニクス、量子情報処理
栄長 泰明 理工学部化学科 教授 光機能性材料、ダイヤモンド電極
海住 英生 理工学部物理情報工学科 教授 磁気エレクトロニクス、ナノ科学
白濱 圭也 理工学部物理学科 教授 低温物性