サイエンスフィクション研究開発・実装センター(SU)

   

センター概要

本研究センターはアート・創作におけるSFの歴史とその変革を踏まえ、文学、工学、アートの研究者が共同で物語の価値を探索し、人類社会のイノベーションにつなげるための方法論としてのSFのあり方を探求する。本研究センターの目標は以下の4点である。A. SFを中心とした物語の仕組みに関する文学・工学・美学横断的な研究、B. 情報技術等を用いた創造性支援技術の開発、C. SFプロトタイピングを用いた人々の創造性支援手法の普及、D.SF研究開発に基づく知財の申請と出版・イベントの開催

■パーパス
生成AIのような創作補助技術により、創作のあり方はより民主化され、同時にSFプロトタイピングのように専門家をつなぐための物語のあり方が問われる世の中となった。特にSFは歴史的に、科学技術の普及の媒体であるとともに、社会の多様性を促進し、イノベーションの創発を産んだジャンルでもあり、文学研究、科学技術研究、アートなど多分野に影響を与える軸となる領域である。人間の作家の自己表現としての創作が絶えることはなく、また、創作を通じて他者の表現意図を知るという、コミュニケーションの手段としての創作もまた、途絶えることはないと考えらえる。これは生成 AI の前から、人口減に伴う出版産業などの縮小が契機となっており、作家が多方面に活躍する手法を探していることが要因である。

この一つとして SF プロトタイピングがある。SF プロトタイピングでは、作家が研究者や開発者と共同で議論を行い、未来のビジョンを共同で物語として執筆し、それを元に企業や社会のビジョンを考察する。単純に創作物を鑑賞し、そこからイノベーションを探すのではなく、創作過程を通じて、参加者の想像力を養い、発想支援に役立てる手法である。これは日本に限った話ではない。米国では科学技術やアートの教育プログラム(STEAM)の一環として、物語の使用が行われている。また、今年アジアで横浜に次ぐ 2 回目の世界 SF 大会を開催した中国では、創作のもつ教育的側面が大きく重視されており、国家の支援を受けた出版社が教育プログラムを開き、作家が教育機関で指導を行い、SF を児童が執筆する過程を通じて科学技術に親しむ枠組みを作る、といった取り組みが行われている。SF は発想支援の分野において先進的な機能を担うことが多い。SF プロトタイピングに関する提案者の研究や、それ以外の研究およびムーブメントの動きからいくつか利点が判明してきている。まず、SF を用いることで思考の枠を外しやすくなることが挙げられる。これは SF が科学技術を扱うためで親和性が高いのと同時に、文学的にはSF が個人の文学ではなく、制度の文学であり、個人の価値観を超えた環境や社会の変革に伴うドラマを想定しやすいことが挙げられる。同時に、スペキュラティブフィクションと呼ばれるような、価値観の変革を伴う思考的な実験を SF が促進するメリットもある。これは現在マイノリティの属性を持つ人々にとって、心理的安全性を保ったまま意見を言いやすくなる利点がある。

こうした状況を踏まえ、本研究センターではSFにおけるイノベーション共創の側面に着目し、文学・工学・アートを横断した研究を行う。本研究センターは以下の4つの領域で活動を行う。
A. SFを中心とした物語の仕組みに関する文学・工学・美学横断的な研究
SFがもたらした影響を認知科学や美学、文学、アートの観点からそれぞれ議論する。本領域ではこれらの領域に関わる研究活動を、紀要を通じてまとめ、発表する。
B. 情報技術等を用いた創造性支援技術の開発
主に情報技術、人工知能技術を用いた創造性支援に関する開発を行う。本事業ではクリエイターと研究者の共同参画を支援し、人工知能技術を通じた未来の創作のあり方を探る。
C. SF・SFプロトタイピングを用いた人々の創造性支援手法の普及
SFやSFプロトタイピングを用いた人々の教育支援を行う。本活動はSFプロトタイピングやスペキュラティブデザインなどのプロジェクトの実施、SFプロトタイピングを実施する企業へのアドバイザー活動を行う。また、これにより共同研究などを進める。
D. SF研究開発に基づく知財の申請と出版・イベントの開催
SFセンターの研究開発によって生まれた特許技術等の申請と出版・イベントを通じた普及

SDGs

4. 質の高い教育をみんなに4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう5. ジェンダー平等を実現しよう
8. 働きがいも経済成長も8. 働きがいも経済成長も
9. 産業と技術革新の基盤をつくろう9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
10. 人や国の不平等をなくそう10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任12. つくる責任 つかう責任
16. 平和と公正をすべての人に16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう17. パートナーシップで目標を達成しよう

設置期間

2024/01/01~2025/12/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名所属研究機関職位研究分野・関心領域
◎ 大澤 博隆 理工学部 准教授 ヒューマンエージェントインタラクション、SFプロトタイピング
新島 進 経済学部 教授 近現代フランス文学(レーモン・ルーセル、ジュール・ヴェルヌ)、独身者機械芸術、SF
長谷川 愛 理工学部 准教授 スペキュラティヴ・デザイン、アート&デザイン、ダイバーシティ&エクイティ&インクルージョン、倫理、SF プロトタイピング