量子コンピューティングセンター

   

センター概要

量子コンピュータとは、"量子力学的な効果を用いて行う複雑な計算"(量子コンピューティング)を実現するデバイスである。素因数分解や最適化といった問題では、計算時間(ステップ数)が問題の規模に対して指数関数的に伸びるものがあり、それらは従来コンピュータでは計算不可能な問題とされる。量子コンピューティングはこれらの計算困難な問題を解決することが期待されており、それを実現する手法の開発が望まれている。そこで、本センターでは、社会や産業界の発展に資する量子コンピュータで解くべき問題を特定し、その目的に向けたソフトとハードを開発することを目的とする。とくに、国に加えて、複数の民間企業が出資する研究拠点を整備し、産業界や一般社会に存在する問題を対象とした量子コンピューティングの道を切り拓くことを目指す。

2023年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
  1. 量子古典ハイブリッドモンテカルロアルゴリズムの開発:物理量の平均値以外の様々な量を計算する量子加速付きアルゴリズムを開発する。
  2. 化学反応計算のための量子アルゴリズムの開発:引き続き、実機上で変分量子アルゴリズムを効率的に動作させるための方法を開発していく。
  3. 量子機械学習器の開発:精度保証された量子機械学習器を開発する。また、量子古典ハイブリッド機械学習器の数理構造解析を引き続き行う。
  4. 量子コンピュータインターフェイスの開発:耐故障量子計算機を視野に入れた量子コンパイラを開発する。
■2023年度の新規活動目標と内容、実施の背景

センターでターゲットとしている中規模量子計算機(いわゆるNISQ)ではノイズの影響が避けられないため、ノイズの影響を受けにくいソフトウェア開発と、ノイズを減らすミドルウェア開発が今後も重要である。上記の事業計画項目はこの思想に則るものである。

2022年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

センターは IBM が開発した量子コンピュータ実機 IBM Q を利用できる環境 IBM Q Hub を内包している。2022年度は、この IBM Q Hub と協働しながら、以下の研究を実施し、成果を挙げた。

  1. 量子古典ハイブリッドモンテカルロアルゴリズムの開発。ノイズ環境下の並列型量子振幅推定アルゴリズムについて、推定精度を向上させる統計手法の改良を行った。また、物理量の平均値を計算する量子加速付きアルゴリズムについて、それを実行する量子回路を最適並列分割する手法を開発した。さらに、金融における不正取引を検知する量子アルゴリズムを開発した。
  2. 化学反応計算のための量子アルゴリズムの開発。化学反応計算のための新規変分型アルゴリズムを開発した。とくに、手法を励起状態計算に応用した。
  3. 量子機械学習器の開発。古典機械学習において有用性が知られているフィッシャーカーネルの量子版を開発した。また、古典統計理論を用いて、データを説明する適切な量子モデルの選択法を開発した。また、量子機械学習における過学習問題を明示的に指摘し、この問題を回避するためのプロトコル"entanglement dropout"を開発した。効果を数値シミュレーションにより確認した。さらに、自然ノイズを利用する量子リザバーの計算能力を「時間情報処理キャパシティ」を用いて評価するための計算プラットフォームを開発した。
  4. 量子コンピュータインターフェイスの開発。量子プログラミング専用の量子デバッガを開発した。また、新規量子ウォーク型探索手法を開発した。また、パルス設計法のひとつであるGRAPEを利用し、量子アルゴリズムに含まれる基幹ゲートの短時間物理実装を実現するためのプロトコルを開発した。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文数 12件(以下に記載)、学会発表件数 29件

  1. Y. Ohkura, T. Satoh and R. Van Meter, Simultaneous Execution of Quantum Circuits on Current and Near-Future NISQ Systems, in IEEE Transactions on Quantum Engineering, vol. 3, pp. 1-10 (2022), 5 April 2022 (査読あり)
  2. T. Satoh, S. Ohmura, M. Sugawara, and N. Yamamoto, Pulse-engineered Control-V gate and its applications on superconducting quantum device, IEEE Trans. Quantum Engineering, 3, 3101610 (2022), 25 April 2022 (査読あり)
  3. S. Ashhab, F. Yoshihara, T. Fuse, N. Yamamoto, A. Lupascu, and K. Semba, Speed limits for quantum gates with weakly anharmonic qubits, Phys. Rev. A, 105, 042614 (2022), 25 April 2022 (査読あり)
  4. K. Nakaji, S. Uno, Y. Suzuki, R. Raymond, T. Onodera, T. Tanaka, H. Tezuka, N. Mitsuda, and N. Yamamoto, Approximate amplitude encoding in shallow parameterized quantum circuits and its application to financial market indicator, Phys. Rev. Research, 4, 023136 (2022), 20 May 2022 (査読あり)
  5. K. Wada, R. Raymond, Y Ohnishi, E. Kaminishi, N. Yamamoto, H. C. Watanabe, Simulating time evolution with fully optimized single-qubit gates on parameterized quantum circuits, Physical Review A, 105, 062421, 13 June 2022(査読あり)
  6. Yoshinori Aono, Sitong Liu, Tomoki Tanaka, Shumpei Uno, Rodney Van Meter, Naoyuki Shinohara, Ryo Nojima, The Present and Future of Discrete Logarithm Problems on Noisy Quantum Computers, IEEE Transactions on Quantum Engineering, vol. 3, pp. 1-21, 2022, Art no. 3102021, 16 July 2022(査読あり)
  7. Bo Yang, Rudy Raymond, and Shumpei Uno, Efficient quantum readout-error mitigation for sparse measurement outcomes of near-term quantum devices, Physical Review A 106, 012423, 18 July 2022(査読あり)
  8. S. Ashhab, N. Yamamoto, F. Yoshihara, and K. Semba, Numerical analysis of quantum circuits for state preparation and unitary operator synthesis, Phys. Rev. A 106, 022426, 23 August 2022(査読あり)
  9. Kaito Kishi, Takahiko Satoh, Rudy Raymond, Naoki Yamamoto, Yasubumi Sakakibara, Graph kernels encoding features of all subgraphs by quantum superposition, EEE Journal on Emerging and Selected Topics in Circuits and Systems, 2022, 30 August 2022(査読あり)
  10. M. Kobayashi, K. Nakaji, and N. Yamamoto, Overfitting in quantum machine learning and entangling dropout, Quantum Machine Intelligence 4, 30, 29 November 29 2022(査読あり)
  11. Tatsuhiko Koike, Quantum brachistochrone, Philosophical Transactions of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences, 26 December 2022(査読あり)
  12. Shigeki Gocho, Hajime Nakamura, Shu Kanno, Qi Gao, Takao Kobayashi, Taichi Inagaki, Miho Hatanaka, Excited state calculations using variational quantum eigensolver with spin-restricted ansätze and automatically-adjusted constraints, npj Computational Materials, 21 January 2023(査読あり)
■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

2022年5月23日(月)、小林鷹之内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)が矢上キャンパスの当センターを訪れ、当センターでの活動の紹介をした。

センター オリジナルWebサイト:

Keio University Quantum Computing Center

SDGs

9. 産業と技術革新の基盤をつくろう9. 産業と技術革新の基盤をつくろう

設置期間

2018/07/01~2026/03/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名所属研究機関職位研究分野・関心領域
◎ 山本 直樹 理工学部 教授 量子計算、量子情報、数理工学
白濱 圭也 理工学部 教授 物性 II
早瀬 潤子 理工学部 教授 ナノ構造化学、ナノマイクロシステム、光工学・光量子科学、物性Ⅰ、原子・分子・量子エレクトロニクス
ロドニー
バンミーター
環境情報学部 教授 量子計算、ムーアの法則後のコンピューター・アーキテクチャ、ディストリビュテド・マス・ストレージ・システム
田中 宗 理工学部 准教授 数理物理・物性基礎
畑中 美穂 理工学部 准教授 理論化学、マテリアルズ・インフォマティクス
村松 眞由 理工学部 准教授 固体力学、マルチフィジックスシミュレーション
古池 達彦 理工学部 専任講師 情報学基礎理論、素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理、原子・分子・量子エレクトロニクス
佐藤 貴彦 理工学部 准教授 量子コンピュータアーキテクチャ、量子ネットワークアーキテクチャ
鈴木 洋一 理工学研究科 特任准教授 量子コンピューティング、人工知能を含むデータサイエンス、半導体光物理学
上西 慧理子 理工学研究科 特任講師 量子コンピューティング、非平衡統計力学
菅原 道彦 理工学研究科 特任准教授 コヒーレント制御、振動状態計算、量子制御
川口 英明 理工学研究科 特任講師 量子計算、機械学習