水素ガス治療開発センター

   

センター概要

エネルギー源としての水素の利用が、Economy、Energy、Environment、いわゆる3Eのトリレンマを解決する鍵として脚光を浴びております。私たちは、水素ガスの虚血再灌流障害を抑制する効果に着目して、水素ガス吸入療法が、救命救急医療現場の様々な局面において治療効果を発揮する可能性を示し、水素医療の具現化に向けた先導的・戦略的研究拠点としての役割を果たして参りました。この水素ガス治療開発センターでは、産学連携を基に、非臨床・臨床一体型の研究を推進し、水素ガス、水素医療機器の薬事承認をめざして活動を続けております。

2023年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

Phase II 臨床試験により心肺停止蘇生患者に対する水素ガス吸入療法の有効性と安全性が証明されたので、Phase III 臨床試験に向けた準備を進める。
具体的には、慶應大学医学部臨床研究推進センターのサポートを受けながら、大陽日酸を中心にドリームメディカルパートナーズ、ドクターズマン、メトランなどの企業とコンソーシアムを形成して、医薬品としての水素ガス、医療機器としての水素ガス供給装置の薬事承認をめざした活動を加速させていく。

■2023年度の新規活動目標と内容、実施の背景

臨床研究では、水素水の飲用が運動時の生理機能に及ぼす影響に関して臨床試験を企画している。2022年のパイロット研究では、運動前の水素水の飲用が、運動中の心拍数の上昇を抑える効果があることが、クロスオーバー試験で再現性良く示されている。
水素風呂への入浴によって皮膚から予想以上に水素ガスが体内に取り込むことが分かったので、アトピー性皮膚炎か乾癬などの皮膚炎モデル動物を使って、水素風呂への入浴による治療効果を明らかにしていく。

2022年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2022年度は、水素ガス治療開発センターの事業の中でも最も大きな成果が出せた1年であった。2022年11月6日、米国シカゴで開催されたアメリカ心臓協会蘇生シンポジウムのLate Breaking Resuscitation Trialで、院外心停止蘇生後患者に対する水素吸入療法の有効性と安全性を検討した第 II 相臨床試験の結果を多村知剛君(86回生救急i医学)が発表した。Hybrid II研究グループは本塾大学病院が主幹となる国内15施設が参加した二重盲検無作為化比較試験で、先進医療Bの承認の下で行った(研究統括者:鈴木昌、研究代表者:本間康一郎)。心疾患が原因の院外心停止で蘇生されたものの意識の回復しない患者には通常、体温管理を行って脳機能回復を図るが、体温管理療法の効果には制限があり、これを凌駕する治療は永らく開発されてこなかった、今回、この通常治療に2%水素添加酸素を18時間吸入するという水素吸入療法を施し、通常治療との比較を行ったところ、90日後に全く後遺症を遺さず社会復帰を可能にした患者が20%から46%に増え、さらに生存率を61%から85%に改善したことが明らかになった。COVID-19の蔓延に伴って本試験は、当初の計画より大幅に少ない患者数の組み入れで中止となったことが悔やまれるが、この画期的な成績に、蘇生に関わる世界の一流研究者が集う会場で驚きをもって迎えられた。次期第III相国際共同試験への呼びかけに参加表明が相次ぎ、強い関心を得たことが伺える。薬事承認に向けて、様々なルートで水素を摂取した場合の薬物動態を明らかにする研究も着実に進めてきた。これまで、水素ガスの単回吸入、持続吸入、水素水の飲用における水素の薬物動態をブタで明らかにしてきたが、本年度は、水素リッチ生理食塩水として腹腔内投与された水素の薬物動態をスナネズミで、水素含有風呂への入浴時の水素の薬物動態をブタで明らかにした。                                                                                                                                                                                                               

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

英文論文数 6件(うち、2つは査読中)

  1. Shirakawa K, Kobayashi E, Ichihara G, Kitakata H, Katsumata Y, Sugai K, Hakamata Y, Sano M. H2 Inhibits the Formation of Neutrophil Extracellular Traps.JACC Basic Transl Sci. 2022 Jan 12;7(2):146-161.
  2. Shirakawa K, Sano M. Neutrophils and Neutrophil Extracellular Traps in Cardiovascular Disease: An Overview and Potential Therapeutic Approaches. Biomedicines. 2022 Aug 1;10(8):1850.
  3. Kinoshita Y, Shirakawa K, Sano M, Yokoo T, Kume H, Kobayashi E. Development of a novel porcine ischemia/reperfusion model inducing different ischemia times in bilateral kidneys-effects of hydrogen gas inhalation. Transl Androl Urol. 2022 Apr;11(4):430-438.
    水素リッチ生理食塩水として腹腔内投与された水素の薬物動態とスナネズミの脳虚血性神経細胞死に対する影響
  4. Hirano M., Sano M., et al. Pharmacokinetics of hydrogen administered intraperitoneally as hydrogen-rich saline and its effect on ischemic neuronal cell death in the brain in gerbils. PLoS One. 2022 Dec 27;17(12):e0279410.
    水素吸入、水素水の飲用に引きつづいて、水素リッチ生理食塩水として腹腔内投与による水素の体内動態を明らかにした。
  5. Direct evidence of hydrogen absorption from the skin - A pig study.
    水素含有風呂への入浴によって皮膚から水素が体内に吸収されるかどうかを検証した。論文投稿中。
  6. 2022年11月6日 アメリカ心臓協会蘇生シンポジウム 米国シカゴ
    Late Breaking Resuscitation Trial
    Hydrogen Gas Inhalation Improves Neurologically Intact Survival After Out-of-hospital Cardiac Arrest: HYBRID II Trial
    2022年11月6日、米国シカゴで開催されたアメリカ心臓協会蘇生シンポジウムのLate Breaking Resuscitation Trialで、院外心停止蘇生後患者に対する水素吸入療法の有効性と安全性を検討した第 II 相臨床試験の結果を多村知剛君(86回生救急医学)が発表した。
    現在、論文査読中。
講演 4件
  1. 2022年2月 健康博覧会2022セミナー 水素水飲用時の薬物動態を初解明!水素吸入時との比較~水素水飲用は水素を体のどこまで供給できるのか~ 東京
  2. 2022年6月25日 抗加齢医学会 水素水飲用時の薬物動態を初解明!水素吸入時との比較~水素水飲用は水素を体のどこまで供給できるのか~ 大阪
  3. 2022年3月19日 国際水素医科学研究会 水素研究最前線 東京
  4. 日本脈管学会 高安右人賞受賞講演ー血管病の軌跡における炎症の複雑性 横浜

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

Hydrogen Gas Inhalation Improves Neurologically Intact Survival After Out-of-hospital Cardiac Arrest: HYBRID II Trial
2022年11月6日、米国シカゴで開催されたアメリカ心臓協会蘇生シンポジウムのLate Breaking Resuscitation Trialで、院外心停止蘇生後患者に対する水素吸入療法の有効性と安全性を検討した第 II 相臨床試験の結果を多村知剛君(86回生救急i医学)が発表した。Hybrid II研究グループは本塾大学病院が主幹となる国内15施設が参加した二重盲検無作為化比較試験で、先進医療Bの承認の下で行った(研究統括者:鈴木昌、研究代表者:本間康一郎)。心疾患が原因の院外心停止で蘇生されたものの意識の回復しない患者には通常、体温管理を行って脳機能回復を図るが、体温管理療法の効果には制限があり、これを凌駕する治療は永らく開発されてこなかった、今回、この通常治療に2%水素添加酸素を18時間吸入するという水素吸入療法を施し、通常治療との比較を行ったところ、90日後に全く後遺症を遺さず社会復帰を可能にした患者が20%から46%に増え、さらに生存率を61%から85%に改善したことが明らかになった。COVID-19の蔓延に伴って本試験は、当初の計画より大幅に少ない患者数の組み入れで中止となったことが悔やまれるが、この画期的な成績に、蘇生に関わる世界の一流研究者が集う会場で驚きをもって迎えられた。次期第III相国際共同試験への呼びかけに参加表明が相次ぎ、強い関心を得たことが伺える。
現在、論文査読中。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を3. すべての人に健康と福祉を
7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
13. 気候変動に具体的な対策を13. 気候変動に具体的な対策を
17. パートナーシップで目標を達成しよう17. パートナーシップで目標を達成しよう

設置期間

2017/04/01~2027/3/31

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 勝俣 良紀 医学部 専任講師 医化学一般、循環器内科学
佐々木 淳一 医学部 教授 救急医学、麻酔科学、外科学一般、感染症内科学
小林 英司 医学部 医学部客員教授 移植、再生医学、バイオエシックス
栄長 泰明 理工学部 教授 光機能性材料、ナノ粒子・薄膜、ダイヤモンド電極
野田 啓 理工学部 教授 電子・電気材料工学、薄膜・表面界面物性、応用物性
本間 康一郎 医学部 准教授 救急医学、腎臓内科学、再生医学
林田 健太郎 医学部 専任講師 循環器内科学
遠藤 仁 医学部 専任講師 循環器内科学
山元 良 医学部 助教 救急医学
尾原 秀明 医学部 准教授 外科学一般、血管再生
松田 祐子 医学部 特任講師 医用システム、臨床腫瘍学、実験動物学、外科学一般、消化器外科学
白川 公亮 医学部 助教 実験病理学
平出 貴裕 医学部 特任助教 循環器内科学
松岡 義 医学部 助教 救急医学
多村 知剛 医学部 助教 救急医療、心肺停止蘇生後症候群、水素医学