論理と感性のグローバル研究センター
センター概要
21世紀COEプログラムとグローバルCOEプログラムを継承し、人の判断や行動における論理と感性の関わりについて多層的に解明することを目的とする。特に、哲学、倫理学、論理学、美学・美術史学、文学、考古学などの人文科学系手法と心理学、行動科学、教育学、発達科学、医療人類学などの社会科学系手法を中心に、神経科学、認知科学、情報科学系手法を加えて、論理と感性の学際的な研究を行う。これを通じて人間のより深い理解を目指すとともに、成果の社会還元も目指す。学際性、国際性、若手研究者育成を重視している。
2023年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標これまでの分野横断的で多層的な方法論による研究テーマを継続的に発展させる。
- 美に関係する脳の働きの検討、美術館での具体的な行動を想定した作品鑑賞のマルチセンサリング研究、深層学習と顔形態分析を用いた顔の魅力認知の研究、ダンス認知研究を継続する。
- 自閉スペクトラム症の医療人類学的研究を、日本における精神医療実践を対象に、環境のデザインの側面に着目しつつ、継続する。
- 鳥類を対象とし、他者との関係構築にともなうストレス耐性などの生理機能の変化を、脳・自律神経系・ホルモンのレベルから検討する。
- 保育の質について評価結果のフィードバックの効果検証、保育の質の評価尺度の精緻化に向けた分析を続ける。
- 気圧カプセルを用いた自律神経応答性、内受容感覚、感情の生起、思考の遷移性についての研究を継続して実施する。
- 「心」と「言語理解・コミュニケーション」に関わる哲学、認知、情報科学的アプローチの分野横断融合を目指す。
- 心理学の信頼性革命にかんする動きのレビューと、それに基づいた再現可能な心理学研究の方法論の検討を行う。
- 行動リハビリテーション(理学療法、作業療法)の実践と効果検証を行う。
人間の判断や思考における「論理」と「感性」はそれぞれ独立ではなく、互いに補完的に働いていることがこれまでの研究から明らかになってきた。論理的処理系と直観的・感性的処理系はこれまでしばしば独立で対立的デュアルシステムと理解されることが多かった。2023年度の研究において、我々はこの「論理」系と「感性」系の関係をさらに踏み込んで互いにどのように補完的役割を果しているかを明らかにしていく。人文科学的「心」研究、神経科学的「脳」研究、行動科学的「身体」行動研究は充分に成熟した段階にある。これらの成果を基にして、「心―脳―身体」系という学際的観点から「論理」と「感性」の相互依存的―相互補完的関係を多層的に捉える必要があり、学際的研究活動を継続する。より具体的には、
- 脳・行動・深層学習等のモデリングによる、さらなる統合的な美と魅力の理解、芸術鑑賞の理解を目指す。特に、脳計測、自律神経反応計測、身体運動、および心的表象や心的評価との対応関係を、マルチセンサリング技術を確立しつつ、広げていく。
- 自律神経とホルモン計測に加え、次年度は、免疫系と腸内細菌叢の解析を新たに開始し、内臓機能の個体差および、他者との関係構築による個体内変容を調べる。これらを通して、感性の生物学的基盤として内臓機能(腸-脳相関)と社会の関係を進化の観点から明らかにする。
- 血圧を中心とした自律神経応答性は、気圧変動の影響をどの程度受け、その影響がどのようなメカニズムで不安や感情を引き起こすのか、その背景を探る。
- 近代色彩論と造園活動の結節点において植物の生命的色彩がいかに探究されていたかについて考察を進め、国外学会における成果発表を行う。
- 早期発達支援について国際スタンダードになりつつある「Naturalistic Developmental and Behavioral Intervention」の実証研究を行い、エビデンスに基づいた発達支援の普及可能性を実証する。
2022年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度昨年度までは新型コロナウイルス感染症の影響を受けたが、研究活動が以前よりも活発化し、次の点で予想以上の成果があがった。
- 対人支援の現場に「熟議アプローチ」を取り入れるための手法を開発を進め、2回の試験的な熟議アプローチの場をオンライン上で設けることができた。
- ライフサイクルの医療化と、精神医療における当事者研究の国際比較を行い、『精神神経学雑誌』や、『病いとしての統合失調症』、Psychiatric Epidemiology の国際比較の本に執筆、12月には大規模な国際会議(アジアにおける当事者運動の国際比較)を主宰した。
- 「人体をモチーフとした20世紀彫刻における色彩の問題」について、ハイパーリアリズムの作家の作例を中心に、ロン・ミュエク、John de Andreaや新たにCharles Rayの作例を検討した。
- 17世紀末から活躍した理論家ロジェ・ド・ピール(1635-1709)の絵画理論を中心に調査を行なってきた。前年度は特に、素描と色彩のどちらが絵画にとって重要かという、17世紀末にアカデミーを二分化した「色彩論争」について、ド・ピールが果たした役割とその論法について考察した。
- 鳥類カラスを対象に、個体間の関係構築の生理機序について検討した。自由行動中の鳥類から心電位を記録する技術を構築し,社会順位に応じた自律神経活動とストレス内分泌反応を見出した。
- 保育の質の評価や発育上のリスク要因が子どもの発達にどのように関連しているのかについて自治体と協力し分析を進めた。
- 自律神経と感情の関係、および思考の遷移に関する研究を進め感情の生起に内受容感覚を含めた身体感覚、痛みの感受性、自律神経応答性が関わることが明らかになった。
- 二者間相互作用についての行動、脳機能研究については新しいモデリングの手法を開発した。
達成度:成果は予想以上であり、充分な達成度であったと考える。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
主な出版論文数: 91本、主な雑誌: Royal Society Open Science、Neuroimage: Reports、Consciousness and Cognition、Frontiers in Psychiatry、Current Biology、PeerJ、Psychology of Aesthetics、Creativity, and the Arts、International Journal of Developmental Disabilities、Pediatric Research、Frontiers in Psychology、国際版「美学」、芸術学、形の文化研究、認知科学、発達心理学研究、精神神経学雑誌、精神医学、岩波「科学」
学会発表件数(国内・国際): 115件(うち国内84件、国際31件)
主なイベント:
2022年5月16日:センター共催 特別講演会「Professor Semir Zeki 講演会」(三田)
2023年1月14日:センター主催 ユネスコ世界論理デー記念ワークショップ(三田&オンライン)
メディア取材:
NHKサイエンスゼロ「感情の科学」、TV朝日系列グッドモーニング、朝日新聞など。
- 美と本物らしさに関係する脳の働きの検討、美術館での具体的な行動を想定した作品鑑賞のマルチセンサリング研究、深層学習と顔形態分析を用いた顔の魅力認知の研究を実施し、脳・行動・深層学習等のモデリングによる統合的な美と魅力の理解、芸術鑑賞の理解を実現しつつある。
- 8カ国からなる国際チームで鳥類を対象に未知物に対する忌避傾向の種間比較研究を行った。未知物への忌避傾向の強さは,群れ生態が影響していることを明らかにし、生物学の有力誌Current Biologyに掲載された。
- 保育の質と幼児期の発育状況の関連について、保育の質と第三者評価の関連について、発育上のリスク要因と就学後の学力の関連について、3つの論文にまとめた。
- 気圧カプセルを用いた研究により、気圧変化に対する自律神経応答性に個人差があり、痛みを含む感覚がその応答性に深く関与することが明らかになった。
- ユネスコ世界論理デー記念ワークショップを論理と感性のグローバル研究センターの主催により2023年1月14日に開催した。三田キャンパスでの対面開催とZoomを併用したハイブリッド形式で、参加登録者は80名を超えた。
- 乳幼児の発達に関する縦断研究では昨年よりかなり多くの新規乳児の参加があり、より確実なデータ収集が可能となった。また、ウェアラブルNIRSを導入し自然な相互作用実験を実施できた。
センター オリジナルWebサイト:
慶應義塾大学 論理と感性のグローバル研究センターSDGs



設置期間
2014/04/01~2024/03/31メンバー
◎印は研究代表者
氏名 | 所属研究機関 | 職位 | 研究分野・関心領域 |
---|---|---|---|
◎ 皆川 泰代 | 文学部 | 教授 | 認知神経科学、心理言語学、発達心理学 |
梅田 聡 | 文学部 | 教授 | 認知心理学、神経心理学、認知神経科学 |
ヴォルフガング エアトル | 文学部 | 教授 | 倫理学史、形而上学、現代倫理学 |
遠山 公一 | 文学部 | 教授 | 美学、美術史 |
奈良 雅俊 | 文学部 | 教授 | 現代フランス哲学、医療倫理学 |
伊澤 栄一 | 文学部 | 教授 | 実験心理学、神経行動学 |
川畑 秀明 | 文学部 | 教授 | 認知科学、感性情報学、教育工学、教育心理学、実験心理学 |
北中 淳子 | 文学部 | 教授 | 医療人類学、多文化間精神医学 |
平石 界 | 文学部 | 教授 | 社会心理学 |
後藤 文子 | 文学部 | 教授 | 美術史 |
寺澤 悠理 | 文学部 | 准教授 | 基盤・社会脳科学、実験心理学 |
木島 伸彦 | 商学部 | 准教授 | 社会心理学、教育心理学 |
峯島 宏次 | 文学部 | 准教授 | 哲学・倫理学 |
三村 將 | 医学部 | 特任教授 | 神経心理学、老年精神医学 |
今井 倫太 | 理工学部 | 教授 | 知能ロボティクス、知能情報学、認知科学 |
今井 むつみ | 環境情報学部 | 教授 | 認知科学 |
前野 隆司 | システムデザイン・マネジメント研究科 | 教授 | 知能機械学、機械システム |
杉本 智俊 | 文学部 | 教授 | 西アジア考古学、聖書考古学、旧約聖書学 |
山口 徹 | 文学部 | 教授 | 地域研究、考古学、文化人類学・民俗学 |
柏端 達也 | 文学部 | 教授 | 行為論、現代形而上学 |
松浦 良充 | 慶應義塾/文学部 | 常任理事/教授 | 比較大学史・大学論、高等教育思想史、アメリカ教育史、教育学教育論 |
藤澤 啓子 | 文学部 | 教授 | 教育心理学 |
北 洋輔 | 文学部 | 准教授 | 臨床発達心理学、障害科学、認知神経科学 |
板口 典弘 | 文学部 | 准教授 | 認知神経心理学、計算論的運動制御 |
眞島 裕樹 | 医学部 | 助教 | 精神医学、身体症状症 |
小倉 孝誠 | 慶應義塾大学 | 教授 | 仏文学 |
秋吉 亮太 | KGRI | 特任助教 | 数学・論理学の哲学、数理論理学(証明論)、理論計算機科学(タイプ理論)、ロボット倫理、スマートシティ |
徐 鳴鏑 | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、実験心理学、発達心理学、心理言語学 |
白野 陽子 | KGRI | 特任助教 | 発達心理学 |
秦 政寛 | KGRI | 特任助教 | 言語の認知科学 |
星野 英一 | KGRI | 特任助教 | 視覚記憶・認知機能に関わる脳機能 |
森本 智志 | KGRI | 特任助教 | 計算論的神経科学、音楽認知科学、データ駆動型科学 |
小笠原 忍 | KGRI | 特任助教 | 臨床心理学、応用行動分析学 |
品川 和志 | KGRI | 特任助教 | マインドワンダリング、注意、脳波、fMRI |
柴 玲子 (-2023/5/31) | KGRI | 特任助教 | 認知神経科学、音楽知覚認知 |
周 一禎 | KGRI | 研究員 | 多感覚知覚、心理物理学 |
天本 貴之 | KGRI | 研究員 | 言語哲学、形式意味論、語用論 |
狩野 祐人 | KGRI | 研究員 | 医療人類学、地域精神医療 |
瀬口 瑛子 | KGRI | 研究員 | 動物心理学・行動神経内分泌学 |
船蔵 颯 | KGRI | 研究員 | 計算言語学 |
青田 伊莉安 (2023/5/1-) | KGRI | 研究員 | 動物心理学、行動神経内分泌学 |
鈴木 彩香 (2023/5/1-) | KGRI | 研究員 | 日本語文法、統語論、意味論、テンス、アスペクト |
田仲 祐登 | KGRI | 研究員 | 生理心理学、認知神経科学、感情、内受容感覚 |
辻 幸樹 | KGRI | 研究員 | 認知神経科学、実験心理学 |
小関 健太郎 (2023/10/1-) | KGRI | 研究員 | 形而上学、論理学、オーストリア哲学 |
朝比奈 正人 | KGRI | 共同研究員 | 神経内科学、神経科学、自律神経系 |
安藤 寿康 | KGRI | 共同研究員 | 教育心理学、行動遺伝学、進化教育学 |
池田 功毅 | KGRI | 共同研究員 | 心理学の再現性、ディープラーニング |
石川 菜津美 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
石塚 祐香 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学、応用行動分析学 |
井出野 尚 | KGRI | 共同研究員 | 社会心理学、消費者行動、行動意思決定論 |
牛山 美穂 | KGRI | 共同研究員 | 文化人類学、医療人類学 |
大前 美由希 | KGRI | 共同研究員 | 20世紀アメリカ美術、現代彫刻 |
岡田 光弘 | KGRI | 共同研究員 | 論理学・哲学・論理思考研究・論理推論の認知科学と心理学・情報科学及び計算機科学の論理、アルゴリズム環境の倫理 |
小野 智恵 | KGRI | 共同研究員 | 美学、映画学 |
窪田 愛 | KGRI | 共同研究員 | 形式意味論、日本語 |
小泉 篤士 | KGRI | 共同研究員 | 古代ギリシャ・ローマ美術史 |
佐藤 有理 | KGRI | 共同研究員 | 認知科学、論理学、意味論、視覚表現 |
佐野 貴紀 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学、意思決定、眼球運動 |
柴田 みどり | KGRI | 共同研究員 | 認知神経科学、語用論 |
高橋 優太 | KGRI | 共同研究員 | 論理学の哲学、論理学 |
津田 裕之 | KGRI | 共同研究員 | 認知心理学 |
時田 真美乃 | KGRI | 共同研究員 | 認知科学、進化心理学、心の理論、再帰的思考、協調学習 |
直井 望 | KGRI | 共同研究員 | 発達心理学・神経科学、発達障害の機序の解明および早期介入の効果についての行動・神経学的検討 |
長田 有里子 | KGRI | 共同研究員 | 応用行動分析、発達障がい、自閉スペクトラム症、自然発達行動支援 |
野地 洋介 | KGRI | 共同研究員 | 医療人類学 |
福田 恭子 | KGRI | 共同研究員 | 美術史、風景画、ニコラ・プッサン |
星 聖子 | KGRI | 共同研究員 | 西洋美術史、イタリア・ルネサンス、ヴェネツィア・ルネサンス、祭壇画研究 |
星川 美紀 | KGRI | 共同研究員 | ヒューマンロボットインタラクション、認知科学 |
宮坂 敬造 | KGRI | 共同研究員 | 文化人類学(象徴人類学、心理と感覚人類学、医療人類学、映像人類学、精神生態の人類学) |
森井 真広 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学、意思決定、眼球運動 |
山田 理恵 | KGRI | 共同研究員 | 社会学 |
山根 千明 | KGRI | 共同研究員 | 20世紀西洋美術(ドイツ)、美術と知覚理論、色彩論史 |
山本 淳一 | KGRI | 共同研究員 | 臨床発達心理学・応用行動分析学 |
渡辺 茂 | KGRI | 共同研究員 | 実験心理学、比較認知科学、神経科学、行動薬理学、鳥類の認知、魚類の認知 |
劉 璐 (2023/5/1-) | KGRI | 共同研究員 | 死の社会学 |
Barry v. Rolett (2023/5/1-) | KGRI | 共同研究員 | 考古学、文化人類学、環境科学、太平洋島嶼研究、ポリネシア研究、南東中国研究 |
日野 映 (2023/7/1-) | KGRI | 共同研究員 | 臨床心理学、クイアスタディーズ、カルチュラルスタディーズ |
鈴木 彩香 (2024/1/13-) | KGRI | 共同研究員 | 日本語文法、統語論、意味論、テンス、アスペクト |