社会科学データ・アーカイヴセンター

Only available in Japanese

センター長 : 小林 良彰(法学部教授)
活動拠点キャンパス : 三田

センター概要

本センターの研究目的は、社会科学における実証分析のために緊急の課題である社会科学関連データ・アーカイヴを構築し国内外の研究者に広く寄与することである。具体的には、本研究代表者・分担者が蓄積してきた市区町村メッシュ別国勢調査、市区町村別選挙結果、選挙公約、法令判例、国会及び全都道府県議会議事録、長年にわたる意識調査など膨大なデータを補充しつつ、それらを包括するデータ管理システムを構築し、七カ国語(日本語、英語、中国語、韓国語、ロシア語、インドネシア語、マレー語)による多言語検索で留学生や国外の研究者も利用できるようにする。
本研究を通して日本政治に関する最大のデータベースとして国内外の政治学に限らず法学、経済学、社会学等の研究者に広く利用され、日本研究の基盤整備としての役割を果たすことを目的とする。また多様なデータを一つのデータ・アーカイヴに集積することで、データの融合による新たな知見を獲得することにある。なお、社会科学関連データ・アーカイヴの構築への今日的要請として、社会現象に対する実証分析は普及してきたが、今後、さらに発展させるためには実証分析に必要なデータを誰もが利用できるデータ・アーカイヴの構築が必要である。

その理由として、

  1. 一流の国際ジャーナルへの投稿に際して、論文の追試が可能なデータ公開が条件となることが多い
  2. 研究期間終了や退職に伴いデータが散逸し、研究費が非効率的に使われている
  3. 市町村合併による自治体行政資料や一定期間経過後の判例など貴重なデータが散逸している
  4. 急速に学術の国際化やデータのアーカイヴ化を推進する中で、日本に関連するデータが利用しにくいことが海外における日本研究衰退の一因となっていることなどが挙げられる。自然科学では、各学会による関連するデータの共有や基礎生物学研究所による生物遺伝資源バックアップのプロジェクトが成果を挙げており、人文学でも国文学研究資料館による日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画が進捗している。これに対して、社会科学だけが大学共同利用機関法人をもたないために、これまで意識調査データを部分的に集める程度でアグリゲートデータを含む包括的なデータ・アーカイヴが構築されずに来た。こうした問題を解決するために、日本を中心に諸外国も含めた国勢調査、選挙結果、国会及び地方議会議事録、意識調査、法令・判例などに関するデータを収集してXMLデータベースで管理し、多言語(日本語、英語、中国語、韓国語、インドネシア語、マレー語、ロシア語)検索する機能をもつデータ・アーカイヴを構築し、誰もが利用することができるようにすることが、本センターの研究目的である
  5. 内閣府日本学術会議政治学委員会政治過程分科会及び文部科学省科学研究費基盤A「政治関連データ・アーカイヴの構築と拡充」と共催して、社会科学関連データ・アーカイヴの構築と拡充に関するシンポジウムを開催し、国内外に研究成果を発表した

キーワード・主な研究テーマ

データ・アーカイヴ 民主主義 多言語検索

2019年度 事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

即応性に乏しい面接調査に替わる調査方法を検討するために、面接・郵送・インターネットの3種類の調査方法を比較検討することにより、インターネット調査と郵送調査のいずれが面接調査との間のバイアスが小さいのか、また統計的に有意なバイアスになっていないかどうかを明らかにする。もし、インターネット調査の方が郵送調査よりも面接調査とのバイアスが小さく、かつ統計的に有意なバイアスでなければ、面接調査の代替的方法としてインターネット調査の優位性が明らかになる。その上で、インターネット調査と面接調査間のバイアスを回収サンプルの属性の偏りを是正することでどこまで最小化できるかを実験する。
具体的には、過年度に実施される面接調査と同様の設問によるインターネット調査の両者の比較に基づき、
01.もし面接調査との差違が標本の偏りに伴うものであれば社会的属性(性別、年齢、居住地域の都市規模)による三重のクォータで回収サンプルをコントロールし、可能な限り面接調査の回収サンプルの社会的属性の分布に近づける。
また、02.面接調査との差違がセルフ・セレクション・バイアスによるものであれば多段階抽出法によるサンプリングを用いる。その上で、上記インターネット調査と面接調査による回収されたデータを都市規模、性別、年代、の3つを組み合わせたセグメント毎に、面接調査とインターネット調査、面接調査と郵送調査における政治意識(投票参加、政党支持、政治満足度など)に関するバイアスを推定する。
その結果、両者間のバイアスが統計的に許容される範囲であれば、インターネット調査が面接調査の代替的調査方法として確立されることになる。そのために最適となるサンプリング方法を求めることが本研究の重要な目的である。
なお、01.の場合、インターネット調査の長所はそのまま存続し、02.の場合でも抽出経費を除く実施経費や期間などの長所は存続することになる。

■2019年度の新規活動目標と内容、実施の背景

  1. 2019年第25回参議院議員通常選挙の市区町村別・候補者別の選挙結果をインストールする
  2. 2019年第25回参議院議員通常選挙に際して、全国の有権者を対象にJESⅥ意識調査を実施する
  3. 2019年度第25回参議院議員選挙に際して、第49回衆議院議員総選挙が同時に行われた場合には、同選挙の市区町村別・候補者別の選挙結果をインストールする
  4. 内閣府日本学術会議政治学委員会政治過程分科会及び文部科学省科学研究費基盤A「政治関連データ・アーカイヴの構築と拡充」と共催して、社会科学関連データ・アーカイヴの構築と拡充に関するシンポジウムを開催し、国内外に研究成果を発表する

2019年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2019年度は次の新規活動を行った。

  1. 2019年7月21日に実施された第25回参議院議員通常選挙について市区町村別・候補者別の選挙結果をインストールした。
  2. 2019年7月21日に実施された第25回参議院議員通常選挙に際して、全国の有権者を対象にJESⅥ意識調査を実施した。具体的には、参院選事前調査として7月13日~15日にJESⅥ第2波調  査を実施した。調査対象者は、全国の18歳以上の男女。投票行動研究会の指示に基づく、居住地域(ブロック)と都市規模による層化を行った上で、性別と年齢による割り当てを行、有効回収数は3000名であった。さらに、参院競事後調査として、8月2日~8月4日にJESⅥ第3波調査を実施した。調査対象者は、JESⅥ第2波調査回答者とするパネル調査であり、有効回収数は約1800名であった。なお、2019年度第25回参議院議員選挙に際して、第49回衆議院議員総選挙は行われなかった。
  3. 意識調査のマルチメソッド比較により、従来の面接調査に代替し得る調査方法を開発し、2019年度の『法学研究』で研究成果を公表した。
  4. 2019年5月1日より元号が「平成」から「令和」に替わったことに伴い、47都道府県議会議事録公開システムの多くが変更されたため、本データ・アーカイヴの自動収集システムを変更・更新して対応した。
  5. 2019年10月31日に内閣府日本学術会議課題別委員会である「オープンサイエンスの深化と推進に関する検討委員会」(於、日本学術会議)で「社会科学におけるデータ・アーカイヴの構築」を報告した。これは当初予定した政治学委員会政治過程分科会より分野横断的な全領域に本事業の成果を広めるためであり、当日、日本学術会議の山極会長も同席して熱心な討議を行った。当日の報告を踏まえて、その後、上記委員会から「提言・オープンサイエンスの深化と推進に向けての提言」を日本学術会議から発出することになり、その執筆にも参加することになった。
  6. 2020年6月22日に慶應義塾大学法学部と延世大学校社会科学大学の教員による学術交流シンポジウムを行い、本事業について紹介し、延世大学関係者から大きな関心が寄せられた。
  7. 2020年2月21日に韓国ソウル国立大学行政学大学院との共同研究の成果を踏まえたシンポジウムを開催して、社会科学におけるデータ・アーカイヴ構築、ならびにオープンサイエンス推進の方策と課題について協議する。本シンポジウムには、本センターの小林センター長の他、共同研究員の飯田健(同志社大学法学部教授)と鎌原勇太(横浜国立大学准教授)の他、ソウル国立大学行政学大学院のIm院長他、多くの教授に加えてハンガリーから2名の教授が加わって行われる。
  8. 以上を踏まえて、2019年度は事業計画を超えて、事業を達成することができた。

公刊論文、学会発表、イベントなど社会貢献の実績

公開論文数:18件
主な公開誌:The International Journal of Community Well-Being, Japanese Journal of American Studies

学会発表件数:14件(国内 6件・国際 8件)

イベントなど:ソウル国立大学行政学大学院との合同カンファレンス(Joint Conference with GSPA, Seoul National University)を2020年2月21日にソウル国立大学行政学大学院で開催

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

消費者行動や社会意識、政治意識など人間の社会行動を調査する方法としては、従来、面接調査や郵送調査が一般的に用いられてきた。しかし、個人情報保護法制定以降、調査被対象者の意識が変わり、面接調査員が訪問しても調査を拒む者が増えるとともに、最近、オートロックのマンションが増えているために、管理人が面接調査員の立ち入りを認めないために調査員が調査被対象者に会うことができないケースが増えている。さらに、消費者行動調査などで即時性をもたない面接調査から電話調査に切り替える会社が増えているために、従来のように面接調査で生計を立てることが困難になりつつあり、一定以上の報酬を支払わないと面接調査員の確保が難しくなっている。こうした要因が重なって、面接調査の経費が高騰し、文科省科研費でも特別推進や新学術領域、基盤Sなど上位の費目でないと面接調査を実施することが現実的には難しくなっている。また、上記のような事情による面接調査の回収率低下は、回答のバイアスをもたらしている。一般的には、回収率が六割を下回ると母集団と有効回答者の差異が大きくなり、調査の信頼性が疑われることになりかねない。このため、一定の回収率を確保するために面接調査の調査期間が長期化(例えば、週末を3回含む16日間など)することになり、調査開始の最初と最後の間で状況の変化が生じることもある。そうなると、長期間に回収したデータを同一に扱って分析することの問題が生じることになりかねない。このため本事業では同じ設問を用いてインターネット調査の調査結果と面接調査の調査結果の間に統計的に有意な相違が生じないような独自の多重クォータ法を開発した。その結果、本研究で実施した多重クォータによるインターネット調査は面接調査に代替し得る調査方法となり得ることになるばかりか、面接調査に比べて、インターネット調査の利点を活かして迅速な出来事に対応することができ、また安価な経費で実施できることから、大きな研究助成費を持たない若手研究者や大学院生がシニアの研究者と対等な立場で競争することが可能になる。本研究成果については、2019年10月5日に日本政治学会2019年度大会で報告し、大きな反響を呼んでいる。

所員

所員(兼担)

小林良彰 法学部 教授
伊藤公平 理工学部 教授
河野武司 法学部 教授
谷口尚子 システムデザイン・マネジメント研究科 准教授

所員

飯田健 先導研究センター 共同研究員
鎌原勇太 先導研究センター 共同研究員
慶済姫 先導研究センター 共同研究員
三船毅 先導研究センター 共同研究員