多文化市民意識研究センター(CCC)

Only available in Japanese

センター長 : 小林 良彰(法学部教授)
活動拠点キャンパス : 三田

センター概要

本拠点では、多文化世界における市民意識の動態を実証的に研究・教育する拠点を構築することを目的とする。こうした拠点が必要となる理由は、近年、グローバル化の進行とともに多くの国家・社会において多文化間の衝突が顕在化していることがあげられる。こうした状況に対し、従来の政治学では、各国の政党・政治家、官僚、利益集団といった特定の政治的社会的指導者層を主たる分析対象とし、各国の指導者間の対立を「説明」することには大きく貢献してきた。しかし、多文化間の対立は、政治的指導者層の間だけで解決できるものではなく、市民がどのような意識を持っているのかを明らかにし、その意識がどのような要因によって変化し、政治システムに影響を及ぼすのかという問題を解明することが必要になる。したがって、多文化世界における市民意識の動態の生成と変化のメカニズムを解明し、従来の政治学における主として政治的指導者層を対象としてきた研究成果と相互補完的に調査研究を進めることで、多文化共生の方向を考える拠点を形成したい。

キーワード・主な研究テーマ

政治学 社会学 法学
(市民社会)(市民意識)(多文化)(多世代)(政治過程)(比較政治)(日本政治)

2011年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

次フェーズに移行するため2010年度から継続する活動内容は無し。新規の活動については次項に記述。

■2011年度の新規活動目標と内容、実施の背景

政治改革と選挙過程に関する国際比較研究を行う。具体的には、議院内閣制による日本と大統領制により韓国の政治家の言動を計量分析し、政治制度が政策形成、特に施策刷新に与える影響を測定し、今後の日本の政治刷新への提言を構想することを目的とする。そのために、地方自治体における政治的アクターへの意識調査と選挙公約の内容分析を通じて、各地域において誰がどのように政治改革を進めているのかを明らかにする。ここでいう政治改革とは、政策形成過程および政策アウトプットに関する改革のことである。近年、「改革」を掲げた首長が続々と当選を果たしている。もはや政治過程における焦点は「改革か否か」から、「どのように改革するか」に移り始めたといえよう。しかし実際に、各自治体において、いかなる改革諸施策が選択されてきたのかは、ほとんど検証されていない。果たして施策選択パターンは、アクターの選好や選挙競争に左右されたのだろうか。本研究はこれを分析することで、有権者が託した「改革」への期待が、いかに現実へと昇華されたのかを描き出す。

本研究の背景には「改革」を掲げて当選する首長が急増していることが挙げられる。30代前半の若手や「脱相乗り」候補者らが既存政治からの脱却を主張し、有権者はその期待を託したのである。しかし当選後の彼/彼女らが、多様な改革諸施策の中から、どの施策を講じて改革を進めたのかについて体系的な研究はない。本研究では、Scharpfが提示した「入力志向の正統性」(input-oriented legitimacy)と「出力志向の正統性(output-oriented legitimacy)」の概念を援用し、改革に関わる施策を「政策的効率性に関する改革」と「政策決定プロセスの民主性に関する改革」に分類し、各自治体の改革諸施策の選択パターン(どちらに重点を置いているか)を明らかにする。さらに、自治体ごとに改革諸施策の選択パターンが異なる要因を、政治的アクターの選好の相違に求め、それを検証する。いうまでもなく、地方政府がその外部・内部に存在する複数のアクターの相互作用(たとえば首長と議会)を通じながら政策選択を行っているからである。この時、政治的アクターの選好は、アクターに対する意識調査および地方議員の選挙公約の内容分析によって特定する。先行研究の多くは「党派性」から政治的選好を推定しているが、相乗りと無所属候補者が多い首長の政治的選好を、党派性から推定することは困難である。また、所属政党が同じでも政治的選好が異なることは、選挙公約研究の成果から明らかである。したがって、施策選択を左右する自治体首長の政治的選好や首長と地方議会の選好の乖離度合は、党派性からの推定ではなく、意識調査や内容分析から特定する必要がある。さらに、中央地方関係や首長-議会間制度といった政治制度が、改革諸施策の選択に与える影響を分析するため、本研究では日本・韓国で意識調査・公約内容分析を行い、比較・検討する。政治制度が政策選択に与える影響については多くの研究が示唆しているが、意識調査に基づく政治的選好との関係を踏まえた研究はほとんど存在しない。

こうした観点から、2011年6月8~10日に韓国大田市で本センターならびに本センターと交流協定をもつ国立政治大学選挙研究センターや韓国選挙学会との共催シンポジウムを開催し、比較分析を通じて、政治制度が、アクターの政治的選好に沿った政策選択を促進したり、阻害したりするかを明らかにする。なお、本研究は文科省科研費(基盤:採択決定済)により実施する。

2010年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2010年度は、「ローカルガバナンスの分析と新たな分権システム構築」および「日本の農業支店と地域活性化・食に係る多角的研究」を実施した計画である。この内、前者は神奈川県シンクタンク神奈川との共同研究として、毎月、研究会を開催し、新たな分権システムを構想した。 また、夏の参院選時に神奈川県全域において、県立高校での模擬投票を実施するに際して、高校生の意識形成や意識変容を研究した。さらに、2009年度と併せた研究成果をまとめて刊行する。後者は、電通、日本経済新聞、NHKエンタープライズとの共同研究として、3月にシンポジウムを開催して、新しい時代の日本における食や農業のあり方を 提案する。また、食の安全に関する意識調査データを分析し、生産者と消費者双方における課題を明らかにした。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

  • 公刊論文・著書:24点
    (Yoshiaki Kobayashi and Seoung Jong Lee eds. Government and Participation in Japanese and Korean Civil Society, May 2010, Yoshiaki Kobayashi and Tobin Im eds. Bureaucracy and Bereaucrats in Japanese and Korean Civil Society, May 2010 など)
  • 学会発表件数:10回(国内6回、国際4回)
  • ローカルデモクラシー公開研究会(22年12月、神奈川県庁本庁舎大会議場)
    「食と農の環」シンポジウム(23年3月3日、日経ホール)

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

神奈川県と連携して、全県立高校で実施した模擬投票の効果測定調査を実施した。また、神奈川県が施行した受動喫煙防止条例に対する県民意識調査を実施し、それらの成果を神奈川県と共に『ローカルデモクラシーと地域力』として刊行する(2011年3月、ぎょうせい刊)。

所員

所員(兼担)

小林良彰 法学部 政治学科 教授
河野武司 法学部 政治学科 教授
澤井敦 法学部 政治学科 教授
関根政美 法学部 政治学科 教授
富田広士 法学部 政治学科 教授