構造生命化学研究センター(SU)

   

センター概要

構造生命化学は、ヘモグロビンなどのタンパク質に代表される生体高分子の立体構造を原子レベルで精密に解析することで、生命現象の理解とともに人の健康増進・疾患治療に寄与しうる科学的・社会的波及効果の大きな理工学分野の一つである。当該分野における近年の進展を鑑みると、生体高分子に関する原子解像度での構造情報が今後爆発的に増え、人工知能といった情報科学技術とタッグを組むことで、生命科学に革新がもたらされる時代に突入すると考えられる。研究大学を標榜する慶應義塾大学においても、構造生命化学を強力に推進する必要があるものの、構造解析の支援や応用的展開の触媒を担う窓口がないのが現状である。特に、タンパク質構造に基づく創薬に見られるように、医学・薬学領域との密接な連携や複数の学問領域を跨ぐ横断は必須である。そこで、構造解析経験のある研究者を含めた理工学部・医学部・薬学部の専任教員で、これまでの連携実績も考慮した「構造生命化学研究センター」を設置し、構造解析を支援するための基盤を速やかに構築することを目的とする。

2022年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

前年度に引き続き、タンパク質などの生体分子の構造解析について、教育・研究の両面で支援する。
【教育】 構造解析に関するセミナー(応用編)を実施する。特に、最先端の構造解析技術を紹介するセミナーを開催したい。
【基盤整備】 実験プロトコルや共同利用施設活用の手引きを整備する。
【研究】 センター所員が研究対象とするタンパク質やその複合体に関する構造解析を実施する。
これらの活動を通じて、学部間でのコミュニケーションをより活発なものとし、「構造生命化学」分野の基盤を構築することを目標とする。

■2022年度の新規活動目標と内容、実施の背景

結晶構造解析などから明らかとなるタンパク質の立体構造は「静的」なものであるが、水溶液中ではその構造が常に揺らいでおり、その「動的」な性質がタンパク質の機能発揮には重要であるとされている。そこで、計算機シミュレーションによるタンパク質の動的構造予測なども視野に入れ、塾内連携の拡張を図りたい。

2021年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

1年目の活動計画に基づく実施内容は以下のとおりである。

  1. 生体分子の構造解析に関する教育的セミナーの実施:タンパク質のX線結晶構造解析およびクライオ電顕による単粒子解析に関して、基礎から実際的な実験手順に至るまで、学生はもちろん教員も対象にした教育的なセミナーを開催した。ただし、センター所員の所属が複数のキャンパスにまたがっているため、日時や場所にとらわれず受講できるように、オンデマンドの動画(全9回)を作成して配信した(慶應義塾内のみで公開)。
  2. 構造解析の実施に関する「窓口」機能:生体高分子の構造解析には大型の研究設備(施設)の共同利用が必要となり、利用経験のない研究者にとっては申請などを含めて非常にハードルが高い。そこで、共同利用施設での勤務経験をもった所員が中心となり、理工学部化学科に所属する古川の研究室において実際にタンパク質構造解析を進めることで、具体的な実験プロトコルや共同利用施設の利用手順などのマニュアルを作成した。
  3. X線結晶構造解析・単粒子解析による生体分子の構造解明:立体構造が未解明のタンパク質6件について、それぞれ結晶化に成功し、共同利用施設(高エネ研)でのX線照射による回折像取得・解析を行うことで、立体構造を明らかにした。また、高分子量のタンパク質複合体2件について、共同利用施設(高エネ研・東京大)でのクライオ電顕観察にも成功しており、現在解析中である。
以上のように、構造解析に関する教育的な取り組みに加えて、タンパク質の構造解析を実際に進めることで、共同利用施設の利用方法や解析手順などを整備することができた。



■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文数:42報
Angewandte Chemie International Edition (IF=15.336 @2020), Analytical Chemistry (IF=6.986 @2020), Chemical Communications (IF=6.222 @2020) など

学会発表件数:(国内)55件、(国際)37件

イベントなど社会貢献の実績:5件

  1. BINDS-PDBj講習会「PDBから見てわかるタンパク質の最新研究」での講演(2021年9月30日、オンライン)
  2. 2021年度日本分光学会NMR分光部会「集中講義」の開催(2021年10月22日、オンライン)
  3. 国際有機化学財団(IOCF)有機化学高校生講座2021秋田大会 での講演「免疫のバランスを調節する分子」(2021年11月6日、秋田中央高)
  4. 環太平洋国際化学会議(Pacifichem 2021)にてシンポジウム"Diamond Electrochemistry"を開催(2021年12月19-21日、オンライン)
  5. 環太平洋国際化学会議(Pacifichem 2021)にてシンポジウム"Metals in Health and Disease"を開催(2021年12月21日、オンライン)

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

結晶構造解析(6件)や単粒子解析(2件)を通じて、タンパク質やタンパク質複合体の立体構造を明らかにでき、現在論文を準備中である。このような実際的な取り組みを通じて、生体分子の構造解析に必要となる実験・手続・解析の流れを整備することができ、特に、世界的に注目が集まるクライオ電顕について、我が国における現状を把握できたことは大きな成果である。

SDGs

3. すべての人に健康と福祉を3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに4. 質の高い教育をみんなに

設置期間

2021/07/01~2023/06/30

メンバー

◎印は研究代表者

氏名 所属研究機関 職位 研究分野・関心領域
◎ 古川 良明 理工学部 教授 生物無機化学、タンパク質科学
藤本 ゆかり 理工学部 教授 生物分子化学、有機化学、生体関連化学
末永 聖武 理工学部 教授 生物分子化学 (天然物化学)
栄長 泰明 理工学部 教授 光機能性材料、ナノ粒子・薄膜、ダイヤモンド電極
村木 則文
(2022/9/1-)
理工学部 准教授 蛋白質結晶学、生物無機化学、構造生物化学
高橋 大介 理工学部 准教授 糖質科学、有機合成化学、ケミカルバイオロジー
安井 正人 医学部 教授 水分子の生命科学・医学、薬理学
三澤 日出巳 薬学部 教授 神経化学・神経薬理学
須貝 威 薬学部 教授 有機化学、合成化学、触媒・資源化学プロセス、生物機能・バイオプロセス、生物有機化学
花屋 賢悟 薬学部 専任講師 生物有機化学、生物無機化学
大澤 匡範 薬学部 教授 構造生物化学、生物物理学
横川 真梨子 薬学部 専任講師 物理系薬学、構造生物化学
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