KGRI Lecture Series:(2020.1.21開催) "Using polymorphism to tune properties in organic crystals (多形を利用した有機結晶の機能制御)"
2020.01.21慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)では、国際的な研究・教育交流を図ることを目的として、最先端の研究・教育に携わる方を国内外よりお招きして講演会を開催しています。
今回は、ブリストル大学(英国)・研究助教・ジェイソン ポッティキャリをお招きして、「Using polymorphism to tune properties in organic crystals(多形を利用した有機結晶の機能制御)」と題して講演いただきます。
日 時:2020年1月21日(火)14:45~16:15 開場14:35
会 場:慶應義塾大学 矢上キャンパス 14棟 2階 部屋名称(14-202)
主 催:グローバルリサーチインスティテュート(KGRI) 創造クラスター
(共催)慶應義塾大学 未来先導基金による物理情報・応用化学・化学特別講座
言 語:英語、その後日本語で解説
その他:参加費無料、事前登録不要
講演概要:
バルク単結晶(数μm ~ 数 mm 程度の単結晶)の物理機能は, その結晶を構成する複数の構成要素(モチーフ)の相互作用により創出される. 分子が構成要素となる有機結晶は, その分子間相互作用(ファンデルワールス力と水素結合)である静電ポテンシャルを活用した機能材料の宝庫である. 目的の機能に合わせて結晶構造を制御するための技術, すなわち結晶合成技術の進化は, 有機結晶の応用可能性を大きく広げるものである.1
例えば, 医療用の製薬分野では服薬後の消化器系における吸収を高める要請がある. すなわち, 水への可溶性のある有機結晶の実現が商業的に高い価値を持つ. これに対して, 殺虫剤などの化学合成農薬の機能デザインの要請としては, 雨により農薬が作物より流されることを防ぐために,可溶性の抑制がデザインとして求められる. 一方, 電子の整流を目的とした有機半導体の分野では, なるべく低い電気抵抗率の材料2が求められる. エネルギー貯蔵に用いる高エネルギー材料は, その利用可能なエネルギーの密度の向上3が重要である. このように用途に応じて求められる機能物性は異なる.
有機結晶における多形(同一の分子/原子を構成要素として含み, しかしながら様々な異なる結晶構造を形成する固体の性質のこと)を利用した機能創出は, 科学者の挑戦すべき重要課題といえる.
現在, 機能性有機結晶の創出に多用される方法は「化学的な」アプローチである. これは, 特定の有機結晶の構造を骨組みとして(構成分子の一部の官能基などの)化学的成分を酸化・還元・置換などの化学反応を介して制御することで, 材料の機能創出を試みる. しかしながら, このような化学的アプローチでは, 分子のパッキングをいじる際に骨組みとなる構造が化学的に反応し(骨格となる分子構造内の化学結合が壊れて)機能のデザインを失敗することも多い.
これに対して, 今回紹介する物理的なアプローチは, 圧力, 外場などの物理パラメータを結晶合成に用いて,骨格となる分子の構造を保ったまま, 目的の機能を実現可能とする方法である.
液相の凝固に対して, 磁場が何らかの影響を及ぼすことは以前より知られている.4 しかしながら化学反応中の「磁場による仕事」を有機結晶構造の制御に積極的に使用する探索的な試みはほとんど報告例がない.
この講義は, 磁場下における多環芳香族炭化水素の一つであるコロネンの結晶化について紹介する.5これは, 新たな結晶構造を示す多形を, 磁石としての性質を本来持たない有機結晶に対して磁場を活用して創出した革新的な合成の例であり, 様々な有機分子結晶の機能創出可能性を広げるものである.
References
[1] Radacsi, N. et al., Cryst. Growth Des. 12, 3514-3520 (2012)
[2] Raza, K. et al., J. Drug Deliv. Sci. Technol. 39, 69-74 (2017)
[3] Sandhu, B. et al., Chem. Commun. 54, 4657-4660 (2018)
[4] Beaugnon, E. et al., J. Phys. I France 3, 399-421 (1993)
[5] Potticary, J. et al., Nat. Commun. 7, 11555 (2016)
Biography:
2017-Current, Research associate, School of Chemistry, University of Bristol
2012-2017, Doctor of Philosophy (PhD) Course, Nano science / functional materials, University of Bristol
ポスター
本件に関するお問い合わせ
有機エレクトロニクス補講未来先導基金による物理情報・応用化学・化学特別講座
神原陽一(e-mail: kamihara_yoichi[at]keio.jp)
"[at]"を"@"に変更して送信してください。