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【開催報告】MUFG×ZHD×慶應義塾が送る未来へのメッセージ 「特別対談:挑戦と変革の時代を生きる〜ワクワクする社会をつくるために」(2023.02.20開催)

2023.06.01

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KGRIでは独自の設置科目として、慶應義塾の全学生向けに企業からの寄付講座を開講している。2023年2月20日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の寄附講座「持続可能な社会に向けた『信頼』の再創造」と、Zホールディングス(ZHD)の寄附講座「プラットフォーム経済と持続可能社会」の特別イベントとして、両社の代表と慶應義塾長による対談イベントが開催された。

テクノロジーの発展を背景に、新たな価値観が問われるこれからの時代。不安ではなくワクワクする気持ちを持って挑戦し、未来を切り開いていくために必要なものは何か。ビジネスとアカデミアのリーディングカンパニーを率いる3名が、それぞれの「構想(ビジョン)」と「実践」を語り合い、学生たちにエールを送った。会場は、虎ノ門ヒルズに位置する東京屈指のイノベーション拠点「CIC Tokyo」。71名(うち大学生58名、一貫教育校生1名)が参加し、両社の若手社員によるパネルトークと、学生たちとの質疑応答も行われた。

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特別対談:挑戦と変革のトップメッセージ

分野を超えて知見を結集し、グローバル課題の解決に寄与しながら、これからの社会をリードしていく人材を育成するために。KGRIは従来の大学の枠組みにとらわれず、福沢諭吉の提唱した「実学」の精神を実践する取り組みを進めている。その一つが、企業からの寄付金によって全学生向けに開講される寄附講座だ。

このたび、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)の寄附講座「持続可能な社会に向けた『信頼』の再創造」と、Zホールディングス(以下ZHD)の寄附講座「プラットフォーム経済と持続可能社会」のスピンオフ企画として、MUFGとZHDの代表、及び慶應義塾長の3者による特別対談が実施された。

その背景にあるのは、加速するテクノロジーの進化に伴い、価値観が大きな変化を遂げつつある時代状況。

今や未来は、これまでの常識の延長を超えたところにある。私たちに必要なのは、自らの手で未来をつくっていく姿勢ではないだろうか。挑戦と変革の時代だからこそ、不安ではなくワクワクする気持ちをモチベーションに、この先の未来を切り拓いてほしい――。

未来を担う学生たちへの想いを込めて、日本の産業界とアカデミアを牽引する3名がそれぞれのビジョンを語り合った

<特別対談>
亀澤宏規(かめざわ・ひろき) 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役代表執行役社長グループCEO
川邊健太郎(かわべ・けんたろう) Zホールディングス株式会社 代表取締役社長Co-CEO
伊藤公平(いとう・こうへい) 慶應義塾長

モデレーター:山本龍彦(やまもと・たつひこ) 大学院法務研究科 教授、KGRI 副所長
総合司会:河嶋春菜(かわしま・はるな) KGRI特任准教授

20230220-2.jpg(撮影:菅原康太)

日本を代表するメガバンクの三菱UFJ銀行などを傘下に置く金融持株会社、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)と、ヤフー、LINE、アスクルなどを傘下に持つZホールディングス(以下ZHD)。両社がともに見据えるのは、時代の変化を前提に、挑戦し続ける姿勢の大切さだ。

例えば銀行の場合、堅い業種という社会的イメージを覆すような、大胆な組織変革を進めてきた。幹部やベテラン社員、若手がそれぞれの視点を生かしながら意見を出し合い、よりよい組織のあり方を考えていく。年齢や肩書きにかかわらず「新しいことをやりたい」と思う人に自由な提案の場を設けることで、チャレンジを後押しするムードが育まれてきた。

20230220-3.jpg(撮影:菅原康太)

また、テクノロジーの進化と一体となって成長を遂げてきたインターネット企業は、常に「技術を何のために使うのか」という課題と向き合い続けてきた。新聞、ラジオ、テレビなど、一定の組織力や資金が必要とされた旧来のメディアに対して、インターネットはあらゆる人が自由に発信し合う方法を通じて、「メディアの民主化」をもたらした。その大きな潮流の中で、世の中に残された不便や不自由から個人をどのように解放し、エンパワーしていくのかが問われている。

20230220-4.jpg(撮影:菅原康太)

こうした産業界の動向と呼応するかのように、大学にも新たな挑戦の姿勢が求められている。
学生や教員といった立場にとらわれず、一人ひとりがより広く自由な視野を持ち、これまでの常識を疑うこと。そして、社会に果たすべき物事の本質を追求すること。言い換えるならそれは、大学として新たな「コモンセンス」を作り出していく姿勢だ。

コモンセンスとは、社会全体で共有される普遍的な価値観。今年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会2023)でギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は、大胆な移民政策や再生可能エネルギーへのシフトなど、財政破綻からいかに国を立て直したかについて「コモンセンス、つまり当たり前のことをやっただけだ」と述べたという。ここ日本でも、組織の都合や体制維持を優先するあまり正論を棚上げにするのではなく、変化を恐れずに向き合っていく姿勢が必要ではないか。

20230220-5.jpg(撮影:菅原康太)

こうしたなかで進められているのが、企業と大学の垣根を超えた新たな試みだ。

その一例が、2018年に開設された慶應義塾大学量子コンピューティングセンター(KQCC)。銀行や自動車、機械、化学メーカーなど、様々な企業が参画し、桁違いの演算能力を持つ量子ソフトウェアの実用化を目指している。

人類が直面する数々の問題を前に、従来は分野や業種ごとに分けられていた知見やノウハウを結集し、革新的な解決策を導き出す。例えば金融や流通をはじめ、社会を取り巻くリスクを前もって予測することで、環境や労働などの負荷を劇的に減らすことができるだろう。と同時にそれは、一人ひとりがより自由に生きることのできる世の中を実現していく上でも、極めて重要なチャレンジになるはずだ。

パネルトーク:社会人として今、ワクワクすること

特別対談に続いては、MUFGとZHDより若手中堅社員が登壇し、今取り組んでいる挑戦とこれからの社会の展望をテーマにパネルトークを行った。

学生たちが今後、社会へ羽ばたいた時に、どのようなモチベーションを持って課題に取り組み、進むべき道を見つけていくことができるのか。両社の事例をモデルケースとして、より具体的なイメージを描くためのヒントが語られた。

<パネルトーク>
森井淳紀(もりい・あつき) 株式会社三菱UFJ銀行 サステナブルビジネス部
中野慶三郎(なかの・けいざぶろう) 株式会社三菱UFJ銀行 産業リサーチ&プロデュース部
渡邉友里恵(わたなべ・ゆりえ) アスクル株式会社 LOHACO事業本部 マーケティング推進 LOHACOマーケティング セールスプロモーション
中宮一成(なかみや・かずなり) アスクル株式会社 マーチャンダイジング本部 プロキュアメント戦略調達1 調達データマネジメント

20230220-6.jpg(撮影:菅原康太)

環境や社会が抱える問題に対して、解決に取り組む事業に出資を行い、よりよい未来に向けて持続的なサイクルを作り出す。その上で、金融機関が果たすべき役割は極めて大きい。一方で、事業の経済的な収益と、サステナビリティや脱炭素などの対策に必要なコストをどう両立していくか。まだ解決策のない問題だけに、まずは企業や政府など立場を超えて率直な議論を交わすこと。その積み重ねが、新たな気づきやアクションにつながっていく。

また、いつ収益を生み出すかわからない新しい技術を、長い目で支援する姿勢も大切だ。たとえ小さくとも一人ひとりの熱意が共感を生み、組織レベルで力を発揮する。その時に初めて、「自分たちの手で未来を作っていくことができる」という手応えが生まれるのではないだろうか。

一方で、社会的に意義のある取り組みを積極的に発信し、人々の気運を高めていくことも企業の役割の一つといえる。例えば、製品の製造過程で環境や労働にかかる負荷を見直し、より持続可能なサイクルを実現すること。こうして作られた「エシカル(倫理的)」な製品やサービスについて、より安価な従来品との違いを理解してもらえなければ、共感の輪は広がっていかない。

また、材料や製品と人々をつなぐ物流についても、「物流の2024年問題」が叫ばれているように、運転手の労働条件や人材不足、コスト面などの問題を解決しながら、より無駄や負荷が少なく安定したシステムへの移行が求められている。それぞれの現場が抱える課題と向き合い、不都合や格差のない仕組みをどうすれば実現できるのか。話し合いと調整を繰り返すなかで、お互いに「もっとよくできる」というマインドが育まれ、組織を超えたワクワク感が生まれるという。

質疑応答:学生と語り合う未来のビジョン

特別対談とパネルディスカッションの場では、会場での挙手やオンラインを通して、活発な質問が寄せられた。壇上の対談者3名と若手社員たち、学生との質疑応答の中から一部を抜粋して構成する。

20230220-7.jpg(撮影:菅原康太)

まずは「ワクワクするものに出合う方法、そこへ至る要素をどう見つければいいか」という質問。

ヒントとして提示されたのは、インターネット黎明期の1995年に慶應義塾SFC(湘南藤沢キャンパス)で初めてインターネットに触れ、未来を感じたという体験談。新聞で目にしていたインターネットという言葉に対する「何だろう?」という好奇心が、実体験のインプットを通じて自分自身に変化をもたらし、「自分でもやってみよう!」というアウトプットにつながることでワクワク感が生まれたという。

ただし、同じ物事を前にしても、ワクワクできるかできないかは人によって異なるはず。また、ワクワクする新発見は必ずしも突然訪れるわけではない。「自分は何にワクワクできるのだろう?」という興味を持って知らない物事に目を向ける姿勢、その積み重ねが大切ではないだろうか。

20230220-8.jpg(撮影:菅原康太)

また、「学生の間でもっとアントレプレナーシップ(起業家精神)が高まるよう支援してほしい」という要望に対しては、学生個人のマインドセットだけでなく、起業を積極的にバックアップするコミュニティの大切さが語られた。

たとえ失敗しても、その経験は必ず次につながるはず。そのために、起業経験者を別のプロジェクトに迎え入れたり、再挑戦を後押ししたりするセーフティネットが大きな力を発揮する。大学と産業界が連携し、大学発スタートアップのさらなる支援体制に向けて力を合わせていく必要があるだろう。

20230220-9.jpg(撮影:菅原康太)

今後のビジネスと社会課題との関係については、「ESG経営(Environment、Social、Governance/企業の社会的責任や価値を重視した経営のこと)という言葉を実績のために利用する企業がある反面、社会課題の対策のために利益を犠牲にする考え方も持続的ではない。どうすればよいか」という質問が寄せられた。

社会課題の解決とビジネスの両立は、まさに今の企業が抱える二律背反の大きな課題といえる。特に環境問題に関しては、どの企業も今すぐ行動しなければ、いずれ人々からの信頼を失いかねない。社会全体でサステナブルなビジネスの仕組みをどう打ち立てていくか、大企業からスタートアップまでが抱える大きな挑戦といえるのではないか。

20230220-10.jpg(撮影:菅原康太)

アンケート回答:垣根を超えた共感の記録

加えて、イベント後にはオンラインでアンケートも実施された。大学生、一貫教育校の生徒、父母や教師など多種多様な参加者から寄せられた回答の一部を紹介する。

(特別対談について)「それぞれに理系のバックグラウンドを生かし、今後の産業や投資についてのお話の盛り上がりが大変興味深かった」(大学生/環境情報学部)

「若手の社員の方々が、イキイキと自分の仕事についてお話しされていて、本気で自分の仕事に誇りを持っているのだと感じられた。また、自分がやりたいことや、こうあるべきだと思うことを発信する姿勢を大切にしようと思った」(大学生/法学部)

「伊藤塾長の『コモンセンスに従って行動する』という言葉がとても印象に残りました。大学生になり、様々なものに触れるなかで、自分が何をしたいのか迷うことがあります。そういったときこそ、この言葉を思い出して行動してみようと思います」(大学生/法学部)

(KGRIに期待することについて)「企業×教育で創発されるものを中学生にもわかりやすく紹介できるように、教員も学びが必要だと感じました。また、企業も学校という学びの場に軸足を置いた活動ができれば、ともに人をつくる環境として多世代・異種の共創ができるのではと思いました」(教員/慶應義塾中等部)

20230220-11.jpgパネルトーク後には、自由な話し合いの場としてオープントークも行われた。
(撮影:菅原康太)

2023年2月20日 CIC Tokyoにて実施(対面+オンライン形式)
※所属・職位は実施当時のものです。